放浪するベテラン冒険者Ⅶ
「それで、聞きたい事って何かな?」
少し話をしてから迎えに行くから、それまで待っておくようにとシアンに頼んでから、俺はウルスと話を始める。
「カイトは異世界人だな?」
「そうだね。元は日本って国にいたけど」
「ならばなぜ、同類の力を持っている」
同類、久しい単語に俺は表情を硬くしてしまった。
「難しい事は聞いていないはずだ。カイトとて、事情を知らないと言い張るつもりもないだろう?」
「ところが、俺もその事情は知らないんだよ。この世界に来て、狂魂槌を使い始めてから《水の星》の力が目覚めた事は知ってるけど……ダーインさんも深くは教えてくれなかったからね」
ダーインの名前を出した途端、ウルスは顔を顰める。
「杯のダーインを知っているのか?」
「えっと……ウルスさんも?」
互いに頷くと、若干だが共通認識を持った事で親しみが湧いてきた。
「二年か三年前――この世界に来てすぐだね、その時にシアンが呼んでくれて、色々聞けたんだよ」
「あいつは光の国の貴族だったな……なるほど、事前に同類と接触していたならば問題はない」
どうして安心しているのか分からず、俺は素直に問いを投げかける。
「何の事かな?」
「他の同類と会った事は」
「ミネアとヴェルギンさんとシアン……あと話してはいないけど、ティアって子も知っているね」
「雷親父とまで接触していたのか。やはり異世界人の同類というのは悪目立ちするらしい」
同類の世間は思ったよりも狭いようだ。ウルスさんはほとんど全員を認知しているように見える。
「エルズという少女は知っているか?」
「あっ、その子は前に話したよ。何でも友達が危ないからって医者を頼まれたんだけど、いざ行ってみたら誰もいなかったんだ」
これまたエルズまで知っていたらしく、ウルスは頭を抱えだした。
「その娘も同類だ。《闇の太陽》という精神干渉系統の使い手だが、その様子だと何もされてはいないらしい」
なぜか驚きはない。
むしろ、通りで《魔導式》なんて物をあの年で使えたわけだ、などという納得の文章が頭に浮かびあがる程だ。
「それで、他の同類がどうしたの?」
「カイトは会っていないらしいが、同類にも危険な奴は存在する。過ぎたる力を振い、この世界の秩序を脅かすような者が」
そう言われても、俺は実感に乏しい。
なにせ、最初に出会ったシアンは俺を助けてくれた。次のダーインさんは力の使い方を教えてくれて、その次のミネアは術や《魔導式》や《導力》――俺は覚えられなかったが――を教えてくれたのだ。
雷親父、などという硝子を割ったら怒りそうな呼ばれ方の師匠もまた、俺に神器の力を伝授してくれている。
そんな人達の中に、悪人が混じっているなど、俄には信じがたいのだ。
「少なくとも、新世代組にまずい奴が一人いる事は分かりきっている」
それにしても、どんな人がその悪人なのだろうか。これに関しては信じたくはなくとも、知りたい。
「どんな人なんだい?」
「破壊の力を持つ《滅魂槍》の使い手。おそらくは《雷の月》と思われる者だ」
《月》という事は俺が属する側の同類のようだ。
俺としては、ダーインさん以外の前例を知らない為に、《月》にいい人が集まっているのかどうかは判断が出来ない。
「《雷の月》……かぁ」
「仮面に黒いマントを羽織っていた。遭遇すれば、おそらくすぐに分かるはずだ」
刹那、俺の頭の中にはフラッシュバックのように、槍を突き付ける仮面の男のイメージが浮かび上がった。
「突撃槍型で、その槍部分に絡みつくような螺旋の刃がついた槍……」
記憶のままに槍の造形を話してみると、ウルスは驚いたような顔をする。
「カイトは遭遇していない、それで間違ってはいないな?」
「まだ会っていないよ」
「ならば、なぜ滅魂槍の外見を知っている」
「夢で見ただけ……かな」
素直に答えた瞬間、ウルスは呆れたような態度を見せた。
「神器のホルダーならば予知夢のようなものを見る事も、そこまでは珍しくはない。だが、推測や憶測で言うのはあまり感心できないな」
「いやぁ、ついつい」
一度ため息をついた後、ウルスは真剣な顔つきになる。
「おそらく、ティアの件にはイーヴィルエンターが関わっている。気になったとしても、出来るだけ干渉するな」
「イーヴィルエンター……」
「間違っても、カイトは力の使い方を違えるな」
それだけ告げると、ウルスはその場から立ち去っていった。




