カイトとニイトと就職活動とⅦ
何を話していいのかが分からなかった俺は、とりあえず色々な事を話した。
学校の事、機械の事、あちらの世界での歴史の事。
「これがケイタイデンワですか?」
「そうだよ。その中でもスマートフォンっていう、新しいタイプなんだ」
パスワード画面を楽しそうに眺めていたシアンは、次第に画面を触り始める。
「わあっ、絵が動いていますよ」
「あはは、この世界じゃ珍しいんだね」
何回かいじくっていると、画面にパスワード認識がされなかったという警告ボックスが出た。
「わわ……これなんですか」シアンは怯え声で言う。
「これは鍵を間違えたって事。ほら、こんな風に」
正しいパスワードを入力すると、四角形のアプリアイコンが幾つも並んだ画面が現れ、俺はその中で写真を開いた。
「これがその学校だよ。入学式に撮ったから、結構最近だね」
「ガッコーというのは、学び舎のような場所なのでしょうか。それにしては、随分と大きな屋敷を持っている人がいるんですねぇ」
実際は都立なので、誰かの屋敷というわけではない。そもそも、屋敷というよりは集会場や広場の方が扱い的に近そうではあった。
「で、これが東京タワー。スカイツリーが出来る前に行ったから、結構混んでたんだよ」
「すごく高いですね……カイトさんがいた元の世界は、塔が多いんですか?」
「ん……ああ、これはほとんど仕事場だよ。中には人の住んでいる家もあるけど」
高層建築物については特に驚きが強かったらしく、シアンは楽しそうに何度も話しかけてくる。
これで恩が返せたとは思えないが、少なくともようやくシアンを喜ばせる事が出来て、良かったとも考えてしまった。
だが、俺は今、仕事を失おうとしている。無理がたたったのは自分の責任であり、前職も当職も人助けをしすぎて失業した。
自分の性質を断ち切るか、自分の性質を優先するのか。
笑顔のシアンの横で、俺はひたすらに考え、答えを見つけた。
「ねぇ、シアン」
「どうしました?」
「俺、警備隊の仕事を辞めるよ」
驚かれ、がっかりされると予想していたところ、シアンは分かりきっていたかのように、優しく俺の頭を撫でる。
「私も、カイトさんには今のままでいてほしいです」
「とりあえず、人の手伝いをしながら働ける場所を探してみるよ」
「お城にいても大丈夫ですよ。私も、カイトさんといっぱいお話しをしたいので」
普通ならば躊躇うところかもしれない。しかし、僕は他人を救う事を当然と考えるように、誰かが助けてくれる事を異常と考えていないのだ。
程良い遠慮も必要だが、俺は厚意を向けてもらった際には、否定を入れずに受け取っている。それは、その方がいいと考えているからかもしれない。
「じゃあ、お言葉に甘えて……俺は無職になるよ」
「えっ」
「この世界で出来る事を見つけて、それを全うできるようにしてみるよ」
「あっ……はい、いいと思いますよ」
無事にシアンの協力も得られた時点で、俺は就職する必要がなくなった。元の世界風に言うのであれば、ニートになっている。後援者がいる時点で、少し違うような気もするが。