日本的には夏休みⅠ
――盗賊の集団を倒し、身分が認められたカイトが歩んできた、三年間の内の出来事である。
ベッドで横になっているシアンを見ながら、俺は首を傾げた。
「祭典?」
「はい、西にある雷の国で祭典を行うので、私は向わなくてはなりません」
頭の中では大統領などが行っている、所謂西洋的な物を思い浮かべてしまう。
「どんなお祭り?」
「異世界の文化を取り入れたもの、と聞いていますね」
「……異世界人って多いの?」
「いえ、ごく稀に現れるくらいですかね。ですが、異世界の道具はたくさん来ているみたいですよ」
そういう事があるならば、最初に言ってほしいところでもあった。
「じゃあ雷の国に行ったら、元の世界に戻る手段が見つかるかもしれないね」
「そういう事ですので、カイトさんには護衛をお願いしますね」
「へぇ、護衛か。それくらいは朝飯前だよ」
などと言い、俺はシアンの要求を何の迷いもなく受け入れる。
「他国の姫も集まるというので、覚えてもらっていた方がいいかもしれませんね」
「まだ会った事もない子が多いんだろうなぁ。シアンの話だと、まだ四人とは面識がないからね」
「そうですね。ライカちゃんにも、アルマちゃんにも、ライムちゃんにも、フィアちゃんにも会った事はありませんからね」
言われてみても、やはり全員がどんな子なのかが分からなかった。
ただ、シアンが巫女と呼ばれている事からも《星》は女の子だけの同類だと判断ができる。
ちなみに、同類内では《星》と呼ばれているシアン達なのだが、本人曰く「《星》は役職で、《巫女》は呼称のようなものですよ」との事。
俺にもそんな呼ばれ方があるのかと思ったが、歴史の表舞台に立ち続けている《星》と違い、《太陽》も《月》も認知はされていないらしい。
「こっちの世界のお祭りは初めてだし、楽しみだなぁ」
「きっと面白いですよ。雷の国は水の国と違って奇抜ですから」
「奇抜かぁ、早く見てみたいなぁ」
妄想に浸りだす俺を、シアンはじっと見てきていた。
「あれ、どうしたの?」
「いえ、奇抜というのは皮肉ではないのですよ? 本当に変わっていて、面白い国なのです」
何を言われているのかよく分からなかったが、シアンがどちらとでも取れる事を言っていた事に対して、反省していたのだろうと一歩遅れで気付く。
何分察しが悪く、悪意を肯定しないだけに、俺は全く思いもよらなかった。
ただ、こうした事を他国でしたらならば問題になりかねない、シアンならともかく、平民の俺ではなおさら。
「精進しておくよ」
「えっ? ……あっ、の……お願いします?」
困惑しきっているシアンを他所に、俺はもう一つの考えを巡らせ始めた。
せっかくのお祭りなのだから、ニオを連れていった方がいいのかどうか。
仮にも国が違うという事もあり、部外者立ち入りは禁止されているかもしれない。
一応は身分保障がされている俺とは違い、ニオはそうした法的なパワーを持ち合わせていない事も含めると、かなり怒られそうな気がした。
「ねぇねぇ」
「どうしました?」
「ニオは連れて行っていいかな?」
シアンは五秒ほど黙った後、笑顔で答える。
「いいですよ。他国に堂々と入れる機会は、早々ありませんからね」
「おっ、サンキュ」
そうして、俺とニオとシアンは雷の国に向う事となった。
ニオについてはほとんど完全に独断決行だったが、きっと許してくれるだろう。




