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異世界からの闖入者  作者: マッチポンプ
第十話 倒すべき相手と守るべき者
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倒すべき相手と守るべき者Ⅱ

 火の揺らめき、消える前兆、射程距離、それらを理解する度に攻撃の回避は容易となってくる。


 一歩分、一瞬分、槍の穂先が届かないという、文字通りの紙一重で俺は槍の攻撃を止めた。


「近接物理戦闘とはいえ、さすがは《水の月》か。カイト、後は死なないようにしろ」


「ならウルスさんも接近戦支援を手伝ってよ!」


 ほぼノーリスクで戦えているとはいえ、こちらには攻撃の手が少なすぎる。


 狂魂槌はサイズの大きさもあり、連続攻撃は一切出来ず、何よりは動作が大きいので前兆が読まれ易かった。


 詰まる所、完全な回避合戦を続けているだけで具体的なダメージを与えられていない。


「無茶言うな! こっちも残党狩りを同時に行っている」


 いまだに数十人は残っており、それらはウルスの攻撃をしばらく見ていたからか、片手間で放たれる炎の刃をかなりの割合で避けていた。


 ウルスが敵を殲滅するか、仮面男がヘマするのを待つか、どちらにしても俺は現状維持を務めるしかない。


 次の瞬間、仮面男は消えた。


 俺は火の揺らめきを頼りに左方へと移動し、攻撃軌道の線に入らないように数歩後退する。


 だが、仮面男は俺の予測していた一歩手前で姿を表した。


「チェックメイト」


 大切な事を忘れている事に気付かない――いや、思いつきすらしなかった。


 相手が使っているのは時間停止であり、高速化ではない。ならば、己の裁量で射程を変える事も自在だった。


 金色の線は俺の腹を貫いている。今すぐ後退しても、確実に直撃だろう。

 俺がここで死ねば、ニオはどうなる。


 ニオだけじゃない、シアンも、フォルティスの人も。


 この仮面の男、こいつを倒さない限りは誰も守れない、誰も救えない。


 死の間際の走馬灯は現れなかった。その代わりと言うべきか、意識だけは加速(オーバークロック)している。


 この状況で俺がすべきは、最後までの悪あがき。無駄だと分かっても、最大限の後退を行う事。


 仮面の男も等速に戻っているからか、減速した映像を見るように俺の回避と槍の進行が同時に見える。


 俺の意思は――覚悟は事実を僅かに越えた。それこそ、完全に僅かでしかないが。


 腹を貫くはずだった槍の軌道は大幅にずれ、穂先が数センチ突き刺さる程度にまで誤差修正する。


 これで一手分は繋がった。まだ、俺は戦える。


 意識が現実時間と同調された瞬間、槍は俺の腹部へと接触し、おぞましい衝撃波が体に襲いかかった。


「チェックメイト返しなんて、普通はできないけどね」


「――っ!」


 仮面の男は驚きの声を漏らし、そのまま動作を固める。


「カイト、か。《水の月》、異世界人、面白い力を持っている」


「カイトっていう、俺一人が成した技だとは思わないかな」


「私の名はキリク。名乗りなど愚行でしかないが、今の奇跡に対する手向けだ」


 明らかに奇妙な態度だと認識した途端、螺旋の刃はドリルを思わせる回転を開始した。


 その刃は俺に触れる事はなかったが、物理的な接触の衝撃とは桁違いのショックが襲いかかる。


「私の神器《滅魂槍》の力は破壊。接触物の命を強制的に終わらせる、破滅の力」


 神器の能力、それを俺は考慮せずに、度外視していた。


 腹部からはおびただしい量の血液が噴き出し、俺は弾き飛ばされて地面に倒れる。


「カイト!」


 ウルスの声は聞こえたが、視界はブレて、意識も朦朧としていた。


 仮面男――キリクは通信術式と思わしきものを開くと、ウルスに背を向ける。


「ここは――ここも私の負けだ。しかし、善大王の情報は色々と得られた。《水の月》も殺せた」


「貴様……」


「《火の太陽》を相手にはするな、組織からの命令に従って手は出さない」


 去っていくキリクを見逃したウルスは俺の傍に近づいてきた。


 幸いか、黒ポンチョ達も撤退していき、ニオは救われる。本当に一対一交換になってしまったが、大切なニオを守る事は出来た。


「カイト! 起きろ」


「カイトさん! また起きてくださいよ! 死ぬなんて嫌です!」


 二人に看取られながら、俺は目を閉じる。


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