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異世界からの闖入者  作者: マッチポンプ
第九話 カイトの世界
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カイトの世界Ⅱ

 クラクションの音が頭の中に響き、俺は妙な吐き気を覚えながらも覚醒した。


「……これ、ゴミ袋?」


 起き上がり、地面を眺めると、そこにはゴミの詰められた半透明のごみ袋が置かれている事が分かる。


 どうやら俺は、変なところで仮眠してしまったようだ。それどころか、誰かに襲われてここに放置されたとも思える。


 薄暗い事に不満を覚えた俺は、光の渦巻く海へと向って進んでいった。


 信じられない速度で走っている鉄の箱――車だ。


 多くの車が走りまわり、眼球を光らせるようにフロントライトが輝いている。このようなものがミスティルフォードに存在しただろうか。


 記憶を辿っていくと、ここがどこなのかがすぐに判明する。


 中目黒駅の付近にある大きな道路、山手通りだ。


 手元を探ってみるが、狂魂槌はそこにない。だとすれば、やはり俺の見ていた物は全て夢だったのだろうか。


 気を取り直して駅まで向い、改札口に到達した時点でポケットに手を突っ込んだ。


 しかし、財布は入っていない。それどころか、着ている服装も向こうの世界そのままであり、ポケットマネーの金貨を詰めた袋がある始末だ。


 このままでは家まで帰れない――徒歩でも十分帰れるが――ので、俺は関わりを持つつもりのなかった金買い取り店へと向う。


 腕時計によると今は十八時らしく、店はどうにか開いていてくれた。


 店内に入ると同時に、体の芯からひやっと来る冷風が俺の体に襲いかかる。


「……クーラか、懐かしいなぁ」


 身形のせいか、それともゴミ臭さが染みついているのか、店員は俺に疑惑の目を向けてきていた。


「すみません、金を売りたいんだけど」


 そう言った瞬間、態度は一変し、スーツを着た男性に導かれてカウンター付近にまで移動する。


「とりあえずこれ全部売りたいんだけど、いくらくらいになるかな」


 袋を開けると、金貨三十枚程が机の上に並べられた。


「た、ただちに査定いたします!」


 それから少し待つと、金貨は四百五十万という額が提示され、向こうの世界の換算で三倍程にまで高まっていると知る。


「じゃあ四分の一くらいでいいかな」


「では身分証をお願いします」


 残念ながら、学生証も持ち合わせてはいなかった。


「今電車に乗る金がないんだよね。家には身分証あるから、今は売値を三分の一でこれ全部売るから見逃してくれないかな」


 店内に客がいなかったからか、店主はそれを了承する。


 ただ、署名や写真などは取られ、後で身分証を持ってくるようにとは言われた。


 久々に乗る電車は恐ろしく快適で、流れていくような背景には興奮を隠しきれずに、子供のように乗り出してしまう。


 向こうの馬車はここまで早くはなく、乗り心地は最悪だ。文明の利器一つでここまで変わるとは、ある意味脅威ではある。


 東横線で一駅、祐天寺駅へと到着した俺は、それまで通学に使っていたホームを見て涙をこぼしてしまった。


 あれから三年は経ったというのに、そこには変わらずいつも通りの世界が残っている。


 金も大量に手に入れたという事もあり、懐かしみついでにマックへと向った。昔はたまに食べる程度だったが、今ならばセットを頼んでも全く問題がない。


 店内に入り、時間も時間でそれなりに混み合っていた事もあり、俺はただ呆然とその場で待っていた。


 祐天寺のマックは俺が知っている店の中では比較的処理が遅く、三軒茶屋のマックに匹敵する程の鈍足提供なので、待つ事自体はさほどどうとでもなる。


 少し待つと俺の番になり、とりあえずの空腹紛らせにビッグマックセットを購入し、炭酸飲料への興奮からファンタグレープを指定した。

そこで俺は違和感を覚えた。


 このマックはもっと待たされるはずだが、なぜか今回はスムーズに進んでいる。決して短いオーダーばかりと言うわけでもなかったが、これはどういう事なのだろうか。


 そう考えてみると、店の中の活気が以前とは違うように見えた。有能な社員さんでも追加されたのだろうか。


 そこで目に入ったのは、かつて俺を襲った男だった。


「あっ!」


「あ……」


 互いに顔を見合わせた後、俺とその男は沈黙する。


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