出逢いと別れは共に
あらすじが思いつきませんでした_○/|_
拙い文章です。
名前読むのが難しいのあります。一応最初に、読み仮名が振られていますが、ここでも振っときます。
月綾
美花
蒼翠
隣花
葵
蒼空
陽
下手なんでご理解の程お願いします。
『この世界には、色々な力が渦巻いている。それは、憎悪であったり、愛情であったり。だが行き過ぎた力は、やがて抑えきれずに、武力へと変わる。その力の矛先は弱き者に向き、そして強き者に向けられる。人間はそうして、幾度も殺生を繰り返してきた。そんな光景を、世界の中心である世界樹から見て、世界を造った陰の神様は嗤った。
「そんなに争いたいならなら、もっともっと争えばいい!」と。
その言葉で、陰の神様は【特別な力】を与えた。誰かを憎む強い気持ちを持つ者に【魔法】という力をーーー。その【魔法】の力は絶大で、瞬く間に世界は滅亡しかけた。それを見た陽の神様は、人を哀れに思い、
「あなた達の心に悔いる気持ちがあるのなら、あなた達に安らぎと平穏をもたらしましょう。」
そして人々に安らぎと平穏をもたらすため、二人の人間を産み落とした。生者に平穏をもたらす【歌姫】と、死者を安らぎに導く【舞姫】をーーー。
【歌姫】と【舞姫】は陽の神様から【魔法】の力を授かっていたが、それは他者とは違い、人を癒す力だった。
それを見ていた陰の神様は更なる破壊を求めて、神の力を授かった【召喚獣】と呼ばれる存在を生み出した。そのうちの一体の【召喚獣】は世界を破滅に導くために、世界樹の一部から創り上げられた。
そして、もう一つ【魔物】を生み出した。【魔物】は人を無条件に殺す殺戮の道具だったが、その原初の人型の魔物はやがて人と恋に落ち、一人の子どもが産まれた。彼は【魔物】を統べる宿命をもち、【魔物】に好かれることから【獣王】と呼ばれた。
そして、人々は今日も殺しあいながら生きている。――――――――。』
【世界と人と神とより】
***
~?視点~
淡雪が降る中、厚着をしている五歳くらいの小さな少女と、薄着の十歳くらいの少女が蕾が芽吹き始めている桜の木の下で、横たわっている。横たわっているといっても、小さな少女は気を失っている。そしてその小さな少女を薄着の少女が膝枕をしているといった感じだ。小さな少女は右頬に血がついている。だが、その血は小さな少女のものではなく、薄着の少女のもののようで、薄着の少女の右腕からは血が流れている。しかし、薄着の少女は自分より小さな少女の血を拭い始めた。
「ごめんね……。ごめんなさいっ!!」
薄着の少女は小さな少女に掛かっていた血を綺麗に拭いながら、嗚咽を漏らしながら謝った。血を拭い終わった小さな少女の白い頬を、水滴がポタポタと濡らしていく。
薄着の少女は小さな少女をそっと木の幹に横掛けると、自分が持っていた上着のような、布のようなものをパサッと掛ける。丁度それと同じタイミングで、人の声が遠くで響いた。その声は徐々にこちらに向かっている。薄着の少女は、慌てたように立ち上がり、その場から離れた。
そしてすぐに、小さな少女の前に影が出来た。
「…月綾っ!!」
小さな少女の名前なのだろう、二つの大きな人影と小さな人影が現れ、その少女ーーー月綾の傍に走り寄り、抱きしめる。その様子を離れたところから見ていた、薄着の少女は安堵したような顔をしたがすぐに顔を陰らせ、ごめんなさい、と言った。少女は音を立てないように走り、その場を後にした。
「ごめんなさいっ!!」
と、泣きながら。
一方では、月綾が一粒の涙を零しながら
「行かないで…。ーーーちゃん。」
と、そっと呟いた。その言葉は誰にも届くことはなかった。
***
~月綾視点~
朝が来て自然と目が覚めた、というより夢のせいで目が覚めた。その夢の内容は、たぶんわたしが小さかった頃の出来事の夢だと思う。ほとんど思い出せないけど、見覚えがある気がするから。
その日は春の暖かさはなく春初旬の寒さが酷い日で、淡雪が散っていた。そんな寒い日にわたしは誰かを追って、外に出た。そしてその誰かの腕を掴んだ。その人は驚いた様に振り返る。そこで、毎回目が覚める。この夢を見るのは、初めてではない。もう、何度も何度も見ている。なのにいつも、同じところで目が覚めて、続きを見れない。わたしは誰を追いかけていったのか知りたいのに…。この夢を見る意味が何かあると思う。
(なんでだろう…。)
わたしは寝起きの頭で考えながら、ダブルベッドから上体だけを起こす。ふと、右側を見れば私によく似た、というより全く同じの顔が寝ている。そう、わたしの大切な双子の妹だ。銀に金色がかかったセミロングの髪の少女ーーー美花・マースリンは、幸せそうにまだ夢を見ている。口をむにゃむにゃと動かしている姿が、なんとも可愛らしくて自然と笑みが零れる。そんな美花の頭をそっと撫で、起こさないように布団の左側に、足を下した。そのとき、ベッドがぎしり、と嫌な音を立てた。それと同時に、わたしの桃色と白色の桜が描かれた長袖のパジャマの裾が、くいっと引かれた。起こしてしまったと思い振り返れば、案の定美花が翠色と金色のオッドアイの寝惚け眼を擦りながら、こちらを見ている。
「ごめんね、美花。起こしちゃった?」
わたしは、小さい声で美花に問う。美花は横たわったままで起き上る気配はなく、返事も返ってこない。眠くて、返事を返す気もないのかもしれない。と思っていたら、美花はまた目を瞑っていた。わたしは驚きで目をしぱしぱさせた。勘違いかなと思って、美花の腕を裾から下ろし、布団を掛け
「…おやすみ。」
と言った。
そのままパジャマを脱ぎ、近くにあるクローゼットから白と桃色のフリフリとしたワンピ―スを取り出し、着替える。銀に金色が混じった胸元まで伸びた髪を高い位置でツインテールにする。そして、扉を静かに開けて部屋を後にした。
***
~美花視点~
月綾が起きる前より前にあたしは目が覚めた。というのも、月綾が唸っていたから。その声は、普段聴くものよりはるかに、悲しそうで。あたしは思わず、声を掛けた。
「んぅ、……っ!!」
「…綾?」
あたしは月綾を愛称で呼ぶが、月綾から返事はない。
(また、あの夢なのかな?)
前に一度月綾から聴いた事がある。小さいころの夢を見ると…。
苦しそうに唸る月綾の頭を撫でてあげる。すると少し微笑んだように見えた。その顔が愛おしくて頬にちゅっと、キスをした。そしたら、月綾が起きそうになったので慌てて、寝たふりをする。秒差で月綾が目を覚ました。しばらくじっとしていたら、月綾があたしを見てか、「ふふ。」という声が聞こえ、頭をなでなでしてくれた。それが、嬉しくてもっと撫でてほしくてつい、月綾が起きる瞬間にパジャマの裾を引っ張ってしまった。
(あ、やばい…。)
そう思って、今起きたというのをアピールするように目を擦る。
「ごめんね、美花。起こしちゃった?」
透き通る綺麗な声を控えめに掛けてくる。その声が先程までの眠気を思い出させて、目を閉じる。すると月綾は、あたしの腕を下ろし布団かけてくれ、着替えて部屋を出ていってしまった。
月綾は優しい声で、「おやすみ。」と言っていた。その声にあたしは、
「やっぱり、あたしの前では無理だよね…。」
どんなときもあたしには見せてくれない悲しい顔や、聴かせてくれない声。唸っている時しか聴けない声に、淋しさを感じながら布団を深く被りながら呟やいた。
(たったひとりの家族なのに…。)
そのまま、寝てしまい石楠花色の髪の彼女が起こしてくれるのはいつものことだった。
***
~月綾視点~
美花との二人部屋から出て、階段をなるべく静かに降りる。他の人を起こさないよにーーー。
なぜかというとこの家はわたし達の家ではなく、他人の人の家。他人といってももう家族のような存在の人の家。そしてこの家には今、わたしと美花を含めて5人暮らしている。その3人と美花わたしで、二つ仕事をしている。ひとつは、移動劇団で、もうひとつはーーー。
なるべく静かに一階まで降りると、リビングの扉を開いた。扉を開いてすぐに見える大き目なダイニングテーブルの一箇所の椅子に腰かける人影が見えた。
「あら…。おはようございます、月綾。」
その人影はわたしに気づくなり、黒い長い髪を揺らしながら顔を上げ、声を掛けてきた。大人っぽい、優しい声がわたしの名を呼び、挨拶をする。わたしは、相手に
「おはよう、葵ちゃん!」
と、笑った。すると相手は、空色の瞳を細めて微笑み返してくれた。そう、彼女は今一緒に過ごしているうちの一人である、葵・ガーネシャちゃん。わたしと美花が16歳なのだが、彼女はその5つ上の21歳なのだがとても大人っぽくて綺麗な人。彼女が着ている黒を基調としたマキシ丈のワンピースはとても似合っているし、豊かな双丘も羨ましい限りである。お淑やかな性格で大和撫子、という言葉がよく似合う女性だ。
葵ちゃんは、この家の主である人とだいぶ前から一緒にいるらしい。けど、どんな風に会ったのかとか、それまでどうしていたのかは教えてくれなかった。未だ謎に包まれている彼女の事をよく知りたいと思った。葵ちゃんは手先が器用で、よくいろんなものを作ってくれる。現に今着ているワンピースも彼女が作ってくれた。そして、彼女はかなり身体が柔らかい。なので、美花とよく柔軟をしているのを見かける。
そんな葵ちゃんは、椅子に腰掛け刺繍をしていた。そんな彼女は指を止め、
「月綾は、いつも朝が早いですね。偉いです…。蒼翠も見習ってくれるといいのですが…。」
と、言って微笑んだ。その言葉とともに向けられた笑みがとても綺麗で見惚れてしまった。少し遅れて、「ありがとう。」と言った。
蒼翠、というのはこの家の持ち主で、一番年上のお姉さん的存在で、移動劇団等でもわたし達をまとめてくれている人の事。夜型の生活なので、普段もなかなか起きてこないし、起こしに行ってもなかなか起きないらしい。どこか子どもっぽさがある可愛らしい人。
「それもそうだな。あいつは、見習うべきだな。」
ふと、後ろでアルトの声が響く。振り向けば、石楠花色の髪を高い位置でポニーテールにして、その髪色とは対照的な青い瞳には呆れの色を浮かべている。
「隣花ちゃん!!」
「おはよう、月綾、葵。」
「おはようございます、隣花。」
この褐色の肌をした女性はわたし達の1つ上の隣花・レーヴェラルド=ヴェルデちゃん。彼女の姓は本当はもっと長いのだけれど、本人がどうせ覚えられない、と言って教えてくれなかった。が、美花は「絶対覚える!!」と言ってきかなかったので、彼女は教えてあげたそうで、次の日には彼女の名前をフルネームで言って、どやっとしていたっけ…。
彼女は頭がとても良くて、動体視力にも長けている。わたし達がこの家に来る少し前に、蒼翠ちゃんと会ってこの家に来たらしい。最初は男勝りで怖い人かと思っていたが、とても優しくて、強い人。
そんな彼女は青と白の薔薇が一箇所に描かれたノースリーブに、動きやすそうな短パンといった、ラフな格好をしていた。その肩にはタオルが掛けられていて、そのタオルの端で額の汗を拭いていた。その様子から、連想されることを言おうと思ったら、葵ちゃんも同じことを考えていたのか、
「鍛錬ですか?」
と、言って「朝から元気ですね。」と言い、また刺繍をする指を動かした。
「朝は、動きが鈍るからな。動かないとすっきりしない。」
隣花ちゃんは、葵ちゃんの隣の椅子を引くと腰掛けた。わたしは、
「朝から、お疲れ様!今からご飯作るね。」
と声を掛け、冷蔵庫を開けた。二人から、感謝の言葉を述べられる。
「いつも、すまないな。」
「いつも、ありがとうございます。」
その言葉に頬を染めて礼を言って、わたしは冷蔵庫の中身を見て、献立を頭の中で考えてから材料となる卵を取り出した。パンを切り、卵を混ぜるといった作業をしたりして、朝食になるフレンチトーストと軽く飲めるスープを作った。
「そろそろ、ご飯出来るよー。」
わたしの声を合図に二人が席を立つ。そう、今から二人は寝坊すけな美花と蒼翠ちゃんを起こしに行くのだ。わたしでは、美花を甘やかしてしまい起こせないので、隣花ちゃんが起こしに行っている。一方で、蒼翠ちゃんは寝起きがやばいらしく、起こしに行ったことはない。もうずっと前から毎回葵ちゃんが起こしに行っている。
二人が、1階に下りていく、三階に上がっていくのを確認して、テーブルに出来上がったものを並べていく。
「これで、よし!」
両手を腰に当てて、ふぅ、と息を吐く。その時丁度、二階からドタドタと元気な階段を駆け降りる音が響いた。予想のついていた銀に金色が混じった髪を高い位置でポニーテールに結い、オールバックの少女の元気な声が、わたしの鼓膜を揺らした。
「綾っ!おはよう!!」」
そう言って、わたしと色違いの黒と紫のフリフリとしたワンピースをふわっとさせ、満面な笑みでわたしに抱き着いてきて、「おはようのぎゅー。」て言いながら腰に回されていた腕に力が込められたのを感じた。
「ふふ、おはよう。美花。」
撫でてあげると、嬉しそうに顔を綻ばせる。その様子を、あとから降りてきた隣花ちゃんが見て、
「全く、相変わらずだな美花は…。」
そう言いつつも、美花を見つめる瞳は普段より優しくて、二人の仲の良さが感じられた。美花はわたしから離れると、隣花ちゃんにも抱きつく。そんな光景を見て、嬉しさが込み上げていたなか、
「蒼翠。…何回も言いますが、ちゃんと夜は寝てください。わかりましたか?あと!着替えてください!いくら女子しかいないからといって、その恰好はいかがと思いますよ?」
「ああ、はい。ごめんなさい、次はたぶん気をつけます。…着替えるのめんどくさいんだもの…。」
葵ちゃんの大人っぽい声ともう一つ透き通る、けどどこかめんどくさそうな声が響く。…蒼翠ちゃんの声だった。名前の通りに蒼い髪はお団子に結われていて、左右から後れ毛が垂らされている。透き通ったアクア色にも近い色の瞳はまだ眠そうにしていた。彼女は極度のめんどくさがり屋で、マイペースのな性格。穏やかに見えるけど、怒らすととても怖い…。
彼女と目を合わせるため首を持ち上げる。と、云うもの蒼翠ちゃんは背がとても高い。わたしと美花は152cmしかないが、蒼翠ちゃんは180cmはあるだろう。わたしは顔を45度くらい上げて彼女を見る形になる。逆に蒼翠ちゃんは、見下ろす側になる。会話をするときはだいたい蒼翠ちゃんが、わたし達に合わせてくれるので、首を痛めることはそんなになかった。
彼女は、薄い水色のネグリジェを寝間着としていて、今日もその恰好のまま降りてきていた。服から延びる綺麗な白い足や、葵ちゃんよりかは控えめだがわたしと美花より大きい胸元が、ちらりと見えるのは確かに気になるもので、着替えてほしかったとか、心の中で思っているのも気づかない蒼翠ちゃんは、
「ああ…、もうみんな起きてたのね。おはよう、月綾。美花。隣花。」
ひとりひとりの目を見ながら朝の挨拶をする。それにみんなも、「おはよう。」と、返事する。蒼翠ちゃんの隣では葵ちゃんが、ふぅ、とため息を吐いていた。
蒼翠ちゃんは、わたしと美花にとってはお母さん的な存在。身寄りがなくなり邪魔者扱いを受けていたわたし達を無条件で、わたしと美花を引き取ってくれた。それからは、「私を母親代わりだと思って頂戴。」と言って、支えてきてくれた。
わたしたちの母は数年前に病で倒れ、そのまま息を引き取った。父親は五歳になる前に亡くなったらしい…。らしいというのも、わたしと美花はそのくらいの時期の記憶が靄がかかったかのように、思い出すことが出来ないから。まあ、そんなこんなでわたしが家族と言えるのは、美花だけである。けど、蒼翠ちゃん達が居てくれているおかげで、淋しくなんかなかった。わたしの中では、蒼翠ちゃんと葵ちゃん、隣花ちゃんは第二の家族だ。
蒼翠ちゃんは、自分の位置の椅子に腰掛けて、
「今日は、フレンチトーストなのね。美味しそうだわ!」
みんなに座るように促し、全員が腰掛けたのを確認すると、手のひらを合わせ、
「「「「「いただきます」」」」」
と、みんなで声を揃えた。そして各々フォークやらを取り、食べ進める。わたしの前には、葵ちゃんが座っており、右隣りには美花が座って、斜め右が隣花ちゃんがいる。蒼翠ちゃんは、わたしと葵ちゃんとの間のお誕生日席のところの椅子に座っている。ふと、蒼翠ちゃんがスープを飲み、口を開く。
「えっと、今日の日程なんだけど…。急な依頼が二件あって…。ひとつは、ある人間の護衛で、もうひとつは【魔物】討伐の依頼、なんだけど。」
蒼翠ちゃんが言った台詞にみんなが手を止めて耳を傾けるーーーだだひとり美花を除いては。右隣りでむしゃむしゃと、ほおばる音がする。それを気にせず、、蒼翠ちゃんは続ける。
「今回は、護衛の任務に月綾と私。【魔物】の討伐に葵と隣花と美花で行ってちょうだい。」
わたしと美花が離れたことに美花が納得いかないように、食べる手を止め、がたんと立ち上がる。その勢いで椅子が倒れる。
「えーーー!!!!綾と離れるの!?!??やだぁああ!!」
「ごめんね、美花。今回は、白魔法が使えるあなたたちを一緒にすることは出来ないの。わかってちょうだい、ね?」
やだ、やだと地団駄を踏む美花に蒼翠ちゃんは、優しく宥めるように言う。美花はしばらく暴れたのち、頬をぷくっと膨らませながらも「わかったよぅ」と、弱弱しく呟いた。その様子を見て、わたしは美花にえらいえらいと、頭を撫でる。そうすれば、膨れていた頬を凹まし、「えへへ」と、にやけていた。
今、蒼翠ちゃんの口から出た二つの【魔物】と【魔法】という単語。それはこの世界を造った神様がもたらしたものらしい。
【魔物】は、人を無差別に襲う人ならざる異形のもの。その姿はさまざまで、大きいものや小さいもの、気持ち悪い容姿をしていたり。そんな彼らに共通するものは、心の臓を貫けば人魂のようなものになって消えること。何故彼らが、そのように消えていくのかは、未だわかっていない。
もうひとつ【魔法】とは、他人を憎む気持ちやらが、世界樹の力をその身に卸してもたらす業。それには、供物や呪文が必要になる。供物は自分が身に着けているものであれば、なんでも大丈夫である。といっても、【魔法】を使うことが出来るのはこの世界でもほんの数人くらい。
【魔法】には白、黒、裏、時空、赤、青と種類があり、それぞれ効果が違う。たとえば、わたしと美花が使える白魔法は、他人を癒すもの。゛他人゛を癒すものなので、自分には使うことが出来ない。回復したり、毒を浄化したりできる。一方で隣花ちゃんが使う黒魔法、葵ちゃんが使う裏魔法は、【魔物】を倒すためのもの。と言っても、使い方次第では他人を傷付けるものになる恐ろしいもの。蒼翠ちゃんが使う赤魔法は、白魔法と黒魔法の両方の初級魔法が使えるもの。
初級とは、供物が少量で済み呪文も少ないので手軽に使えるが、その代わり威力が弱い。初級の上が中級魔法。初級より少々大変になるが、威力が上がるもの。隣花ちゃんの黒魔法はこの中級まで使える。中級のさらに上が上位魔法。この上位魔法は、供物の量が一気に増え手軽に使えなくなる。何より、体力をかなり持っていかれる分、巨大な力をもたらしてくれる。葵ちゃんが使う裏魔法と、わたしと美花が使う白魔法はここまで使える。
それと【魔法】は供物があれば無限に使えるわけではなく、限界がある。使いすぎれば、心臓が巨大な力に耐えきれなくなり、死に至る。それか血の流しすぎで死に至るから。
【魔法】と言っても、さまざまである。だから任務内容に合わせて、蒼翠ちゃんがメンバーを決めることが多いのだが、貴重な回復役のわたしと美花は、なかなか同じ任務はやらない。確かに美花と任務に行ったのは片手で、数えられるくらいである。
「で、【魔物】討伐の方は、数が多いらしいから気をつけてね。」
平然と爆弾発言をした蒼翠ちゃんに隣花ちゃんが顔を顰め、
「蒼翠の数が多い、は本当に多すぎるんだが?」
「あははは、まあそこは、ね?蒼空も来るから安心して?」
隣花ちゃんの台詞に乾いたセリフを言い、一人の男性の名前を挙げる。そして蒼翠ちゃんは、逃げるようにいつのまにか食べ終えていた食器を片づけ、リビングを去って行った。残されたわたし達は、そういう問題じゃないと、心の中で思いつつ、食事を終えた。
食事を終えた後、美花と二人で二階にある二人部屋の自室に向かった。クローゼットを開けて、任務の時に着る白とピンク色の服を取り出し、着替える。美花は、わたしと色違いの黒と紫の服を取り出し、ぱぱっと着替える。着替え終わって身支度を整えようとしたら、美花が抱きついてきた。
「はーあ、めんどくさいよー。綾と離れたくなぃい。」
ぐでっとした美花がわたしに抱き着いてくる。
「よしよし。…頑張ろう、ね?」
***
~美花視点~
月綾に抱き着けば、後ろ手で頭を撫でてくれる。それがいっそう離れたくないという気持ちを大きくする。あたしと同じだけど中身は全く違う愛しい愛しい人。あたしより華奢に見えるその指とか、あたしより透き通る声とか、小さい体に細い体。その全てが月綾から離れたくないという思いを膨らませ、月綾を抱きしめる腕に力を込める。そうすれば、「美花?」という声がする。
「…気をつけてね。」
「もちろん!心配しないで。」
月綾は大丈夫だよ、と優しい、二人の時だけに使う声で言ってくれた。あたしは、彼女がちゃんと元気に帰ってくるように、祈るよに「うん。」とつぶやいた。
月綾はあまり身体が丈夫ではない。ある日を境にしてから体調を崩しやすくなったり、ぜん息とかの発作を起こすようになったり。だから月綾はあまり【魔法】を使わないようにしているのだが、稀に使いすぎて倒れたりする。だから、心配だった。傍で守りたいけどあたしは非力で役に立たないから、心を支えてあげる。それが、あたしの役目な気がするから。
でも、心配なのはもう一つあって。どちらかと言えば、ひどいけどこちらの方が心配である。それは―――月綾に、好きな人ができること。
いつもいつも、思う。月綾に好きな人が出来て、あたしが二番目になってしまったら。月綾は、誰の目から見ても可愛い。っていうか天使並に愛らしい。そんなことを思う自分は随分月綾に依存しているが、それでいい。あたしには月綾しかいないんだから…。
外に出て他人の目に月綾が映る度に、月綾のその金色と青色のオッドアイの瞳に誰かが映る度に、あたしは怖くてたまらない。いつか嫌われてしまうんじゃないかって、離れていってしまうんじゃないかって。こんな気持ちを月綾に抱くことが間違いなんて、とっくに気づいてる。でも、まだ、今…だけは。
「月綾、あたしの事…すき?」
「?そんなの当たり前じゃん!大好きだよ、美花!」
その言葉は残酷で、暖かかった。あたしの好きと月綾の好きは違うのに、月綾は気づいてないんだろうな。でもその言葉だけで嬉しくて、幸せで満足するから。
「えへへ、嬉しい!綾だーいすき!」
と言って、綾にちゅーとした。
(気づいてほしいなんて思わないから、お願い。あたしを嫌いにならないで…。)
そんなことを思っていれば、部屋の扉を軽やかに叩く音がした。
***
~月綾視点~
美花がいつもより甘えてきて、ちゅーとしてくるのを普通に受け入れる。一瞬のちゅー。それが終わった後に美花が縋るような表情をしていたのに、わたしは気づかずに部屋の扉のノック音が響いた。
「月綾、準備は出来たかしら?私達の目的地は遠いから、もう出たいのだけど…。」
蒼翠ちゃんの声だった。どうやら、支度を終えてわざわざ呼びに来てくれたみたいだった。わたしは、美花にぎゅうと抱き締め返して、
「はーい。もう大丈夫!今から行くね。」
「玄関で待ってるわよ。」
扉を挟んだ向こう側で会話をする。美花からスッと離れて、支度を整える。ツインテールの髪を揺らして、
「じゃあ、行ってくるね。美花も気をつけてね!」
「…うん、行ってらっしゃい!」
美花に向き合い、声を掛ければ少し間が空いたものの返事を返してくれる。わたしは美花に背を向けて、扉を開け、蒼翠ちゃんが待つ玄関へ、階段を駆け下りた。
***
~隣花視点~
支度を整え終え、普段任務時に着る青い色の服を身に着け、リビングのテーブルでくつろいでいる頃は、蒼翠たちがもう家を発とうとしているときだった。そのとき、低い声が家の玄関から響いた。
「おじゃましまーす!蒼翠~?来たぞー。」
「蒼空っ!遠くからご苦労様ー。今日は頼んだわ。」
ガチャという音から、人の話す声。リビングはあるので二人の話声は結構響いて、聞こえた。あたしは腰を持ち上げ、扉を開ける。そして、すぐ目の前に入り込んでくる蒼い髪の女性と褐色の茶髪の男性。男性はあたしの存在に気づくなり、
「あ、隣花ちゃん。おはよう!」
と、うるさいと思うくらいの音量で挨拶をしてくる。いや、それよりも…。
「ちゃん付けで呼ぶのをやめろって何回もい…。」
「今日は、よろしくなー。」
わざとなのか、あたしの言葉を遮り言葉を紡ぐ。イラッとしたのを抑えようとしていると、
「蒼空、あんまり隣花を困らせないで。隣花、悪いわね。馬鹿なだけだから、ほっといていいわよ。」
蒼翠の声がし蒼空、と呼ぶ男性の頭をコツンと叩いた。
「馬鹿とか、ひどくね!?」
と、笑いながら返し、笑いあう二人。
そう、この男がさっきの会話に出てきた人。蒼翠と五年前から付き合っているらしい。こいつも一応【魔法】を使えて、種類は時空。主に味方を、援護する【魔法】である。今のところ【魔法】を使えるあたし達の中ではただ一人男だ。
男なのであたしや葵より身長は高いが、恋人である蒼翠の身長は抜けずに見下ろされる形になっているのが愉快だ。
あたしは男が大嫌いだが、何度も任務を共にこなしたおかげで、平気になった。美花も気に入っていたり、月綾にも好かれているので、人の好さをよく感じられるのが、大きかったのかもしれない。
二人の事は、普通に好きだが、人の目の前でいちゃいちゃするなと思っていた。目の前で繰り広げらる甘い空間を、誰か壊してくれ、とか思っていれば二階から駆け下りてくる救いの音が聞こえた。
「蒼翠ちゃん!おまたせ、行こう!!」
銀に金が混じった髪を高い位置でツインテールにしている少女―――月綾だった。月綾は蒼空に気づき、
「蒼空さん、おはようございます。今日は美花のことよろしくお願いしますね!」
「おお、任せとけー!」
蒼空は月綾の頭にポンポンと、手を置き微笑んだ。
「じゃあ、頼んだわよ。みんなも気をつけてね。…よし、月綾行こっか。」
「うん!じゃあ、先に行ってきまーす!」
「「「いってらっしゃい。」」」
声を掛け手を振ったとき、さっきまでしなかった声がして、驚いて後ろを振り返れば、赤が基調の半袖に、黒のキュロットセットを身に着けた葵の姿が。
「葵、本当に驚くから気配を消すのはやめてくれ。」
困ったように言えば、「ふふ、ごめんなさい。つい…。」と言って微笑み、蒼空にも挨拶をして、もう一度奥の部屋に戻って行った。そのときに、
「わたくし達もそろそろ出発するので、美花に声をかけといてください。」
と、言っていたので、美花に声を掛けるために二階へと上がって行った。葵が自ら行けばいいんじゃないか?と思ったが、言うのもめんどくさいので、素直に従うことにした。
後ろで、「え、俺ぼっちかよ。」という蒼空の声は聞こえないふりをした。
階段を上がり、あたしの向かい側にある美花と月綾の部屋の前に行き、声を掛ける。
「美花?そろそろあたしたちも行くぞ?」
声を掛けても返事が返ってこないので、ノックもせずに扉をガチャリと開けた。そうすれば案の定、ベッドに腰掛けたまま涙をボロボロ零す美花の姿があった。あたしは息を吐きつつ、静かにベッドの前まで行き、立膝をついて
「美花、大丈夫か?」
と声を掛ける。そしていつも通りに何も言わずに、あたしの胸を目掛けて抱き着いてきた。そのまましばらくの間美花は、声を殺しながら泣いていた。
葵は美花が泣いていることに気づいて、あたしを向かわせたんだなって今さら気づく。
(あいつは、本当によく見ているな…。)
「よしよし…。」
泣く美花の背中を擦りながら、あたしの最愛の兄の存在を思い出していた。
それから、美花が泣き止んだのは三分後の出来事だった。
***
~月綾視点~
蒼翠ちゃんと一緒に家を発ってから、途中まで馬車に乗った後、鬱蒼とした森の中を歩いている。少し薄気味悪く、蒼翠ちゃんの腕の水色の和風な服の裾をそっと握る。その様子に蒼翠ちゃんは、
「手を、繋ぐ?」
と、にやにやと訊いてきた。でも、そんなにやついた顔のおかげで少し恐怖心が治まった。それでも怖いものは、怖いので
「繋いでくれる…?」
遠慮がちに右手を伸ばせば、「もちろん!」と言って、伸ばした手を左手で絡め取ってくれた。そのときの表情はまるでお姉さんみたいで、姉が居たらこんな感じなのかな。そう思っていると、
「なに、どうかした?」
と、上から声が降ってくる。蒼翠ちゃんはニコニコしながら尋ねてくる。
「お姉ちゃんがいたら、こんな感じなのかなーって思って。」
そう答えた瞬間に一瞬だけ表情を曇らせ、でもいつも通りの声でそうかもね、と笑っていた。その顔は初めて見る顔だったのに、前に見たことがあるような気がした。
そんな感じで、森を進んでいる時ふと、疑問に思ったことを訊いてみた。
「どうして、今日は蒼翠ちゃんも任務に参加しているの?いつもは家で書類まとめしているのに…。」
そう、これが一番の疑問だった。蒼翠ちゃんは基本任務の時は家で、書類やらをまとめてたりして、任務のメンバーにはなったりしなかった。でも、今日のメンバーの振り分けの時に蒼翠ちゃんが一緒に行くって聞いて本当はすごく驚いていた。
「ああ、今日は人手不足でね。それに、たまには外に出るのもいいかな~って。」
返ってきた答えはあまりにも簡単なもので、思わず肩を落とした。今回の任務がそれほど難しいのかと思ったけど、そうでもなさそうなので安心した。
わたしが訊きたいのはまだあって、
「今日の、ある人の護衛ってどんな人を護衛するの?」
これは、結構気になっていた。今まで護衛の任務をすることはあったけど、人見知りのわたしには大変な任務だった。いつも、隣花ちゃんや葵ちゃんの後ろに隠れて任務をしていたけど…。
「そうね、護衛っていうより、保護に近い任務なんだけど…。確か、あなたより一つ年上の少年って聞いてるわよ。」
「そ、そうなんだ。」
歳が近いのは良いけど、男の子っていうので一気にハードルが上がった。そのことに上ずった声が上がり、変な声で返してしまう。変な風になったらどうしよう、とか思っていると、
「…誰か、いるわね。」
「へ?」
唐突に蒼翠ちゃんの真剣な声が響く。彼女曰く、わたし達のいるところからそんな遠くない場所に大勢の人がいると。そんな気配は全くしないのに、彼女のすごさを実感する。蒼翠ちゃんは普段任務に参加しないけど決して弱いわけじゃない。週に一度やる鍛錬では、いつも華麗な鎌捌きを見せてくれる。
ふいに、彼女がわたしの手を取り、大きな木の後ろ側に隠れる。
「み…。」
「静かに。」
蒼翠ちゃん、そう呼ぶ前に口を手で塞がれ、蒼翠ちゃんの小さい声が聞こえる。バクバクと脈打つ心臓を鎮めようとしたとき。若い声と老いた声が響いた。
「おい、今こっちの方で人の声がしなかったか?」
「何を言っている。誰も居ないじゃないか。こんなとこで道草を食って、大尉に怒られたらどうするんだ!早くいくぞ!!」
わたし達のすぐそばで聞こえた会話。すぐに遠ざかって行ったけど、未だ心臓がバクバクいっている。蒼翠ちゃんが手を離してくれたので、息を深く吸う。
「今の…皇国の軍隊ね。なぜこんな田舎のところまで…。」
「皇国軍?」
聞きなれない言葉に首を傾げれば、蒼翠ちゃんは「ああ、そうね。」と言い、話してくれる。
「この辺りの地域や私達の地域は一応クヴァッア皇国の領土なんだけど、ここら辺は大分端っこの方にあるから、皇国からは見放されているのよ。皇国の本拠点はここから、数日間以上かけないといけないほど遠いの。だから、こんなところに来るのは、めずらしいの。それに、今の皇帝はクズだから、まあ私達の敵みたいなものよ。それにしても、どうしてこんなところに…。あいつらが欲しがりそうなものなんて…。それにこの先といったら…。―――っ!まさか!!」
まれで蒼翠ちゃんは会ったことがあるかのような口ぶりで話していたが、皇国軍がしたいことに気づいたのか顔を上げすぐに、わたしの右膝裏に手を回して、抱き上げた。
「ふぇ!?ど、どうしたの??!」
「あいつらの狙いは、今日護衛する子だわ!!」
「へ??ど、どうして?」
蒼翠ちゃんの左肩から手を回して右手を前から回し、首の後ろで交差させてしっかり掴まりながら尋ねる。彼女は走りつつも呼吸を整えようとしながら、
「その子、【魔法】が使えるのよっ!!!」
彼女のその言葉にも驚いたが、その後に続いた言葉がわたしの心を冷やした。
「皇国は【魔法】を使える人間を集めて、実験しているの。彼らはあるものを創り上げるために、【魔法】の力を濫用しているのっ!そんなやつらに捕まったら、【魔法】の使い過ぎで死んでしまうわ!」
彼女はさらに走る速度を上げて、「間に合って頂戴。」と零した。わたしも、
(間に合って!どうか…。)
と、祈った。
***
蒼翠ちゃんにをお姫様抱っこをされながら、鬱蒼とした森を駆け抜ける。たまに頬に木の枝が引っ掛かって、痛そうなのにそんなことも気にせずに走っている蒼翠ちゃんの右頬から血がタラリと溢れたのが見えたので、
「蒼翠ちゃん、血が…。」
と言って、蒼翠ちゃんの右頬に手を伸ばしたが、
「触らないで!!」
普段声を荒げることのない彼女が突如上げた声にびっくりして、手を引っ込める。彼女はハッと我に返ると、慌てて、
「ごめんなさい。…でも、血で汚れちゃうし。これくらいなら、すぐに血も引っ込むから…。」
と言って、右肩の服でごしっと拭いていた。
彼女がそんなに慌ているのを初めて見た。別に血くらいどうでもいいのに、とか思ったけど言わずに飲み込んだ。だって、蒼翠ちゃんの横顔がとても哀しそうな、苦しそうな顔に見えたから。
「後で、テキトーに絆創膏でも貼っとくわ。」
いつも通りの蒼翠ちゃんの声に変わり、横顔も普段の優しい表情に戻っていた。それに一安心して、先程の顔は見なかったことにした。
蒼翠ちゃんがさすがに息を上げてきたところで丁度、目的地に着いたのか、わたしをそっと下した。蒼翠ちゃんに小さく「ありがとう。」と言って、彼女の隣に立つ。ちらっと彼女を見れば、かなり長い距離を走っていたのに、一回深く呼吸をすれば簡単に息を整えて、汗を拭っていた。そして、蒼翠ちゃんの顔には疲労の色が全くなかった。そのことに、驚きの色を隠せなかった。
「着いたはず…。間に合った…のかしら?」
そんなわたしには気づかず、蒼翠ちゃんは目の前の集落のようなものを、手で日陰を作りながら見た。集落からは火の手も上がってないし、違和感なんて感じなかった。その様子を見て、彼女はほっとしたように息を吐いたが、それよりも気になるのは…。
確かに集落みたいのは目の前は目の前なんだけど…。
「蒼翠ちゃん…。一つ、訊いていい?なんで、崖の上なの?」
そう、わたし達がいるのは集落の目の前の崖のようなところの上。下を見れば、かなりの高さがある。
「へ?あら、ほんとだわ…。」
今気づいたような口ぶりでいう彼女に、
「へ?じゃないよっ!なんで今気づくの!?どう考えても、おかしいでしょ!!」
そういえば蒼翠ちゃんって天然だったな、とかのんきなことを思ったけど、今はそれどころではない。
「ど、どうすんの?!皇国軍が―――!」
わたしが焦っているのを気にせず、崖をじっくり見ている蒼翠ちゃん。待って、ちょっと待って。…もしかして―――。
わたしが違う意味で慌て始めたとき、蒼翠ちゃんが口を開く。
「問題ないわ!さぁ、ここから下りましょ!」
そのまさかだった。とても無邪気な顔で笑い、準備を着々と進める蒼翠ちゃんに、思考が追い付かないなか、風が吹いて
正気を取り戻したわたしが蒼翠ちゃんの洋服の袖を引っ張りながら、
「あ、危ないよ!?!」
頑張って引き止めてようとしていたとき、
「…あんたら、何やってんの?」
と、呆れたような低い声が木々の間から聞こえた。
蒼翠ちゃんと同じタイミングで振り返れば、わたしと同じくらいの年齢の少年が、整った黒髪を風に揺らしながら、黒い瞳には呆れの色を浮かばせていた。顔は童顔で可愛い系の顔だけど、芯の強さが黒い瞳の中にあって、とても綺麗に見えた。
その少年は確かにそこにいるのに触れないと思うほどに儚く、柔らかく、光って見えて、胸がドクンと脈打った。ドキドキと、動機が早くなるのがわかった。
「え、えと。」
「あそこの村の子かしら?見苦しいところをごめんなさい。」
わたしが口籠っていると蒼翠ちゃんが口を開いてくれたので、わたしは蒼翠ちゃんの後ろに隠れる。
「まあ、そんなもんだけど…?あんたらは何?そっちのチビからは変な力感じるし、あんたはただものじゃないだろ?」
少年は見た目に反して口が悪かった。まあ、チビとはわたしのことだろうなと思った。別に事実だから何も言わないけど、蒼翠ちゃんを「あんた」呼ばわりするのは許せなかった。
警戒しているのだろう、わたし達をキッと睨むようにみつめてきた。それが思ったより迫力があって、ビクッと肩が揺れた。
「ふふ、警戒心が強いのね。…大丈夫よ、私達は依頼でこの村に来たの。敵ではないわ。…あと、あなたのそのペンダント―――。」
蒼翠ちゃんは笑顔を崩さないまま、手をぶらぶらとさせ、敵ではないとアピールをする。だけど、何かに気づいた様に少年が掛けているペンダントを指さした。それは綺麗な翠色の水の雫みたいな形のもので、少年が身に着けているもので特に目を引くものだった。何も持っていない少年は、
「っ!!お前ら何者だ!?」
声を荒らげ、ペンダントを左手で隠すように握りしめる。そして、右手には何も持っていなかったはずなのに長剣が握られていた。それを見て息を呑むわたしに対し、蒼翠ちゃんは確信したように
「あなた、【武器召喚】が出来るのね!やっぱり、あなたが陽・カイルム君かしら?私の名は蒼翠・レヴェット。あなたを護りに来たの。」
と、嬉々として訊いた後は、自己紹介をした。
【武器召喚】というのは、【魔法】が使える人の一つの特殊技みたいなもの。その原理はよくわからないけど、一瞬で武器の出し入れができる。
陽、と呼ばれた少年は未だ警戒を解かないもののわたしの方をちらりと見る。わたしは、慌てて蒼翠ちゃんの後ろからでて来て、
「月綾・マースリンです。」
と、頭を下げた。
「マースリン?」
わたしの姓に反応すると、長剣を【武器召喚】で仕舞って、
「あの、【舞姫】の家系の?」
「それは、妹の美花が…。わたしは一応【歌姫】をしています。」
訊ねてきたので、素直に答える。そうすれば、
「なんで、そんな奴らがこんなところに?っていうか、護りに来たって、どういうことだ?」
「あら、何も聞いて何のかしら?あなたを保護してほしい、という依頼が来たのだけど…。っ!!」
蒼翠ちゃんが言葉を紡ぐより先に、何かの臭いが鼻をくすぐった。それは、血と何かが焼けるような臭い。それに、いち早く反応したのは、陽さんだった。
「!!村がっ!!」
先程までは変化のなかった村から火の手が上がっている。目をよく凝らして見てみれば薄っすらと見え、さっき森で見た軍の紋章が掲げられていた。その紋章が描かれた鎧を着た人達が、残酷なほどに人を斬っていく。
「っ!!」
その光景に言葉が出ず、蒼翠ちゃんの服をギュッと握って顔を押し付ける。上から頭を撫でられ、それに少しの安心感を感じたが、恐怖の方が大きく体が動き出す。
「月綾、大丈夫よ。目を…塞いでなさい。陽くん、あの軍の狙いはあなたよ。恐らく、あなたの事を捜している…。」
「…なんで俺なんか?」
この状況でも冷静に話す蒼翠ちゃんと、陽さん。二人の会話を聞きながら、さっきの光景を頭から必死にかき消す。
「ねぇ、どうしてあなたはここにいたの?」
「それは…。村長が山に行って来いって、言ったから…。もしかして―――!?」
「その可能性はあるわね…。村長は軍の動きに気づいて、私達が来るより先に軍が来てしまったら守れないと気付いて、もしもの保険として、あなたを山に追いやった。」
「そん、な?俺は嫌われていたんじゃないのか?」
蒼翠ちゃんの疑問から始まった会話に、ドサッと膝をつくような音が聞こえた。目を開ければ陽さんが、膝をついていた。
「…だって、俺は、俺は―――!!」
「あっ!ちょっと、待ちなさい!!」
急に立ち上がり、森の方向に走っていった陽さんと、それを制止する蒼翠ちゃんの声。たぶん陽さんが走って行った方向に村に続く道があるのだろう。しかし蒼翠ちゃんは、
「ふぅ、仕方ないわね。月綾!腹括りなさい!」
と言って、わたしの手を引いて有無をを言わさず、崖から飛び降りた。
「きゃあぁぁあああああああ!!!」
突然のことについていけなかったわたしが次に見た光景は、落ちていく、近づく地面の色だった。そこで、意識は離れた。
***
~美花視点~
泣き止んだ後、計ったように来た葵ちゃん達と一緒に任務場所に行った。馬車で移動しているのでカタカタと響く中、乗り物に酔いやすいあたしは、下を向きながら隣に座る隣花ちゃんに寄りかかっていた。そうしながら、目の前に座る葵ちゃんの今日の任務内容について聞いていた。
「今日の任務は、30体の【魔物】の討伐です。場所は…、蒼翠たちの目的地より少し北のところですね。それに結構近いですよ。だから、美花。元気を出してください。」
その言葉に、もしかしたら綾と会えるという微かな希望ができ、顔をパァっとさせれば、蒼空さんがニカっとして笑っていた。ただ急に顔を上げてしまったので波のように気持ち悪さが襲ってきた。それでも、葵ちゃんの方を見てみれば同じように微笑んでいた。が、すぐに顔を逸らして、ある方向を向き
「…―――?」
何かを呟いていたが、聞き取れなくて首を傾げた。葵ちゃんの隣に座っている蒼空さんも?が浮かんでいたので、すごく小さい声だったのがわかる。
「葵ちゃん、どうしたの?」
彼女は急に御者の人に「止めてください。」と言えば、止まる前に扉を開けて外に下りてしまった。
「「「葵!?」」」
みんな驚いている。だってまだ目的地に着いていないから。でも、
「目的地変更です!!今すぐ、蒼翠達と合流します!!」
と、葵ちゃんは走って行ってしまう。
「そんな、無茶苦茶な…。」
完全に止まった馬車から下りて、御者の人に代金を払う隣花ちゃんは苦笑しながらあたしの手を引いた。
「まあ、葵の事だから何か感じ取ったんだよ。さ、置いてかれないようにしようぜ!」
と蒼空さんも下りて、軽く伸びをした後走って行く。
「ちょ、ま。き、きもぢ…悪い。」
「大丈夫か、美花?…蒼空、先行け。あたしは美花と一緒に行く。」
「了解。気をつけてね。」
あたしの様子を見て隣花ちゃんが背中を擦ってくれ、蒼空さんにも声を掛けてくれる。あたしは気持ち悪さを我慢して短く、「ありがとう、隣花ちゃん。」と言って、隣花ちゃんの手をぎゅっと握った。
「どーいたしまして。」
悪戯した時のような顔で笑う隣花ちゃんと一緒に、歩きながら二人の後を追った。
***
~陽視点~
「はあ、はあ。っ、は。…くそっ!!」
森の中を走り、村民しか知らない村へと続く道を駆け下りながら、今までの事を思い出す。
どこかよそよそしい村人。たまに向けられる鋭い視線。でも俺は、好かれたくて愛されたくて、気づかないふりをして愛想を振りまいた。でもそれはいつも空回りしていて、誰にも愛されていないと、嫌われていたと思っていた。でも、実際はそんなことなかったのか?
走りながら汗を散らし、村の前までようやく来た。前までくれば嫌でも鼻につく、血の臭い。目の前には、無惨に斬り殺されたのであろう村人。その顔は見知った顔で…。
「うっ、おぇっ。」
死体を見るのはなんだかんだで初めてだった。腹の中から溢れてきたものが、口から零れた。ごほごほと咳き込んでいたら、
「ちょっと、大丈夫?!!」
ついさっきまで聞いた透き通る声が聞こえた。振り返れば、蒼翠と名乗っていた背の高い女性が【歌姫】サンを背負ってこちらを見ていた。その右手には先程まで持っていなかった大鎌が握られていた。それを見て、納得する。
「あんたも、そうだったんだな。」
「ええ…。」
そのとき、俺の耳にひとつの声が聞こえて走りだす。が、目の前に軍隊の兵がわらわらと集まって来ていて、剣を構えている。
「くそっ、邪魔なんだよっ!!」
剣を握り、蹴散らそうとした。が、カタカタと震えてしまう。その様子を見て、兵士たちはニタリと嘲笑うが一瞬にして蹴散らされていた。驚けば少女を左手で背負いながらも大鎌を振り回す蒼い髪の女性。
「早く行きなさい!ここは、すぐに終わるわっ!」
「…すまないっ!!」
後ろで華麗な鎌裁きで兵士を蹴散らしてくれるのを、横目に走る。そうすれば、俺の思った通りの人物がたくさんの兵士に囲まれながら対峙していた。
黒い髪を靡かせる、三十代くらいの男。まわりには、村民であった人間の首で囲まれていた。しかし目を背けることもせず、兵士を見つめる様は、勇ましかった。俺はその人が村長と気付き、声を荒げる。
「村長!!」
「…陽!?何故戻ってきた、この大馬鹿者!!」
腕を堅そうなロープで縛り上げられた俺の育ての親。厳つい大きな声が俺の耳に届く。だか、その声とは裏腹に痛みのせいか、表情には苦痛の色を浮かべている。
「お前は…?」
一人の他の兵士より装備が良さ気なやつが村長を掴みながら、俺に近寄ってくる。そうして、無造作に村長を俺の近くに突き飛ばせば、剣を首に当て、
「こいつが、【魔法】を使うやつか?」
「いや、違うな。こいつはーーー。俺の息子だ。」
「少尉、その少年が目当ての人間です!!!」
村長の言葉に驚いていれば、それを閉ざすように響く声。兵士の方を見れば、何やら機械を持っていて、それは俺の方を指してチカチカと点滅していた。
村長は、下を向いていて表情がわからなかったが、
「だ、そうだ。…匿った罪はその身で償ってもらう。」
「元から、そのつもりだよ…。」
そう言って高く振り上げられる剣。俺は動きたいのに動けなくて、ただ口をパクパクさせていたら、剣が振り下ろされる一瞬に、
「……生きろ、陽。」
村長が顔を上げそう言って、最初で最期の笑顔を俺に向けた、育ての親の首は胴と離れゴトリと嫌な音をたてて、落ちた。
それを見た瞬間、
「うわぁぁああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
声が潰れたと思うくらいの絶叫が口からでた。その絶叫は昼間の太陽が滲む青い空に消えていった。そのとき、俺の中で何かが壊れた。
そして、胸元のペンダントが光りだすなり、普段抑えられていたはずの『彼』の力が溢れ、俺に過剰に力を注いできて、自分が保てなくなった。
『汝の憎しみを、恨みを、晴らそう。』
意識を落とす前にそんな声が、聞こえたような気がした。
続
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評価もできましたら、お願いします。
それでは、また次回m(。_。)m