日本的には夏休みⅢ
「おっ、これはトースター……だよね?」
「トースター?」
俺は店先に飾られていたトースターを指さしてみるが、案の定ニオは理解していない。
何よりは、そのトースターのパンを入れる部分には本が刺さっているのだ。これではもしもトースターを知っていたとしても、別の何かだと思ってしまう。
そうした使い方を間違えた物は数多く、冷蔵庫は棚にされ、テレビに至ってはインベーダーゲーム風のテーブルにされていた。
「なんだかはいてくって感じですね!」
「ハイテク……なのかなぁ?」
本当に研究されているのかすら怪しくなってき始めた頃、俺は変わった物を発見する。
「武器屋……にしては、なんか御洒落だね」
ウィンドウショッピングでも出来そうな硝子張りのお店は、実戦用の無骨な武器を売っているとは思えない外観だった。
興味本位で足を踏み入れてみると、そこには剣や盾や槍の他、警棒や拳銃などが販売していた。
エアガンの容量でマガジンを取り出し、中身を確認してみる。すると、中にはしっかりと銃弾が込められていた。
「おいおい、こんなのを売って大丈夫なのかな……」
「これ何ですか?」
「ん、銃だよ。俺の世界で使われている主力武器だね」
感心しているように何度も頷くニオとは対照的に、俺は部屋の店内を見回している。
どこを探しても、そこには弾丸が売られていなかった。
「すみません、これの弾とかって売ってないんですか?」
店主に話しかけると、予想通りか「それは使い捨てですよ」という返事と言っていいのか分からない物で会話が終了する。
マスケット銃だけが流通しているような社会と考えれば、このマガジンの存在すら気付かれていないのだろう。
それ以前に、弾だけが一人で世界を渡る事がないだけかもしれない。
そうして店を出た俺とニオは、何かを食べようとマーケットへと向った。
こればかりは異世界文化を取り入れているだけに、水の国では売られていないような変わったものが多く出回っている。
「これはアメリカンドッグに……なんだろこれ」
知っている物こそあるが、日本以外の異世界からも送られているらしく、肉を腸で縛り上げているようなホットドッグ風の何かもあった。
ニオと俺の分として一つずつ注文し、互いに味見をしながら街中を進んでいく。
お祭り前だけあって、城下町はかなりの賑わいを見せ、他国から現れたと思わしきカラフルな髪の人達が行き交っていた。
「じゃあそろそろ休憩しようか」
「ですねぇ、ここまで人をみる事はあんまりないんで、私も疲れちゃいましたよ」
適当なベンチに座り、俺は周囲を眺めながら体を休めようとする。
すると、ライカが誰かに手を引かれて歩いていた。
服装からして貴族だとは思われるが、この国のそれとは違うように見える。
気になった俺はニオの手を引き、こっそりと追跡を開始した。
白い服の男は常時笑顔だが、ライカの方は嫌そうな顔で逃げられる物ならば逃げようとしている。
まさか、誘拐などではないだろうか。
疑惑は確信に変わっていき、俺は狂魂槌の柄を握り、人通りの少ない場所に行くのを待った。




