放浪するベテラン冒険者Ⅸ
自室に戻り、俺は空腹感を覚えていた。
もうそろそろでニオが来る、それまで待とうなどと思い始めていたが、一時間が過ぎた辺りで違和感を抱きだす。
部屋を出てメイドの待機所へと向うが、そこでもニオの姿は見られていないという。
メイドの中でも半ば特権的な立場のニオは、事実上はメイドの仕事をしなくてもいいらしい。
それにしても、ここまで接触が図られていないのは不気味でしかなかった。
俺は別れて早々、シアンの部屋へと向う。
「カイト、どうしました?」
「シアンは魔力の察知はできるよね」
ミネアもそうだが、この世界に住む一部の人間は魔力察知能力を備えているのだ。
説明を聞いた限り、生体から放たれる気のようなものであり、強弱にかかわらず放出自体はされているに違いない。
「できますよ」
「ニオの魔力を探ってもらっていいかな? どうにも見当たらないんだ」
心配そうな顔をした後、シアンは目を閉じた。
「……フォルティス内にいませんね」
「出かけたって事もないはずだけど」
朝食を食べた時点までは少なくとも城に残っている。
その時点で変わった様子はなく、どこかに行くとは言っていなかった。
「まさか組織が? ……あれから全く接触を図らなかったというのに」
権力、直接的武力、神器不在時の戦闘。組織は恰も俺に対応し、手段を変えているようにも見えた。
だとすれば、今回選ばれたのは人質を持った状態での戦闘、という事なのだろうか。
「俺、探しに行ってくる!」
「えっ、今からですか」
「ニオにもしもの事があったら、俺の責任だよ」
呆然としているシアンをその場に残し、俺は狂魂槌を持ってから外に駆け出した。
フォルティスの外へと続く門の前、そこではベアが見張りをしている。
「おっ、カイトどうしたんだ?」
彼は件の盗賊撃撃時のメンバー、兵士側の一人だ。
田舎町の出身らしく、身元の知れない俺にも気さくに話しかけてくれた事で、現在でも交友が続いている。
「ニオは通っていないか?」
「通っていないが……何かあったのか?」
組織が関与しているとなれば、安易に言うべきではない、と俺は口を噤んだ。
定番といえば定番だが、事実を知った存在を見逃すとは考え難い。
「ま、姫様からカイトの都合は聞いていから、深入りはしないけどさ。何かあったら頼ってくれよ」
「じゃあ、ニオが通ったらシアンに伝えてくれないかな? たぶんシアンなら通信術式で俺に連絡を取れると思うからさ」
「おう、任せとけ」
それだけ伝えると、俺はすぐにフォルティスの外に出た。
組織が俺目当てだとすれば、監視に近い状態には置かれているはず。置手紙の類を用意しなかった辺り、そうしなければ誰も気づかないはずだ。
万が一、騎士達を引き連れて訪れようものなら、いくら組織の人間としても辛い戦いとなる。
それを防ぐ為に、推測の範囲を越えない方法で俺をおびき寄せているとしか考えられなかった。
ただ、往く当てがないというのは事実であり、相手が接触をしてくるまでは、ただひたすらに散策を続けなければならない。
そうして一時間程掛けて人里から離れた森に入った俺は、そのまま捜索を続行した。
組織の人間が現れようとも、俺は負ける気がしない。
しかし、戦えない事にはどうしようもないので、敢えて襲いやすいような場所に向わなければならなかった。
「何を探しているんだ?」
振り返ると、そこにはウルスが片手をあげてこちらを見ていた。




