カイトの世界Ⅰ
黒ポンチョで顔こそ見えないが、その声と手に持った細剣は紛れもないライアスのものだった。
「ほう、あれから数年経っても覚えていたか」
ライアスはポンチョを脱ぎ、かつてのような紫の鎧の姿を見せる。
「騎士でなくなった以上、私は貴様を倒す以外に目的はない」
「何をしている! さっさとその娘を殺さねぇか!」
割り込みを入れてきた黒ポンチョの男を見据えた後、ライアスは何の躊躇もなく一撃を浴びせた。
心臓へのピンポイントアタック。言うまでもなく、一撃死だ。
「お前の味方じゃなかったのか?」
「味方? こんなクズ共がこの私と同列であるはずがない。盗賊、冒険者、兵士、その中での落ちこぼれ達に混じったのも、カイト……貴様と戦う為だけだ」
方向性こそは違うが、今のライアスはフォルティス王と変わらない。戦う事だけを生き甲斐として、それ以外を完全に放擲していた。
「クク……私もまた、騎士の落ちこぼれではあるのだがな。その辱めも、貴様を殺す事で払拭できるだろう」
「……改心は望めない、だろうね」
「全てを失った時から、その気はない」
俺は静寂に包まれた戦場の中、大きな声を放つ。
「ウルスさん、そいつらを頼むよ!」
「……任せておけ」
狂魂槌を構え、ライアスと対峙した。
「お前とはここで決着をつける――これで終わりにするッ!」
「クク、敢えて罠に飛び込むか」
「お前は仮にも騎士だった。そのお前が誇りを取り戻しに来ている以上、望んでいるのは決闘……だろ?」
口許を歪め、ライアスは細剣をこちらに向ける。
「そうでなければ、私も納得がいかない」
一呼吸を入れた後、俺は槌による第一撃目を放った。
細剣の軌道は俺の瞳に映っており、瞬時に攻撃を防御に切り替える余裕もある。
槌の柄が盾代わりとなり、細い先端をジャストに受け止め、弾いた。
「やはり、貴様には見えているようだな」
「……やっぱり、狙っていたんだね」
先程の不意打ち、あれも俺の予知にも似た反射神経が成しえた防御だったが、すぐに攻撃に移れないような方法でしか防げない方法で撃たれている。
今回もまた、柄による防御を強いられた為、追撃の前に再度防御行動へと移行しなければならなかった。
第二撃目の突きを弾くが、今度は弾いた後に攻撃が僅かに伸び、頬を掠る。
「三度も負ければ、貴様の弱点程度は見切れる」
嘘でもハッタリを言ってやりたかったが、怒涛のような攻撃の嵐に、俺は防戦一方に陥っていた。
毎回防いではいるが、確実にダメージは蓄積されていき、それが一秒間に一回程度のペースで行われている。
傷口からは血が噴き出し、次第に俺の気分は悪くなっていった。
このままでは、確実に死ぬ。
俺はそれに恐怖を抱く事もなく、目を大きく見開いた。
刹那、刺突撃が放たれ、俺の心臓付近を直撃する。
「っ……僅かに逸らしたか」
神器を使わない事による、物理的行動の阻害。自分の命が大きく削れるというリスクこそあれど、これだけが唯一俺が勝つ道だった。
恐ろしい速度で体から力が抜けていき、それを補うようにライアスへの憎悪を高めて槌を振り上げる。
深く突き刺さった――踏み込む事で意図的に押し込んだ――事により、ライアスの細剣は事実上封じられ、俺の攻撃までの時間は決して短くなかった。
その一撃、ただの一撃を打ち込もうとした時、俺の意識は消える。




