カイトの世界Ⅳ
「母さん、久しぶり」
「どこ行っていたのよ! 一週間もいなくなってたから、警察に捜索届けを出すところだったじゃない!」
「……え?」
「それにしても、なんか背伸びたんじゃない? 顔も妙に大人びているし……整形とかしたんじゃないでしょうね」
俺は鏡に映った自分の姿を見て、何も思わなかった。
だが、冷静に考えてみればおかしい。
母さんは一週間と言った。ミスティルフォードと地球の時間が違うのは納得できるが、それにしては俺が成長している事は解せない。
「父さんは出張中だから、帰ってきたら叱ってもらうから、それまで家事手伝いよ! 分かった?」
「…………分かったよ」
釈然としないまま頷き、俺は部屋で晩御飯を食べる事になった。
コロッケに味噌汁、ギンダラの煮付け、そして白ご飯。
日本の食事に懐古していた俺は、この日本にしかない食事を美味しく食べていき、瞳から涙を流していく。
「何よ、父さんに叱られるのが怖いの?」
「いや……久しぶりだなって」
「一週間もどこ行ってたのよ」
「……どこだったんだろ――味噌汁が美味しい」
食べる毎に、蓋が壊れたように涙が噴き出していった。
味噌や醤油が体に染み込むと同時に、俺はあの世界から遮断されていくような気がしていく。
ミスティルフォードのカイトではなく、日本の祐天寺に住む池尻海人に戻っていくような感覚。
もう戻れないかもしれない、そう思っていたのは向こうでも同じ。
だが、今度はミスティルフォードに戻れないかもしれないのだ。そう考えると、感情が抑えられなくなってしまう。
「ちゃんと母さんも謝ってあげるから」
「ありがとう……ありがとう」
その日は狭い――城と比べれば――風呂に入った後、自室に戻ってパソコンを開いた。
電池が切れていたスマートフォンを充電器に繋ぐと、軽い音が流れて赤い電池マークが現れる。
メールフォルダには一部の友人からメールが来ていた。それも、数で言えば数十件単位、俺を心配して携帯じゃない方に連絡を送ってくれたのだろう。
それらを丁寧に見ていき、スマートフォンの充電が二十パーセントに達した時点で全員にメールを返した。
ふと、右上には4Gと表記されている事に気付き、オフにしていたwi-fiのモードをオンにする。
戻ってきたんだ、その実感は皮肉にもこの電波だった。
翌日用に目覚ましを掛け、俺はベッドへと体を投げる。
目を閉じた瞬間、チャイムが鳴り響き、俺は目を開けた。
外からは陽光が差し込み、若干固めのベッドでの目覚めという事で体には疲れが残っている。
しかし、もう既に朝だ。幸い、久しぶりの登校という事もあり、一時間は余剰の時間を取ってあったので問題はない。
制服に袖を通すが、案の定かなり小さく、ワイシャツは父の部屋から拝借する事になった。
いざ外に出て見ると、その踏み心地のよいコンクリートの地面に、心を躍らせてしまう。
石畳は雨上がりでは若干滑りやすく、あげく細かな段差が生まれている為に歩くだけで結構疲れたものだ。




