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世界と人と神と  作者: 春藤優希
4/7

ただいま、と言える場所


お久しぶりです。


***

 ~???視点~


 「引き続き、あいつらを監視しろ。報告を怠るな。」

 鎧を纏った男は窓から空を仰ぎながら、口を開く。

 「かしこまりました。…ひとつ、よろしいですか?」

 「なんだ。」

 報告をしていた若い男が遠慮がちに顔を少し上げて続ける。

 「あなたは彼女を、どうする…「早く行け。」

 若い男が言い切る前に鎧を纏った男が遮り、ギロリと若い男を睨みつけた。若い男は少し怯んだがすぐに、

 「……………かしこまりました。」

 と、言い部屋を後にした。

 扉を閉める音が響き渡れば、鎧を纏った男は鼻を鳴らし、

 「…俺は…―――。」

 少し悲しげな声を出した。


***

 〜月綾視点〜


 わたしの右隣には美花めいふぁが、美花の隣には隣花りんふぁちゃん。わたし達の前を歩く蒼翠みどりちゃんと蒼空そらさんとあおいちゃん。そして、わたし達の少し後ろで鼻を啜っているひなたさん。みんなで村の湖から離れ、家までの道路を辿っているとふと、蒼翠ちゃんが思い出したかのように言う。

 「…えー。みんなお疲れのところ悪いんだけど、私急用を思い出したから、蒼空連れて先に帰っていいかしら?」

彼女は蒼い髪を揺らしながら、近くにいた黒髪の男性―――蒼空さんの腕をがっちりホールドしている。その様子を見てわたしの前を歩いていた儚げな女性―――葵ちゃんは、こう言った。

 「例えダメ、と言ってもあなたは帰りますよね?」

 少し意地悪な笑顔を浮かべて、「どうぞ、先にお帰りください」と。

 その言葉を聞いた蒼翠ちゃんは、困ったような笑みを浮かべつつ、

 「いやー、さすが葵。私のことよく解ってるわね。」

 そう言われた葵ちゃんは心なしかとても嬉しそうで、哀しそうな顔をしていた。それでもすぐにいつも通りのにこやかな顔になって、

 「お疲れさまでした。」

 と言ったので、わたし達も続けてそう言う。

 「「蒼翠ちゃん、お疲れさまっ!!」

 「蒼翠、お疲れ。」

 「えっと…。お疲れ様です。」

 陽さんも間が空いてから続いた。その様子を見た蒼翠ちゃんも

 「みんな、お疲れさま。今日もありがとう。」

と、言った。

 その後、蒼空さんを連れて行く蒼翠ちゃんの後ろ姿を見ながらふと、疑問を抱いた。

 「…なんで蒼空さんを連れて行くんだろう?」

 わたしのその疑問に、凛としたアルトの声が響く。

 「それは【契約者】の特権、というものでしょうか?その身に負荷が掛かる分、【召喚獣】が特別な力を貸してくれるのです。蒼空の場合【瞬間移動】という能力なので、そのためです。」

 葵ちゃんは物知りで、わたし達が判らないことをいつも教えてくれる。今回みたく、急なさらりと疑問にもさらりと答えてくれる。

 【瞬間移動】の能力は自分が思い描いた場所に行けるらしい。だけど、その間に使う力が大きすぎてそんなに使えないらしい。そして、思い描くのは具体的にしないと全く違うところに行ってしまったりするんだって。一回蒼翠ちゃんと葵ちゃんと蒼空さんで変なところに行ってしまって大変だったと、葵ちゃんは苦笑いを浮かべていた。

 そこで、【契約者】が使えるものだから【契約者】である葵ちゃんも使えるのかと訊いてみることにした。

 「そうなんだ…。じゃあ、葵ちゃんも何か使えるの?」

 わたしの問に葵ちゃんは少し間を空けてから、

 「そう…ですね…。わたくしの【召喚獣】は少々扱いづらいものでして、どんな能力か教えてもらえないのです。」

 と、少し悲し気に目を伏せた。葵ちゃんの様子から訊いちゃいけなかったことかと思い、すぐに謝ろうとしたが、わたしのすぐ横から元気な声が響く。

 「【召喚獣】と会話ってできるの!?ねぇねぇ、どんなことを会話するの?」

 目をキラキラさせて葵ちゃんの許に走り寄る美花。葵ちゃんは、「そうですね…」と言い歩きながら、美花と話を進めていた。時折、美花が「ふぇ!」みたいな声を挙げていて少しわたしも気になったが、美花の顔が結構青ざめていたので、聞かなくてよかったとすぐに思った。

 (葵ちゃんって綺麗な顔して、結構グロイことをさらりと言うんだよね…。)

 目の前を歩く顔を青ざめた双子の妹とそれでもにこやかに話を続ける女性の後ろ姿を眺めた後、少し後ろを振り返る。とぼとぼといった感じで後ろを付いてくる黒髪の少年。

 先程の『任務』で保護した少年だったが、わたし達の到着よりも早い段階で皇国軍が行動を起こしたため、彼の故郷までは助けることができなかった。

 蒼翠ちゃんは先程、彼に深々と頭を下げ、謝罪していた。その様子を下を向きながらわたしは思い出していた。


***

 「ところで、陽。…ごめんなさい。」

 「えっ?」

 蒼翠ちゃんは急に立ち止まり、陽さんに向き直り、頭を下げた。急な出来事に陽さんが慌てていると、蒼翠ちゃんが口を開く。

 「あなたの故郷を守ることが出来なかった、私は村人の命という大きな代償を払わせてしまった。これは私の責だわ。本当にごめんなさい。」

 蒼翠ちゃんは苦しげな顔で、唇を噛み締めていた。でも蒼翠ちゃんの言う通り、彼には大きな代償を支払わせてしまった。わたしもそのことに対して、謝ろうとした。

 「わ、わたしがあの時―――!」

 が、わたしの言葉を遮るように蒼翠ちゃんは

 「ただの言い訳になって見苦しいけど、あの時私がもう少し早く気づけたら…。「もう、いいです。」

 蒼翠ちゃんが続けていた言葉を今度は陽さんが遮った。

 陽さんの顔は泣きつかれた感じの顔で、見ていて苦しかった。彼はその表情のまま蒼翠ちゃんに、

 「あなたがいてくれたおかげで村長たちの真意に気づけたし、最期に会うこともできました。俺一人じゃ、多分どうしようもできなかったので、お礼を言うのは寧ろこっちです。…ありがとうございました。」

 その言葉とともに大きく礼をして。その様子を見て、言葉を聞いて蒼翠ちゃんが言った言葉は、わたし達も聞いたことがあるものだった。

 「そう言ってもらえると嬉しいわ、だけど。―――あなたは強すぎるわ…。辛いときは辛いって言えるくらいに、弱くなりなさい。」

 もう一度頭を下げた後に、陽さんの頭をポンポンと撫で、先を歩いて行った。その言葉を聞いていた陽さんの目の淵には、また涙が溜まっている気がした。

 そんなことが20分くらい前にあった。

***


 彼の気持ちは深いところまではわからないけど、大切な人と大切な故郷を失うという悲劇の重なりで、ものすごく辛いと思う。だけど人見知りをする口下手なわたしは―――彼の痛みをまだ半分しか理解できないわたしには、なんと声を掛ければいいか解らなかった。

 「月綾、どうかしたのか?」

 わたしがうんうんと悩んでいれば、右横から声が響く。首を上げれば石楠花色の髪をひとつに結わいた隣花ちゃんだった。

 「隣花ちゃん。…えと、陽さんのことで…、なんて声を掛ければいいかなって…。」

 「陽、か。…ああいうのは時間がどうにかするものだから、放っとけ。」

 隣花ちゃんは後ろを歩く陽さんをちらりと見た後、すぐに前を見据えて言った。迷いのないどこか悲しげさを漂わせながら。

 その様子を見てわたしは思い出す。彼女も兄を亡くしていると、美花から聞いた話を。そんな経験をしている彼女だから言える言葉なんだろうと思った。

 「そっか…そうだよね。」

 わたしが声を出したとき、

 「りんーっ!!」

 美花が勢いよく抱き着いてきた。急なことと、勢いの良さにバランスを崩して後ろの方に重心が大きく傾き、倒れそうになる。が、

 「っと。」

 と、と言う低い声が耳元で響き、直に人の熱が伝わってきた。顔を動かせば、ドアップの陽さんの顔。とっさに理解できなかったわたしはぽかんとしたが、美花の声で我に返り慌てて立ち直りお礼を言う。ただ、全身がカッと熱くなり、顔に熱が集中するのが判った。

 「す、すみません!ありがとうございます。」

 「…いや、別に。」

 陽さんは顔をプイッと背けてしまったが、寧ろその方が良かった。自分でもわかるくらいに顔が紅いから。紅いままの顔をどうにか冷まそうとしていたら、

 「ちょっと、バカようりんに触れといて、何その反応!?」

 美花が結構な声で、喚き始めた。陽さんもバカという単語に反応して、勢いよく振り返り、

 「はぁあ!?助けてやったのに何その反応!信じらんねぇ!!」

 「別に助けて何て一言も言ってないし!!っていうか何その態度?恩着せがましい!!」

 「ちょ、ふ、二人とも落ち着いて…。」

 わたしの制止の声なんて聞こえるはずもなく、二人の言い争いはヒートアップしていく。その様子を見た隣花ちゃんが、

 「何やってんだよ、あいつらは…。」

 と、ため息を吐きながらスタスタと先を歩いて行って、葵ちゃんと話に行ってしまう。わたしはオロオロとしながら二人の様子を見守ることにした。だけど、数分後それを激しく後悔した。

 馬車に乗って帰る途中も言い争う二人。引き手さんにはとても申し訳なかったし、兎に角後悔した。あの時なんでバランス崩したんだろうと…。

 そうこうしている内に家の前に着き、この状況のまま家の中に入った。扉を開け、玄関のすぐ近くにある部屋の戸を開ければ、ソファにぐでっとした格好で凭れ掛かる蒼翠ちゃんの姿が目に入る。その姿のまま蒼翠ちゃんは、こちらを見る。

 「ああ。みんなおかえりなさ…い…って、どんな状況よこれ。」

 蒼翠ちゃんの第一声はこれだった。確かにこの状況はいかがなものかと思う。だって…。

 「バカようりんに近づかないで!半径1㎞内に入ってこないで!!」

 「はぁあ!?何でだよ、ってか!半径1㎞ってアホだろ!お前ちゃんとわかってんのかっ?!」

 「はぁあ?!解ってますぅう!解った上で言ってんのくらい解れよバカよう!!」

 ぎゃあぎゃあと喚く感じに言い争う二人。隣花ちゃんは呆れ顔で顔に右手を、腰に左手を当て下を向いて「はぁ」とため息を吐いていた。そしてその横では笑顔を崩さないままの葵ちゃんが微笑ましそうに眺めている。蒼空さんは蒼翠ちゃんの隣で楽しそうに笑っている。蒼翠ちゃんも愛おしそうに見ていたが、あまりにも長く続く二人の会話にふと、冷たい笑顔を浮かべる。その顔を見た瞬間わたしの心臓はヒヤッとした。その顔に気づいた蒼空さんも何とも言えない表情を浮かべている。それに気づかないままの美花、そして蒼翠ちゃんの怖さを知らない陽さんに、

 「ふたりとも―――。」

 まずその声に反応した美花がピタリと止まり、一瞬で顔が青ざめ冷や汗をかき始める。心なしか肩と足も少しカタカタと震えている。その美花のあまりの変化に陽さんも何かを察し始める。だけど、少し遅かったかな…。

 「いい加減に、し、ろっ!!!!!!」

 普段の蒼翠ちゃんからは想像もできない大声に加えて、目が全く笑っていないのににこやかな蒼翠ちゃん。ついでに【武器召喚】で出した大鎌を、家の壁にダンっという音を立てて突き刺す。鎌が突き刺さった壁は周囲がボロボロと抉れていた。その様子に葵ちゃんが「ふぅ」とため息を零す。

 「陽。あなたももう家族だから、遠慮なく怒るから覚悟して頂戴。それと、美花。私前も言ったわよね?あなたはすぐに目の前が見えなくなるって。」

 大鎌をしまった蒼翠ちゃんは、にこっとして二人に近づき…。

 「座りなさい?」

 と、真顔で言って二人を座らせる。二人はすぐに正座をする。そして、暫くの間二人は正座をしたまま蒼翠ちゃんに説教されていた。

 今回は1時間で終わった恐怖の説教を終えた美花はわたしにべったりとくっつき涙を薄っすらと浮かべ、陽さんは魂が抜けたような顔をしていた。

 わたしは美花の背中をなでなでしながら、

 「もう、ケンカしちゃだめだよ?」

と言ったら、すごく小さな声で

 「……もん。」

 美花が言った言葉が聞こえず、「え?」と聞き返しても美花は「なんでもない」と言って、にこーっと笑った。そしてその後に

 「…綾はあたしから離れない?」

と、訊いてきたので

 「もちろん!!」

と言ってほっぺに軽くちゅっとした。美花はぎゅうっとわたしを抱きしめてきた。

 ご飯を作りに2階に上がろうとしたとき、

 「蒼翠…。怒るのは別に構いませんが、壁を壊すのはやめてください。この壁、誰が直すと思っているのですか?」

 ふいに聞こえた葵ちゃんの声。その声の後に

 「ああ、ごめん葵。いつもお手数をおかけいたします。」

 と、言う蒼翠ちゃんの声と蒼空さんの笑い声と葵ちゃんの呆れたようなでもどこか優しげな声が聞こえた。

 (あの3人、仲良しで羨ましいなぁ。)

 なんて思いながら、階段を上がり夕飯の準備に取り掛かった。


***

 ~美花視点~


 りんは絶対あたしから離れていく。陽といるときのりんの顔を見て確信した。双子だしずっと見てきたからわかる。

 りんは別に惚れっぽいって訳じゃないけど男に対して免疫がない。

 (だからずっと頑張って妨害してきたのにな…。)

 あたしの今までの頑張りを無駄にした陽にいい印象を持てないし、綾のことを邪険するところでも大嫌いだ。

 でも、これがあたしのエゴだっていうのは一応理解してるつもり。大切な人の幸せ。それが一番って解ってるから。…なのに、やっぱり綾の隣にいるのは自分だって信じてたからまだ受け入れられないし。

 まだ綾が自覚してないし、陽自身も綾には恋愛感情を持ってないから…。多分今陽が気になっているのは―――。あたしは先程まで説教をしてきた人物を思い出す。

 そんなことを考えていれば、

 「もう、ケンカしちゃだめだよ?」

なんていう愛おしい声が聞こえてくる。だから、それに対して、

 「だって、綾が取られちゃうんだもん。」

 すごく小さな声で囁いたから綾には聞こえなかったようで「え?」という可愛らしい声が聞こえてきた。

 (聞かなくていい、綾には一生解らないから…。あたしの想いなんて…。)

 「なんでもないよ!ねぇ、綾はあたしから離れない?」

 答えの決まっている質問をした。そうすればわたしの望む答えとともに、ちゅっというリップ音が聞こえた。

 (…嘘つき…。)

 そう、思ったのはあたしだけの秘密。


***

 ~陽視点~


 蒼翠さんの説教が終わった後、隣花さんに連れられて部屋の案内をしてもらい1階の部屋を貸してもらった。ベッドなどの必要最低限は置いてあり、俺はすぐにベッドにダイブする。そして、説教が終わった後に蒼翠さんが俺の耳元で言った言葉を反芻する。すごく優しい声で暖かい声を思い出いながら。


 「ねぇ、陽。ただいま、って言えるところがあるのってとても『幸せ』なことだと思わない?」


 確かにそれは幸せなことなのかもしれない。だけど人はだんだんそのことが当たり前に思えてきて、その幸せを忘れてしまう。

 俺は右手を目の上に乗せながら、声を出す。

 「―――人はいつから『幸せ』を『日常』にしてしまったんだろうな?明日もそれが続くとは限らないのに…。」

 

 


***

 ~???視点~

 キミにもう一度逢えるなら、この手が穢れててもいいと思った。ただもう一度言葉を交わすことができるなら、悪になってもいいと思った。

 キミの笑顔を見るためにボクは…。

 「この手を紅く染めるよ…?」




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嫉妬する子ってとても可愛く見えてしまうし、人間ぽくて好きです。

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