倒すべき相手と守るべき者Ⅳ
巡り巡って次の日。
「いやぁ、その、チタン?」
「チタニウム! ……まぁ、チタンでも合ってるんだけど」
「で、そのチタンがあってよかったですね! 危うく死んじゃうところだったんですから」
あれだけのことがあったというのに、ニオは別段変わった様子もなく、いつも通りの様相を呈していた。
「それはそうと、なんか組織の連中が言ってたりしなかった?」
「カイトさんの悪口は言ってなかったですよ」
「そういう事じゃなくて……」
「そーういえばですね……なんでも戦争を始めるって」
それはシアンから聞いていたが、組織側からの情報も気になる。
「うんうん」
「なんでも世界全体に、闇の国だけで宣戦布告を申しつけるとか」
「なんか無謀だね」
「ですよねぇ、それも一年後なんですから」
一年後、そのような明確な刻限については初耳だ。
「それ、間違いない?」
「もちろんですよ! あの仮面の人も言ってましたし」
最初からこちらの動向を読んでいた風な言いようだったが、まさか最初はあの一団と迎合していたとは。
しかし、だとすればどのタイミングで抜け、何の為に壊滅間際まで手をこまねいていたのだろうか。
「カイトさん! 今日はどこかに行きましょうよ」
「どこか……かぁ」
中学生時代に彼女はいたが、その時代から女性というものはよく分からない。
どこでもいい、といっても実際におまかせではなく、どこかしらに通して欲しい要求があるのだという。
無論、当時の俺にそれを察する事ができるはずもなく、一年という短期間で破局に至る。
「じゃあ、食堂にでも行こうか。おなか減ってるし」
「えーっ……」
「あそこの牛肉丼はかなり美味しいからね」
「女の子と食事処、それも牛肉丼食べに行くってのはどうなんでしょ」
「俺はいいと思うけどな」
ふと、これを言い切った時点で二オの不満そうな顔が映る。またやってしまった。
「いやぁ、じゃあケーキ屋にでも行こう」
「食堂でいいですよ? 私も今日は厨房に入りたくはないので」
らしくもないが、奇妙な反応をしている。
いつものニオならば自分が作るとでも言ってきそうだが、今日はその一手分がなかった。
「よし、じゃあ俺は特盛り頼んじゃおっかなぁ!」
「私は並盛りくらいにしますね」
やはりおかしい。
ニオならば大盛りは食べるはず。今日は明らかに元気がない事も含めて、何かが起きているのかも知れない。
「ニオ、何か俺に隠してない?」
「いえ、なにも」
「本当は?」
「だからなにもないですって! メイド長から解雇宣告が来たなんて事はありません!」
「解雇宣告……どうして」
「なんでカイトさんが知ってるんですか!」
「いや、いまニオが言ったじゃん」
「あっ、言っちゃいけない事を言ってしまいました!」
意図的に言っているのかはともかくとして、これは早めに問い合わせておかなければならない。
俺はシアンに聞いていみたが、当然ながら答えは帰ってこなかった。
もしもシアンが知っていれば、きっと止めていてくれただろう。
それ以上に、推薦者がシアンであるからして、ここから切り崩されるはずがないのだ。
「……という事は、フォルティス王か」
溜息をつき、謁見の間の扉前で足を止める。
「大丈夫だ。やれる、きっとやれる!」




