カイトの世界Ⅸ
次の日も、いつも通りと言うべきか、助っ人の要請がきた。
それが単純な人数不足だったということもあり、人助けとして俺は参加の約束をする。
その四時間目、突如として事件が発生した。
俺の教室は二階なのだが、一回からガラスが叩き割られたような音が聞こえてくる。
しかし、今日のこの時間はグランドを使用しているクラスはなかった。
休み時間ではないので、誰かがやらかしたという可能性も低い。
何より、音がボールをぶつけたものとは比較にならない程に大きかった。
嫌な予感を覚えながらも、俺は頭の中を整理し、冷静さを保ち始める。
少しすると、予測が事実のものとなった。
紫色の雷撃が放たれ、教室の扉が黒炭に変わり、黒いポンチョをまとった男が入ってくる。
「《水の月》はどこだ! 隠し立てすれば殺すぞ」
まるで中二病のようなセリフだ。俺も一時期はそうだったが、端から見るとこれほど滑稽なものはない。
だが、今回はそう思っている者はいなかった。
その男は手に凶器を持たず、扉を一瞬で炭化させるに至る。それが魔法や超能力以外とは、思えるはずがなかった。
間を開けた後、クラス中に混乱の渦が広がる。
先生は前に出てはいるが、おそらく攻撃はしないだろう。
誰もが怯えている最中、俺をみている一つの目線があった。
以心伝心とまでは言わなくとも、少しくらいのアイコンタクトはできる。
友人に全員の先導を任せるように合図を送った後、大きく息を吸い、叫んだ。
「お前の相手は俺だ!」
あまりに大きな声だったのか、クラスには静寂が訪れる。
「ついてこい、グラウンドで決着をつける」
俺は机で窓を叩き割ると、そのまま外へと体を投げた。
落下していきながら反転し、教室側をみると黒ポンチョの男も降りてきている様が確認できる。
空中に紫色の《魔導式》が刻まれ、白い電撃の槍が放たれた。
俺は攻撃の軌道を読み、そのまま虚空に拳を打ち込み、反動でわずかに逸らせる。
僅かな量の髪の毛が炭になるが、気にすることもなく地面へと着地した。
「まさか、こっちの世界にまで追ってくるとはね」
「俺は偶然来ただけだ。だが……幸運だった、お前を殺せば組織での地位が上がる」
狂魂槌さえあれば一撃で倒せるが、素手ではそううまくは行かないだろう。
俺が接近していくと、男は素早く《魔導式》を展開し、白雷の槍を発射した。
攻撃の回避こそ出来るが、その攻撃は俺の背後にあった体育館の壁を砕く。
騒ぎを聞きつけてか、他のクラスも窓を開け、グラウンド側をのぞき込んできた。
「なんだあれ」
「映画撮影……じゃないよな」
「超能力だ! 超能力者が出たんだ!」
好き勝手にガヤが騒ぎ立てるが、俺としては被害が大きくなる前に決着をつけなければならない。
雷の攻撃を躱しながら、俺は黒ポンチョの男の眼前に拳を打ち込んだ。
ただの一撃でも、《水の月》の性質で攻撃力は増えている。それこそ、原付の衝突程度の威力は叩き出されていた。
黒ポンチョの男は吹っ飛ばされ、一階職員室の窓際に衝突し、そのまま地面へとずり落ちる。
まだ、生命活動が続いている、そう確信した俺はなにも迷わずに追撃を決行した。
動けない内に回し蹴りを放ち、地面に叩きつけ、顎に拳打をお見舞いする。
その時点でようやく意識を失ったらしく、口から泡を吹きだした。
この世界の不良ならば無力化させ終わりだが、あちらの世界の人間においてそれは、意味があるとは言い切れない。
武器を取り上げても、腕が動かなくとも、彼らは術を使えるのだ。だからこそ、本当の意味で封じなければ……。
「あれ一年の池尻じゃないか?」
「おい、あの侵入者を倒したぞ」
「テロリストを倒したのか? なんか漫画のキャラみたいじゃんか!」
歓声があがるが、俺としては頭を悩ませるだけで先には進めない。
「先生! 今日は早退します!」
それだけ告げると、気絶中の黒ポンチョを背負い、俺は学校を出た。




