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異世界からの闖入者  作者: マッチポンプ
第十話 倒すべき相手と守るべき者
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倒すべき相手と守るべき者Ⅸ

 時はさらに巡る。


 セカイの終焉へと、希望なき殺戮の時代へと、救いなき不毛の未来へと進んでいく。


 この世界に訪れ、四年がたったある時、それは突如として起きた。


 後に、ミスティルフォードの歴史に負の傷跡を残しすことになる、大きな戦争。


 闇の国の王にして、最高権力者《皇》の一人、夢幻王によって引き起こされた事から、それはすぐに《ダークメア戦争》として誰もが知るところとなる。


 宣戦布告が行われた前日、行われるまさにその僅か前、俺はニオと外に出ていた。


「……戦争、いつ始まるんですかね」


「少なくとも、ニオの情報のおかげで水の国では完全防備態勢は引かれているよ」


「他の国では……」


「シアンを経由して他国にも伝えてもらったけど、どうだろうね。火の国は信じてくれるかもしれないけど、その他では俺もニオもただの平民だからね」


 救えるものなら全ての国に伝えたいが、俺としてもこの情報が怪しいと勘ぐられることも分かる。


 だが、少なくとも対処を行っている国が多ければ、その野望も少なからずは防げるのだ。


 ニオはらしくもない、捨て犬のような目をしている。


「カイトさんは、死にませんよね」


「当たり前だよ。一騎当千の武将なら千人の人が死ぬような戦場でも生き残るし、そういう奴は絶対死なないからさ」


 漫画やゲームであれば、と付随しなければならなかったが、ニオを安心させ、自身に言い聞かせる為にそこで切った。


 すぐに、俺はニオがそういう事を聞いてきていないと気付き、彼女を抱擁したまま口づけを交わす。


 言われるまでも、言うまでもなく、俺は死ぬ気なんてないのだ。


 絶対に生き延び、定年退職してから農家になるまでは、梃子でも死んでなるものか。


 唇を離し、俺はニオの首に付けられている首輪を見る。


「俺は女の子の気持ちが分からないんだけど、それっていいの?」


「カイトさんが恋人になって、初めて買ってくれたものですし、なにより……ちょうどいいんですよね」


 宝石店ではかなりの量の装身具や宝石が売られていた。


 なんでも、地元に宝石の取れる鉱山があるらしく、流通数自体は多いらしい。値段自体は、高かったのだが。


 水の国への所属、そのホールド料金としてか、フォルティス王からは金貨三千枚が支払われている。


 文字通り城や屋敷が建てられそうな値段だが、分不相応な家にしても仕方ないと、ほとんどを貯金に回していた。


 そうして宝石店では制限なしに買う予定だったが、実際は店内相場の中くらいに位置する首飾りを買い、プレゼントすることになる。


 金貨二百枚、日本円で一千万相当が中くらいな辺り、俺も選択を誤った節があった。


 給料三ヶ月分とはよく言うが三十万程度を一月としても、百万いけばいいところだろう。


 その二十倍を恋人記念で買うなど、それこそ趣味の悪い成金くらいだろうか。


「この首飾り、何があっても絶対に大事にしますね」


「うん。たぶんその首飾りは、ニオの身を守ってくれるから」


 売れば金になるうえ、盗賊に襲われてもこれを差し出せば逃がしてもらえるだろう。そういう意味で言っているので、お守りのような効果はない。


「はい、大事に――」


 刹那、激しい爆音が鳴り響き、世界は静寂に包まれた。


『私は夢幻王ダークメア。ミスティルフォードに住まう全ての人間に向け、宣戦布告を行う』


 声はそこで途絶え、再び静かになると思っていたが、遥か東の空から黒い塊がこちらに向って近づいてきた。


 予期していた以上の有り得なさに、俺は立ち尽くし、隣にいたニオの顔すら見られなかった。


「戦争……」


「ようやく、始まっちゃったみたいだね。じゃ、俺は行くよ」


 その場に置いていた狂魂槌を軽く拾い上げると、俺はフォルティス城にまで向かおうとする。


「カイトさん! 私、カイトさんが帰ってくるのをずっと待ってますから! 絶対に、待ってますから!」


 親指だけを立て、俺はその場から去った。


 こうして、大勢の人が死に至る戦争が始まった。


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