カイトとニイトと就職活動とⅥ
「無理しないでください」
シアンはお姫様だというのに、世話係の一人もいない俺の看病をしてくれた。
「なぁ、なんでシアンは俺に良くしてくれるんだい? 俺はただの流れ者のはずだよね」
「……最初は可愛そうだと思ったからですよ。でも、カイトさんが自分の身をすり減らしてでも、人助けをしているところを見て……憧れてしまいました」
頬を赤らめているシアンを見て、俺は急に悪い気がしてくる。
理由がなかったとはいえ、今まで俺は正体を隠してきたのだ。ただの迷い人として憐れみを覚えてくれていたとすれば、嘘をついたにも等しい。
「シアン、俺は君に黙っていた事がある」
「何ですか?」
「俺はこの世界の人間じゃないんだ」
「知っていましたよ」
俺は驚くが、シアンは口許を隠してお淑やかに笑った。
「何で知っていたんだい? それに、知っていたならなんで――」
「カイトさんが言ってくれなかったのと同じですよ。聞かれないのに言うのは、あまり良くないですからね」
俺も隠していただけに、これには異論を出せない。
「それに、カイトさんの黒い髪……すごく珍しいんですよ。今ではほとんど残っていない種族か、異世界人以外には考えられません。そして、カイトさんはその種族じゃなかった――これだけで分かりました」
言われてみれば、青い髪や茶髪や金髪こそいたが、黒髪は一人も記憶にない。偶然だと思い込んでいだけに、この世界では存在しないという説を考慮していなかった。
「なら、なんで助けてくれたの? 流れ者なんかよりも、よっぽど面倒な奴だと思いそうだけど」
「理由は同じですよ。カイトさんが真っすぐで、それに憧れたからです。それと……」
「それと?」
俺が聞き返すと、シアンは僅かに俯き、髪で目を隠しながら頬を染める。
「その、異世界の話を聞かせてほしい、と思いまして」
「……なんだぁ、そんな事だったんだ」
「わ、私は気になっているんですよ!」
「分かっているよ。じゃあ、何から話そうかな」
シアンが顔を挙げた時、目には煌めきが宿っていた。興味津々とした様子で瞳を輝かせ、若干興奮しているように口許を緩ませている。
「いっぱい、いっぱい聞かせてほしいです」