放浪するベテラン冒険者Ⅷ
ウルスと別れ、俺は改めてシアンを迎えにいった。
「ごめん、だいぶ待たせちゃったね」
だいぶ待たされたというのに、シアンは一切怒るような真似をせず、笑顔で答えてくれた。
「いえ、大丈夫ですよ」
俺はその言葉をきっちりこっきり信じ込んで、軽い態度へと移行する。
「なら良かった。それでさ」
「はい」
「今回の件をどう思っているかな、シアンは」
なにを聞かれているのか理解していないような顔をしたシアンだが、すぐに察してくれたらしく、悩んでいるような様子を見せた。
「難しいところですね。貴族と平民の軋轢が存在する事は周知の事実ですし、現状維持のような感覚を覚えます」
「それもそうだけどさ。それにしては妙に怪しい気がするんだよね、被害届を出した貴族」
偶然かどうかは不明にしても、完全にクロの貴族が自信の権力で道理をねじ曲げるという展開、俺には見覚えがあるのだ。
今回もまた、組織が絡んでいたのではないだろうか。
組織がライアスのように、重要な存在でもある出資者を奪われ、その復讐としてティアを貶めようとした。
そう考えると、全てに辻褄が合う。
冒険者ギルドがあそこまで反対を受けても、頑として処刑を決行しようとしたのも、組織への恩義立てがあったのではないか。
「シアン、ライアスの件では組織が絡んでいた。そのような存在を知っているかな?」
「イーヴィルエンターですか」
どうやらその名は、貴族の中では常識の範疇にまで到達しているようだ。
「俺はかつて、何回もその組織の刺客に襲われているんだ。だから今回もそうかな、と」
そこで初めて、シアンが驚く。
「いつ襲われたのですか?」
「かれこれ三年前くらいかな。俺は火の国に行ってた頃だよ。そういえば言ってなかったね」
「……あの組織について、私も以前から警戒していました」
「悪の組織だから?」
俺が問うと、シアンは首を横に振った。
「多岐に渡って様々な集団と提携している以外は、特に何かをしている組織ではないのです」
「様々な集団?」
「土木や薬品開発、武器生産、食料生産、ほとんど全ての種目に手を出しているのです」
そう聞くと、元の世界のフリーメイソンを思い起こさせる。
あの組織がなにをしているかは分からないが、テレビの影響で世界を陰から操る秘密結社のイメージがついたのが原因だろう。
「なら、俺の気のせいかな」
「いえ、報復行為の類はこちらに届いていないのですよ」
「今回みたいに暗殺者が居るだけじゃないのかな」
「有力貴族などを貶めた商人なども居ますが、今もご存命です。もちろん、有力貴族側は加入者であり、商人側は未加入との事です」
加入者皆兄弟、のようなスタンスとは違うという事か。
「意図的に規格外の力を持った人を消そうとしている、という説はありますね」
「でもどうやって選別……あっ、そういえばライアスも組織から神器の情報を得た、って言ってたね」
今まで会ってきた同類の人曰く、これらの情報は一般的に知られているわけでもなく、知っている者はほぼ例外なく同類の関係者だという。
「これから私も探りを入れてみます。カイトも気をつけてくださいね」
「大丈夫だよ。もし襲われても、きちんと生き残ってみせるからさ」




