カイトの世界Ⅷ
結局、最終的には三対零である意味完封。
野球などのスポーツは基本的にチームワークのゲームだが、理不尽な能力差があるとそうはならないらしい。
遊び感覚で現れ、終盤から本気になっても勝てなかった優勝校のチームは、絶望に染まった顔で帰って行った。
「なんだよさっきの! 海人が野球部に入ったら甲子園優勝間違いなしじゃないか!」
野球部のクラスメートは早速勧誘をしてくるが、朝練や放課後に練習をしていては人助けができない。
「嬉しいけど、止めておくよ。今日は調子がよかっただけさ」
「でも、いや……なぁ、頼むよ」
「今日は早いからもう帰るね。じゃ、また明日」
この日はこうして終わったわけだが、翌日からは噂が伝播したらしく、色々から助っ人に呼ばれるようになった。
以前も呼ばれてはいたが、基本的に数合わせ的要素が強く、今回のようにメインで呼ばれることはなかったはず。
単独でも総合勝利を取れるサッカーやバスケ、さらには剣道まで助っ人として参加し、全て大人げなく完勝してしまった。
いい意味で噂が悪目立ちした頃、俺は助っ人業を引退する。
やはり、超能力まがいの力を使って相手選手のプライドをズタズタにするのは哀れでしかなく、無責任だと気付いたからだ。
そうこうして、いつも通り町中を散策していると、奇妙な影を一つ見つける。
「黒いポンチョ……まさか、組織の人間か?」
俺はその人物を追っていったが、途中で見失ってしまった。
元々追跡は苦手であったが、不慣れな都会での追跡ともなれば、発見など出来なくて当たり前でもある。
その日はしばらく捜索をして回り、その間に道案内や荷物運びやボランティア手伝いをした後、家へと戻った。
帰ってからは約束通りに手伝いをし、風呂掃除からお使いまで、俺が出来る限りの事を行う。
そうしている内に、俺は安寧を覚え始めた。
この世界には死のリスクが存在しない。そして、困っている人も大勢いるのだ。
元々俺は、あちらの人間ではない。
両界を渡った人間としてはどちらにも干渉すべきではないが、それならば元いた世界に属するのが条理ではないか。
時は流れていき、一週間が過ぎた辺りで、俺はこの世界への永住を決めた。
あの世界も心配ではあるが、組織が狙っていたのは俺であり、俺がいなくなればその世界で犠牲になる人はいなくなるはず。
この世界で俺を狙うような、悪の組織は存在しない。ならば、その方が何倍もいい。
確信へと至った俺はそれで納得し、スマートフォンを開く。
そこにはシアンやニオと撮った写真が残っていた。嫌そうな顔をしているが、ミネアの写真も存在している。
あの世界は、俺にとってもう一つの現実だった。この言葉に偽りはなく、現実だったのだ。
ベッドに横たわり、俺は目を閉じる。明日はどのような事があるだろうか、そんな事を考えながら、意識を沈ませていく。