フォルティス防衛戦Ⅷ
「くたばりやがれ! 貴族のオヒメサマよぉ――ッ!」
「カイト……さん」
「ごめんな、シアンを最後まで信じれ着なかった、俺のせいだから」
毒付きのナイフを受けた俺は、最後っ屁で狂魂槌を盗賊に命中させ、そのまま合い打ちのように倒れ込む。
力が入らず、体全体が冷えていくような感覚に襲われ、大男にされたのとは違う形で、死を覚える。
「カイトさん! 起きてください! カイト! 起きてよ!」
意識が落ちる刹那、シアンが俺の事を呼んでくれた。
シアンの作戦からはずれた行動をしたはずの俺を、ここまで心配してくれるなんて、シアンはやっぱりいい子らしい。
いや、それははじめから分かり切っていた。
こうして消えていく命を実感しながらも、シアンの声が聞こえないのがただただ狂おしい。
突如として、目が開いた。これまたいつかのように、俺の自室天井が視界に収まっている。
「ここは……俺は、一体」
「カイトさんっ! よかった……本当に良かったです」
「シアン? ……あはは、また助けてもらっちゃったんだね」
俺は笑いながらも、強く反省していた。
あの作戦、無傷で勝利するという条件は俺によって失敗し、シアンが全力で成功にまで筋書きを立てたにもかかわらず、ブラスト達との約束まで違えている。
「カイトさんは、間違った事をしていませんよ」
俺は感情が表情に現れやすいらしい。
今回は神妙に反省しようとしたが、それもシアンに見切られてしまった。
「そんな、慰めは嬉しいけど」
「慰めなんかじゃありませんよ。私はあの時、盗賊さんを倒す事を躊躇いませんでした。策略で不意打ちを狙っている事も分かっていましたし、ここまでした時点で話を聞く気はなかったのですよ」
「なら、やっぱり俺が……」
シアンは俺のベッドに腰を下ろすと、俺を抱きしめる。
「私は、カイトさんみたいに誰もを信じたいのですよ。ですから、出来ない私の代わりにしてくれたカイトさんには、とっても感謝をしています」
それは建前か本音か、俺には分かりかねた。
シアンのように頭がよければ、こんな風に悩まなくてもいいのかもしれない。でも、俺は希望だけを見ている。
「俺は、シアンが行っている事が本当だと信じるよ。だから、ありがとう」
「やっぱり、カイトさんは信じてくれるんですよね。昔も言いましたけど、そういうところが好きなんですよ、私は」
「いやぁ、それほどでも」
「では、本題に移りますね」
役人のように、シアンは素早く切り替えた。
「本題というと」
「今回の盗賊の一件です。ブラスト兵長はこの件に関し、契約が不履行だったとは思っていないですよ」
結構頑固に見えて、あの人は正義感が強い。こうして柔軟に対応してくれたのはありがたいばかりだが。
「そして、お父様からお呼びが掛かっていますカイトさんが目覚めたので、今すぐにでも向かいたいのですが……」
「俺、あの人好きじゃないんだよなぁ……悪人じゃないんだろうけど、俺の世界のサイコパスっていうのにそっくりなんだよ」
悪行を悪行と認識せず、狂気を平常として犯罪行為を起こす人間。
フォルティス王の場合は善と悪がないというよりは、自分の正義がそれらの要素を打ち消しているようにも思える。
「サイコパス?」
「無差別殺人鬼みたいな、悪い事しても何とも思わない人だよ」
「そう……ですか。確かにそうかもしれませんが」
妙にシアンのテンションが下がった事で、俺はまた余計な事を行ってしまったのだと気付いた。
「あっ! また、言わなくて良い事を言っちゃって、ごめん」
「いえ、そう見えるのは仕方ありませんから」
部屋の空気がかなり悪くなってしまい、俺は立ち上がった。
「よし! じゃあ早く行こっか。夏休みの宿題もそうだけど、嫌な事は早く解決するに限るよ!」
「……そうですね。では、行きましょうか」




