きっとこれも必然。
迷走した。
というか、よくわかんない。情景とか全く読んでて浮かんでこない!!
申し訳無さすぎる。
誤字とか日本語おかしいところは見逃してください。日本語って難しいです。
~月綾視点~
「うわぁあああああああ!!!!」
絶叫に似た低い声で気が付く。その声に気が付くと、暖かさが伝わってくる。どうやらわたしは、気失ったあと蒼翠ちゃんが背負っていてくれてみたいだった。
「っう、…蒼翠…ちゃん?」
「!!…ああ、よかった!目覚めなかったらどうしようかと思っていたわ。」
蒼翠ちゃんは動いていて、鎌を振り回している。落ちないようにギュッと掴まる。暫くして動きが止まる。一段落したのか、わたしを降ろし「気分はどう?」と聞いてくる。わたしはふらっとする足で、立ちながらも大丈夫と、呟いた。
わたしの目の前の光景はまるで地獄と見間違うように残酷だった。無残に積み重なった村人であったあろう人たちの遺体。逃げ惑う鶏たち。焼かれて崩れ落ちた家。鼻を擽る血の臭いと焼け焦げた臭い。まるで、人を“人”とも思わないような仕打ち。
「っ!!ひどい…。」
思わず零れた言葉を聞いた蒼翠ちゃんは、鎌についた血を丁寧に拭きながら、
「そうね、これが皇国軍のやり方よ。…ほんとにどれだけ苦しめれば気がすむの…。」
と、静かに怒りを露わにしていた。その普段の顔からは想像できない怒りの顔にビクッとした。でも彼女の目の前に倒れている兵士たちは皆、峰打ちなのか気を失っているだけのように見える。血が流れている兵士がいても、それは重症ではない。そこから相変わらず彼女の人の好さを感じられた。
わたしはきょろきょろと顔を動かし、周囲を見た。でもそこに探している人の姿はない。わたしが何を考えているのかわかったかのように、蒼翠ちゃんが口を開く。
「陽くんなら、このさきにいるわ。でも…。」
口を濁す蒼翠ちゃんに何があったか訊こうとしたとき、
「蒼翠!!月綾!!」
優しいメゾソプラノの声が響く。蒼翠ちゃんは驚いた様に振り返り、わたしも振り返る。そう、声の主は…。
「葵ちゃん!!?」
「葵?!」
葵ちゃんだった。さらさらの長い黒髪を揺らしながら、こちらに向かってくる。
「無事で、よかったです。」
はあ、はあと肩で息をしながらわたし達の無事を確認した葵ちゃんに、わたし達は驚きを隠せなかった。蒼翠ちゃんが口を開くよりも先に葵ちゃんが口を開く。
「馬車で指定された場所に行く途中で、『リヴァイアサン』の力が暴走する気配がしたので、合流しようと思いこちらに…。もうすでに、『リヴァイアサン』は主の精神を乗っ取りはじめています。早くしなければ、『大海嘯』の詠唱が終わってしまいます!!」
葵ちゃんは矢継ぎ早に言う。
「やっぱり彼は、【契約】していたのね。ふぅ、めんどくさいことになったわね…。」
わたしは葵ちゃんの言っていることが理解できなかったけど、蒼翠ちゃんは葵ちゃんの言うことを理解し、納得したように右手を顎に添え考え始める。うーんといいながら頭を左右にゆっくり振る。そして、落ち着いた様子で気づいたように言う。
「…そういえば、蒼空たちは?」
「…遅いので、置いてきてしまいました…。」
「「「………。」」」
わたし達の間に変に沈黙が訪れる。微妙な空気と蒼翠ちゃんの苦笑いが流れる。そのとき、
「葵、あんた、足、はっ、はぁ。はや、すぎ…。」
苦しそうに喋る茶髪の褐色の男性。膝に手をつきながら切らした息を整えている。ただその両の手には、双剣が握られていた。彼は息を切らしながら、話し始める。
「葵が、先に行ったあと、隣花と美花は、後から追いかけるっていうか、ら。先に、追いかけてた、ら、急に、【魔物】に襲われるし。はぁはぁ。…戦ってるうちに、見失うし…。」
「…それは、申し訳ありません。」
未だ息が整わない男性ーーー蒼空さんに、申し訳なさそうに頭を軽く下げる葵ちゃん。そんな辛そうな様子の蒼空さんを見て、顔色を全く変えずに蒼翠ちゃんは、
「蒼空…。疲れてるところ悪いけど今すぐ、美花達、迎えに行ってきて☆」
にこやかな顔で酷いことをサラリと言う蒼翠ちゃん。その言葉にポカンと口を開ける蒼空さん。
「やっ、まっ……。」
「…お願いね?」
待って、と言おうとした言葉も遮られ、しかも蒼翠ちゃんの怖い含み笑いに何も言えなくなる蒼空さん。結局何も言わずに、
「………行ってきます。」
渋々と来た道を駆け足で戻りだした。その様子を見届けた蒼翠ちゃんは、わたしに向かって口を開く。
「月綾。…“祈りの唄”を、彼の為に唄ってくれないかしら?」
“祈りの唄”は失ってしまった心の一部を取り戻すために【歌姫】が唄う第一楽章。これは、生者に捧げるものであって、【歌姫】を先代から受け継ぐときに最初に覚える唄でもある。基本的に、この唄を唄うことが多い。
わたしは、もとよりそのつもりだったが、首を傾げながら疑問に思ってたことを言う。
「えっと、唄うのは構わないけど…。【契約】とかって、何?」
わたしの疑問に対し蒼翠ちゃんではなく、黒髪を結い上げ途中の葵ちゃんが口を開く。
「【契約】は、【魔法】を使うことが出来る人間が、神の力を授かりし【召喚獣】と呼ばれる存在が出す試練に打ち勝ち、血の契りを交わすことです。【契約】を結ぶことで巨大な力を得ることが出来ます。しかしその力に飲まれ、自我を失い全てを破壊しようとするときの状態を“暴走”と言っています。暴走は、【契約】している人間にのみ起こります。そして一度、血の契りをしたら主である人間が、試練に打ち勝った時にもらうアクセサリーを壊さない限り、永遠に【契約】は続きます。が、主が亡くなったらその【契約】をしていた【召喚獣】も死に至ります。その他にも多々決まりごとはありますが、それは時期を改めましょう。今知るべきな事は、【召喚獣】と人間がリンクすることで使える大技みたいなものがあります。それが今、詠唱中なのです。今回の場合、陽さんという方が【契約】なされているのは、水の龍神である『リヴァイアサン』ですので、このままだと…ここら辺一帯は巨大な津波によって、地図上から消え去るでしょう。」
すらすらと言葉を言い簡潔に教えてくれた葵ちゃんは、最後にさらりと怖いことを言った。髪を結い終えていた彼女は、歩きだし、わたしと蒼翠ちゃんはその後を追う。そうすると見えてきた一人の黒髪の少年と、その近くで倒れる三〇代くらいの人の遺体。それから、鎧を着た兵たちの狼狽える姿。
黒髪の少年―――陽さんは水に包まれながらも、口を動かしていた。その口の動きが止まれば、打ち放たれる水の【魔法】。それを軽く躱した葵ちゃんは【武器召喚】で圏を取り、ちゃきりと構える。
「随分力が強い子ですね。今は意識は『リヴァイアサン』に乗っ取られていますね。それに…。大分詠唱が進んでいますし、巨大な力に引き寄せられた【魔物】たちの気配も近づいています。」
そう言って葵ちゃんは、苦しそうに顔を歪めた。そして、わたしの顔を見て、「お願いしますね。」とか細い声で言った。その顔に、びりびりと肌にくる力の強さに止められることが出来なかった時のことを想像して、背筋がぞくりと震える。そんなわたしの手を取り、蒼翠ちゃんが目線を合わせて、
「月綾。…大丈夫よ、いつも通りに“想い”を、唄いなさい。あなたなら、彼を止めることが出来るわ。彼を、救ってあげて?」
優しい声が耳に届く。その言葉に胸がギュッとなって、
「……うんっ!!」
大きく返事をした、そのとき。
「綾ーーーーー!!!!!」
透き通る無邪気な声が聞こえた。後ろを振り返れば、金交じりの銀髪をオールバックのポニーテールにした少女と、石楠花色の髪を揺らす褐色の大人っぽい少女の姿と、疲れ果てた顔をした男性の姿。そう、美花と隣花ちゃんと蒼空さんだった。
「蒼翠、葵、月綾。無事でよかった。」
「も、まじ、…死ぬ…。」
ほっと息をつく隣花ちゃんと、すぐさまわたしに抱き着いてくる美花。口元を抑えながら、苦しそうにしている蒼空さん。
蒼翠ちゃんは全員が揃ったことを見て声を発する。
「これで、全員揃ったわね…。任務内要を変更するわ。陽・カイルムを暴走から救出し、保護するわ!葵、蒼空、隣花は迫りくる【魔物】の討伐。美花は三人の援護、月綾は唄を―――!」
「「「「「「…了解!!」」」」」」
蒼翠ちゃんの気迫のある声にみんな声を上げる。こんなときやっぱり蒼翠ちゃんは、統率力があるなって改めて実感した。わたしは、唄を唄いはじめる。彼の心に届くように、彼の失ってしまった感情を呼び起こすために。
ーーー優しい優しい祈りの唄を…。
『そっと すくいあげて?
零れ落ちてしまったココロを
忘れてしまったココロを
あなたが忘れてしまってもわたしは覚えているから
あなたの優しさ あなたの笑顔 あなたの愛
だから ねぇ もう一度声を聴かせて?
あなたの痛み 苦しみ 全部分かち合おう?
あなたは独りじゃないよ
あなたがわかるまでずっと傍にいるから
ねぇ わたしの手を取って
あなたを何度だって迎えに行くから
あなたに何度だって声を掛けるから
あなたの為だけにわたしは唄う
暖かい 祈りの唄を―――』
唄い終えた後、サァーという軽やかな音を立てて陽さんを取り巻いていた水が消える。ガクッと崩れ落ちそうになる陽さんの身体を近くにいた蒼翠ちゃんが支えた。そして、悲しそうな顔をしながら
「よく、頑張ったわね。」
と、まるで小さい子をあやすかすように優しい声で、頭を撫でてあげていた。その顔に何か淋しさを感じた。蒼翠ちゃんは、彼を担ぎこちらに来て、丁寧に彼をわたしの近くに置いた。
***
~陽視点~
なんとなく聴こえた唄声で気が付く。その声はとても優しくて、暖かくて…。でも、よく聴こえないのが残念だった。
薄っすらと目を開ければ、なんもない真っ白な空間だった。でも小窓のようなものがあって、そこからは『外』の景色が見える。でも、靄がかかっていてよく見えない。
(あれ、ここどこだ?…俺、ここを前にも見たことがある気がする。でも、いつだっけ?)
覚束ない頭で考えても、答なんて出てこない。代わりに溢れてくる力が心地よくて、人を―――村の人間を殺した奴らを殺せることが快感で。俺はもっと、もっと力を求めた。すると、その想いに呼応するかのように声が聞こえた。
「もっと、俺に力を寄こせ!リヴァイアサン!!」
そう言えば力が過剰に注ぎ込まれる。その巨大な力と人を殺せる力に身体を震わせていたら、悲しそうな怒っているかのような声が俺の頭の中に響いた。
『…お前が弱いから、“また”大切な人を護れなかった。』
頭を振りかぶりその声をかき消そうとする。それでも響く声。
『…お前は、“また”我に負けるのか?恨みで、力を欲するのか?なんと、哀れな。』
(違う!!違う!!俺は……。)
そのとき、さっきより確実に聴こえた透き通り胸に響く唄声。その声がとても哀しそうで…。忘れようと思っていた少女の顔と、俺を受け入れてくれた男性の顔が思い浮かんだ。
「ーーー約束ね、陽!」
「ーーー生きろ、陽。」
いなくなってしまった俺の大切な人達。俺は誰も護れずに、“また”力に溺れる。そんな俺を見て、彼らは何を思うのだろうか?
(きっと、叱責するんだろうな…。)
力なんかに頼らないくらいに、俺は強くなりたい。誰かを護る力は、きっと―――。
「リヴァイアサン。俺は、もう大丈夫だ。もう、迷わないから…。」
『……それでこそ、我が主だ。ーーーおかえり。』
そんな優しい声が聴こえれば、俺は小さな窓に手を伸ばした。胸元のペンダントの光が俺を包んだ。
(誰か、俺を赦してくれ。この手を…取ってくれ…。)
***
〜月綾視点〜
唄い終わった後、暴走がひとまず落ちついた陽さんの近くに座り、彼を膝に乗っける。周りでは隣花ちゃんや葵ちゃん、蒼空さんが強い力に群がってきた【魔物】を散らしている。美花はわたしの隣で、蒼翠ちゃんはわたし達を守るように盾になってくれている。だけど少しずつ蒼翠ちゃんが、座り込み始めていた。
そんな中、
「う、あぁあ。」
「陽さん?」
陽さんが呻きながら手を伸ばす。わたしはその手をギュッと掴んだ。とにかくその顔があまりにも苦しそうだったから、
「陽さん!!戻ってきてください!」
そう叫べば、
「……お前…は?」
弱弱しい声で、身体を起こし、頭に手を置きながらわたしの顔を見つめてくる。隣に居た美花がお前と言ったことに対してか「はぁ!?」と、すっごく不機嫌そうな声で呟いたのは聞かなかったことにしておこう。
「月綾ですけど…?」
「ああ、あの小さいビビりか…。―――。」
「へ?」
わたしが名を名乗れば、だいぶ酷いことを言われたが、ふと抱き着かれて耳打ちをされた。わたしが一瞬のことで理解できないでいると、
「誰が、チビだって!?ってか、綾から離れろ!!!」
と言って、物凄い勢いで美花がわたしを引っ張る。結構強く引かれたので、美花に寄りかかるような格好になっている。陽さんは何もなかったように立ち上がる。が、まだふらつくようで、身体の軸がグラッとしていた。それを、たまたま近くにいた蒼空さんが受け止める。
「…っと。大丈夫か?あんまし無理しない方が良いぜ?暴走した後は、身体が辛いからな。」
「…す、すみません…。」
蒼空さんは蒼翠ちゃんと同じような顔で、頭をポンポンした後、わたしに向かって
「月綾、お疲れ様!相変わらずすげぇな、お前は!」
と笑顔で言い放ち、わたしと美花の頭もポンポンして蒼翠ちゃんに声を掛けていた。
「……蒼翠、大丈夫か?」
「え、ええ。…大丈夫、よ?」
蒼翠ちゃんに声を掛ける蒼空さんの声はわたし達に掛けるよりとても優しくて、二人の仲の良さが伝わってくる。わたしは美花に寄りかかっている態勢のまま蒼翠ちゃんを見る。ただ蒼翠ちゃんの顔は先程と違い、真っ白になっていた。その顔に思わず、
「蒼翠ちゃん!?」
と、大きい声を上げる。蒼翠ちゃんは、座り込みながら辛そうに顔を上げ、無理やり笑っていた。
「大丈夫よ、心配しないで?ちょっと疲れちゃっただけよ?」
蒼翠ちゃんはそう言ったけど、その顔があまりにも辛そうで…。そのとき、
***
~陽視点~
気がついた後、周りを見渡しても村長や村民の死体はなかった。見なくてよかったと思いつつも、罪悪感が込み上げてきて吐き気がした。
それを抑えつつ、月綾とかいう小っちゃい奴に声を掛けた後、俺は胸元の水のペンダントを握った。ほんの少しの違和感を感じて見てみれば、雫の形をしていたペンダントが龍神の形になっていた。なぜこの形に変わったのか理解できなかったが、とりあえず、蒼翠…さんに礼を言うために、蒼空さんに支えられている蒼翠さんの前に行き、頭を下げた。
「あの、…蒼翠さん。」
「ん?」
不思議そうに首を傾げる蒼翠さん。確かにその顔は真っ白だった。罪悪感が込み上げたが、それよりも礼が言いたかった。
「……あのとき、道を開いてくれてありがとうございました。」
「?…あははは、私が勝手にしたことだから別に礼を言われるようなことじゃないけど…。どういたしまして。」
困ったように笑う姿は先程の戦っていた時とは違う表情で、ドキッとした。
「あ、陽…でいい?」
そのことに首を縦に振れば、ありがとうと小さく言いわれ、
「少しいいかしら?葵も来て頂戴。」
蒼翠さんに呼ばれて近寄る。いつのまにか【魔物】を倒し終えた人たちがそばに来ていたようで、葵と呼ばれた人と蒼空さんと蒼翠さんの四人で、他の三人を残して少し移動する。
「ねぇ、陽。あなた暴走するのはこれで二回目ね?」
「っ!!」
少し歩いてから、三人に聞こえないことを確認した蒼翠さんはいきなり核心をついてきた。先程より真剣な表情で…。図星で何も言えずになっていると、
「大丈夫よ、ここにいる蒼空も葵も【契約者】だから…。それくらいわかるわ。」
「…え?そう、なんですか?」
蒼翠さんが後れ毛を掻き揚げ、耳元を俺にも見える様にする。そこには、左右で長さが違う黒いイヤリング。そのイヤリングにはよくよく見れば、竜のようなものが描かれている。これは、俺のペンダントに似ていた。
「これって…。」
「そう、【契約者】のアクセサリーだ。」
俺が口を開けば、蒼空さんが服の右袖をまくり腕を見せる。その腕には、炎の形をしたブレスレット。ただ、それには何も描かれていなかった。俺が不思議そうにしたのを見て、
「陽のは、龍神の形になっているだろ?それは、二段階目の信頼された証なんだ。」
と、蒼空さんは言う。
「【召喚獣】にも心はありますから、ここぞという所に試練のようなものを無意識的に出すんです。あなたの場合先程の、暴走の時ですね。あなたの答に『リヴァイアサン』は納得したのでしょう。だから第一段階から第二段階へと信頼度が上がり、雫の形から、龍神の形になったのでしょう。」
俺も知らないよなことを言う葵さんに呆気を取られる。
「陽にはまだまだ課題が多いけど、これからよろしくね?」
「これ…から?」
俺が?マークを浮かべても何も答えずに蒼翠さんは蒼空さんに身体を半分預けながら、三人の待つ方に行ってしまう。残された俺は、葵さんの方を向く。何を喋ればいいかわからなくて、とりあえず歩き出そうとしたとき、
「陽さん、『リヴァイアサン』はあなたの事を強く思ってくれていますよ。」
「…は?」
「ふふ、行きましょうか?美花が弔いの舞をするみたいですから。」
ぽかんとする俺を置いていきながら、先に進む葵さん。
(よく、分からない人だな…。)
そう思いつつも、後を追いかければ、
「ねぇ、そこの馬鹿陽。この辺に水場はあるの?」
と、美花と呼ばれていた月綾と瓜二つの少女が言う。
「はぁ!?俺は陽だ!!それは、ともかくなんで水?」
俺の名前を正しく訂正してから訊く。
(なんつー、失礼な奴。)
「…魂が、水を求めているから…。」
訊くだけ無駄だったなんて思ったが、その表情が真剣だったから、思い当ったた場所を口にする。
「この先に、村の神聖な場所として泉がある。そこでいいか?」
「…うん、そこでいい。……あっち?」
「あ、おい!!」
俺の声も聞かずに走り出す。話を聞かないやつだと思ったがその足は、泉の方向に向かっていた。よく理解できていない俺に、隣花さんという人が声を掛けてくる。
「美花は聞いたと思うが、【舞姫】だ。【舞姫】は死者と一時的に会話ができるから、場所を聞いたのだろう。…ま、この際だから【歌姫】と【舞姫】について話してやる。まず―――。」
隣花さんは、事細かに教えると時間がかかると言って、簡潔にただそれでも量がある言葉を言ってくれた。
【歌姫】は、人に“生”と“平穏”をもたらす者。唄で心を癒やし、この世界に執着させ、“生”を与える。【歌姫】の役目は、生者の魂をこの世に繋ぎ止めること。
【舞姫】は、人に“死”と“安らぎ”をもたらす者。舞うことで苦しみから解き放ち、“死”を与える。【舞姫】の役目は、死者の魂を安らかに天へと届けること。
二人は正反対の役目でありながら、深いところでは同じらしい。よくわからなかったので、テキトーに聞き流しといた。
そんなこんなで、泉の前についた。そのときには美花は、履いていた靴を脱ぎ捨て、素足のまま水上の上に乗ろうとする。その光景を見て俺は慌てた様子をした。
「ばっ!!!」
そんなことしたら落ちる、と言う言葉は続かなかった。なぜなら、水上の上をまるで陸を歩くかのように舞っていたから。
「美花は、水上なら歩くことができるの。確か、魂が美花を囲むように渦を作っているんだって。美花はその上を歩いてるって言ってたけど…。」
俺の様子に側に来た月綾が言う。姉であり【歌姫】でもある月綾でもよくわからないのか。
美花が舞い始めてすぐに辺りが淡く光り出し、魂のようなものが飛び始める。不思議なことに、その魂が誰のものなのかわかった。魂に人の顔が重なったから。
なぜ、人の顔が重なるかというとこの世界では、遺体はのこらない。だから、わかるように重なるんだと思うけど、なぜ消えるのかわからなかったけど、この光景を見ていると何かがすとんと落ちたように思う。
(こうやって魂になって消えて、解放されていくんだな。)
でも、遺体くらい残ってほしかった。自分の手で弔いたかった。そんな淡い願望を胸に秘めながら、それすらもできない無力な俺は、ただ水上を舞う美花とその周りにある人魂を見つめるしかなかった。
「っぅ、う。ひっく、う、ぁ。」
しばらく枯れたと思っていた涙を零しながら、俺は美花の舞を見ていた。その間ずっと、俺の手を握ってくれていたのは、月綾だった。
***
~月綾視点~
美花の舞を見ている時わたしはずっと陽さんの手を握っていた。さっき握りしめた手を離してはいけないと思った。
(この人もわたしと同じで大切なものを失ったんだ。)
美花の舞をぼーっとしながら見つめる。その舞は普段の美花が舞っているとは想像もできないほど、幻想的で悲しくて、辛そうで涙が込み上げてくるような、そんな舞だった。
(わたしが落としてしまった大切な“もの”は、いつ見つかるのか?…いつか、見つかるものなのかな?
水の上を舞い踊る美花の周りには、人魂のようなものが円を描きながら浮遊している。それは、先程の戦いで命を落とした人のものなのか、それとも【魔物】の残骸なのか。それともその両方なのか。その答えも考えれないわたしはただ、陽さんの手を少し強く握った。そうすると、それに返すかのようにわたしの手を握る陽さんの手の力も強くなった。
手から手に直に伝わる熱が、震えが、なんだか胸を締め付けて…。手の大きさやいつもと違う感触に不謹慎ながらもドキッとしたのはきっと、泣きたいからだ。そんな、適当な事を思っていれば、美花の舞は終わり、笑顔でこちらに向かってくる姿が瞳に映った。
***
~陽視点~
美花の舞が終わったのか、水上から陸の上に上がった美花は、満面の笑みでこちらに向かってくる。ただしくは、俺の隣の月綾目掛けて…。
「綾ーー!!!」
「美花、お疲れさま!」
美花が月綾に抱きつく。月綾は俺から手を離し、美花を受け止めていた。
(もう少し、握っていて欲しかったな…。)
そんなことを思った自分に自分でツッコミを入れていると、美花が美花は、すごい顔をしながら睨んでいるのに気づいた。
(こいつ、姉の事好き過ぎだろ…。ってか、舞ってる時と雰囲気全然違う。)
とか、思っていたが
「じゃ、弔いの舞も終わったし帰りましょうか?」
パンッと軽やかに手を叩いた蒼翠さんが言う。
そっか、これでお別れなのか。名残惜しいな。これからどうしよう。
とか、そんなことを考えていたら、前を歩いてた蒼翠さんがこちらを向いて不思議そうにする。
「陽?何しているの。早く帰るわよ…?」
「へ?」
我ながら大分間抜けな声が出た気がする。
「俺は、一緒に暮らしていいんですか?」
「当たり前でしょ!寧ろ、いてくれなきゃ困るもの。…それにさっき、『これからも』って、行ったでしょ?」
蒼翠さんの言葉にみんなが頷く。美花は結構嫌そうな顔をしたが、一応頷いていた。
「…ありがとうございます。」
そう言って頭をペコリと下げる。その様子を見て、みんなが気を緩ませ喋り出す。
「ふっ。…じゃあ、帰えるか?」
「早く帰ろぉ!あたしお腹空いた!!」
「今日のご飯何がいっか?」
「ふぁ、早く寝たいわ。蒼空、あとよろしく。」
「はっ、蒼翠、お前また寝るつもりなのか!?」
「蒼空、いいじゃないですか。蒼翠も頑張ったですし、ね?」
目の前で繰り広げられる暖かな会話が、俺の冷えていた心を少し暖めてくれた。俺が泉の前で未だ立ち止まっていると、
「ほらー!早く来なさーい!!」
先程とは違う大きな元気そうな声で俺を呼ぶ声に、
「今、行きますっ!」
と大きく返事をした。そのとき、
『いってらっしゃい、俺の自慢の息子よ。』
そんな、優しい声が聴こえた気がした。その声に動き出していた足を止め後ろの泉を尻目で見たあと、
「…“義父さん”。今までありがとう。ッ、さよ、なら」
嗚咽を漏らしながら走り去る少年の後ろ姿を見守るようにーーー送り出すように風が吹き、水面を揺らしていた。
***
〜??視点〜
「ーーー以上が報告になります。」
「そうか、ご苦労だった。」
暗い部屋に鎧を着て跪く人影と、その前の椅子に座っている軽装の人影。鎧を着た者は、頭を下げて部屋を後にしようとしたが、何かを思い出したように、
「大尉。…大尉が探していた『蒼い髪の女』かは、解りませんが、『蒼い髪の女を見た』との証言がありました。…これで失礼します。」
甲高い声が響き、扉の閉まる音がしたあと、
「『蒼い髪』…。楽しくなりそうだ。」
にやりと、愉しげに口元を上げた人物を月が照らしていた。
とにかく、これで陽は仲間になりました。
投稿のペースがかなり落ちると思いますが、次回も読んでいただけると幸いです。
評価等して頂けますと嬉しいです!
では、また次回m(。_。)m