表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界からの闖入者  作者: マッチポンプ
第九話 カイトの世界
81/359

カイトの世界Ⅶ

「いせ……かい?」


 俺はワイシャツを割き、止血を行いながら頷く。


「うん。そこで三年くらいは戦ってたかな」


 若干は怪しまれると思っていたが、その表情は真剣そのものだった。


「でも、まだ一週間しか……」


「どうにも時間の流れが違うみたいでさ、俺もかなり驚いちゃったよ」


「驚いちゃったって……さっきのもその世界での力だったのか?」


「ま、そうだね。《水の月》っていう向こうの世界の勇者――みたいな能力者の一人だったんだ」


 そこまで言い切ってから、俺は重要な事を思い出す。


「この事は出来るだけ秘密にしておいてよ。バレると色々と厄介だからさ」


「お、おう……」


 友情が揺らぐかもしれない、とはこの時は思っていた。


 人を信じたいと願う俺は時折、他者から見れば愚かに見えるように信じ込んでしまう。


 ただ、今回に限ってそれはないのだ。


 異世界からの来訪者となった俺は、もはやこの世界の住民ではない。


 皮肉にも、流れている時間が違うからこそ、二つの俺は完全に分かたれてしまった。


 しかし、翌日学校に行ってみると、それまでと態度を変えずに話しかけてくれた。


 他愛ない話をしながら、漫画の話として異世界での事を話し、友人は武勇伝を聞くかのように受け入れてくれる。


「痛くても戦えたのは、その《水の月》って能力が原因なのか?」


「え」


「ナイフを腕に刺されても普通に戦えていたろ?」


 言われて初めて、俺は事の重大性に気付いた。


 冷静に考えるまでもなく、攻撃を受ければ痛いと思うのが先のはず。


 だが、ライアスの時もそうだが、勝つ為とはいえ俺は自分の怪我を考慮に入れなくなってきた。


 何よりは、そうしたダメージを受ける際の痛みがさほどない事が、恐ろしくもある。


「それで、腕の方は大丈夫なのか?」


「とりあえず止血しておいたし、さほど問題はないと思うよ」


 そうして包帯を巻いた腕を軽く叩いて見せた。


「だいぶ胡散臭い話だけど、そういうの見ると信じちまうよなぁ」


 俺は軽く笑い、友人の頭にチョップを見舞う。


「嘘じゃないって!」


 その後、クラスに到着した俺はいつも通り――三年振りではあるのだが――授業前の準備を済ませた。


 特に代わり映えのない授業を受け、六時間目の終了後には早々と帰ろうとする。


「なぁ海人、ちょっと助っ人頼まれてくれないかな?」


 話しかけてきたのは、野球部所属のクラスメートだ。


 以前に助っ人として参加した事はあるが、経験者でもないのでかなりボロボロだった記憶が残っている。


「数足りなくて、このままじゃ試合が出来ないんだよ」


「うん、いいよ」


 依然と同じように快諾すると、俺は導かれるままにグラウンドへと向かった。


 助っ人、数合わせとは分かっていたが、そこに来ていたのは三年前にテレビに出ていた甲子園優勝校のチームだった。


 近所の高校だけに、長い年月を開けても存在を覚えていたが、なぜ弱小校であるはずのこちらに来たのだろうか。


「向こうは流しの練習、こっちは後輩に経験を積ませる為だから、とりあえず緊張しないでいいぜ」


 俺の疑問は当然のものらしく、すぐに注釈が入る。


 それだけである程度納得はいったが、負ける気で勝負など出来るはずがなかった。


 任されたポジションは外野、ずいぶんと重要なポジションが休みになっているとは思うが、ノックなどをするならば影響は少ないかも知れない。


 しかし、一発目からライナーが放たれ、二、三塁打レベルの軌道に入った。


 無論、弱小チームでそれを取れるはずもなく、外野側へと球は飛んでいく。


 バッターはドヤ顔でポーズを取っている辺り、ホームランを確信しているようだ。


 俺は地面を蹴り、三メートル程跳躍すると、ホームランコースに入っていた球を素手で掴む。


「オッケー、取れたよ」


 俺はホームのキャッチャーに向かって投げた。


 距離はもとより、ミットに入る場所だったはずだが、なぜかボールはそのまま拾われずない。


「今のジャンプなんだよ」


「あいつ陸上部とかの所属じゃねえか?」


「それにしてもおかしいだろあれは」


 どうにも、こっちの世界風にはかなり異常な跳躍をしてしまったようだ。


 大人げなくもあるが、相手がタダで出来るバッティングセンターと思ってきたなら、少し痛い目を見せた方がいいかも知れない。


 それから、ホームラン確定のようなボールを全て拾っていき、ゴロを狙っている時には軌道を読んで前衛へと回った。


 こちらの攻撃は案の定というべきか、大抵が三者凡退のような展開。


 しかし、俺の打席ではボールのくる位置が特定出来る上、パワーに関しても不足はなかった。


 明らかに住宅街へと届きそうな特大ホームランボールをして一点を加え、そのまま試合は進む。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ