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異世界からの闖入者  作者: マッチポンプ
第八話 放浪するベテラン冒険者
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放浪するベテラン冒険者Ⅰ

 それからは特に変わった事もなく、数年の時がすぎた。


 この世界での暮らしも安定し、比較的普通な生活をエンジョイしている。


 元の世界に居るであろう刺客が気になっては居るが、元の世界に戻れない以上、俺がなにを思ってもどうしようもないのだ。


 何より、いくらこの世界の人が強いとはいえ、向こうの世界には銃火器などがある。遠からず逮捕されるに違いないだろう。


「シアン、もうそろそろ部屋に戻っていいかな?」


「もう少しだけ、一緒にいてください……」


 あれから、少しだけ変わったことがある。


 シアンがいつの間にかミネアと喧嘩をしていた事。それ以降、ミネアが水の国を訪れなくなった事。


 あれだけ仲のいい二人が喧嘩するなど、昔の俺からすれば思いも寄らなかっただろう。


 それが原因か、シアンはこうして俺に甘えてくるようになった。


 恩もあり、友達でもあるシアンの頼みと合っては断れず、これも人助けといつも眠るまでつきあっている。


「いつも思うけど、寒くないの?」


「いえ、貴族はみなさんこういう風だと聞きましたよ。健康にいい、とも聞きましたし」


 当時は偶然に見ていなかっただけで、シアンは寝る際は裸だった。


 裸健康法という物や、中世ファンタジーモノの作品で男性貴族キャラが全裸で寝ている事もあり、さほど異常だとは思わない。


 華奢で白い肌。艶やかな青い髪も以前から全く変わっていないように見えた。


「どうしました?」


「いやぁ、シアンってぜんぜん大きくならないなって思ってね。ちゃんと食べてる?」


「体質の問題だと思いますよ」


「そうなんだ」


 それにしても、二年以上がすぎて、成長期のシアンがまったく変わらないというのも異常である。


 この世界ならば普通かもしれないので、指摘は出来ないが。


「カイト、元の世界に戻れなくて、寂しくありませんか?」


「そりゃ寂しいよ。母さんも父さんも、向こうの友達にも会えないからさ」


 友達、という単語でシアンは沈んだ。やはり、ミネアの一件を気にしているらしい。


「それにしても、二年間も行方不明じゃ失踪扱いになってるかもなぁ……帰っても高校にいけないかもなぁ」


 半笑い気味に言っているが、比較的重大な問題だ。


 シアンに向けた感想とは逆に、俺は着実に成長している。当時撮った写真と見比べると、背も僅かだが伸びているし、顔も少しは変わっていた。


 高校三年生か大学一年生相当の姿で元の学年になるとしても、非常に気まずくもある。


日本教育では伝説の存在ともなっている、ダブり生徒となってしまうのだ。


「カイトはずっと、こちらの世界にいてもいいのですよ。あなたを必要とする人が、たくさんいるのですから……えっと、私もその一人ですからね」


 頬を紅潮させているシアンだったが、すぐに毛布の中へと潜り込む。


 この世界に残り続ける、か。それもまた一つの選択肢かもしれない。


 俺はこちらの世界での地位を固め、今や異世界人ではない、カイトという一人の人間に近づいているのだ。


 異世界に辿りついたキャラは、形こそは違えど、全員が元の世界に戻っている。だとすれば、俺にも一度や二度は戻る機会が与えられるのではないか。


 その時に、俺はこの世界を見捨てられるだろうか。


 元の世界に残る、という選択を手に取る事はできるだろうか。


 たらればでしかないと分かっていても、俺はこの問題を軽度とは見られず、ベッドに背を持たれかけた。


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