カイトとニイトと就職活動とⅣ
「それで、どうして見張りをしていなかった!」
「はいっ!」
「はいではないッ! 答えろと言っている!」
「はいっ! メイドさんの手伝いをしていました!」
困っている人を助けるのは当然、の精神はこの世界に来ても忘れられず、ついつい廊下で出くわしたメイドさんの仕事をしてしまった。
洗濯から窓拭き、さらには配膳などほとんど全ての仕事につき合っていたところ、五時間程を費やしてしまったらしい。
城の中で俺の姿が見られていなかった事もあり、こうして兵長にお叱りを受けているのだ。
「お前は兵士だろうが! 侍女の仕事は侍女にでもやらせておけばいいのだ!」
「兵長ッ!」
「なんだ!」
「メイドさんは指を怪我しているのです! しばらくは手伝わせてもらえないでしょうか!」
ただ指を怪我しただけならばともかく、メイドさんの仕事は日本の労働基準法を明らかに無視した、苛烈な仕事をさせられている。
あれでは傷ついた指がすぐには治らず、余計に手間取る事だろう。ならば、せめてその間だけでも手助けをしてあげたい。
「お前は兵士だ! 兵士はただ見張っていればいいのだ!」
「ですがッ!」
「お前は姫様の推薦で特別に許しているだけにすぎない! 幾度として文句を言うのであれば、仕事を辞めてもらう、それでもいいなら勝手にしろ!」
「はいっ! 勝手にさせてもらいます!」
出社初日、俺は再び無職に返り咲く事になった。
しかし、仕事としてのしがらみがなくなった事もあり、無事にメイドさんの仕事手伝いは行える。
傷が完治したのが三日後、その間は俺も手伝い、多くの仕事を行った。
だが、当然と言うべきか給与が出るはずもなく、ただ働きでシアンの紹介してくれた仕事を投げてしまった。
後悔こそしていないが、シアンには申し訳が立たない。
その夜、シアンは現れ、非常に残念そうな顔をしていた。
「いや、なんかごめん」
「いえ、いいんですよ。それにカイトさんには兵士よりも向いている仕事がありますから」
「あるかなぁ……いや、なくても見つけなきゃね」
異界の地で不安になりそうになるが、後ろを向いては前に進めない。
それに、シアンは俺の身分を知らずにこうして養ってくれているのだ、それに応えなければ。
「カイトさんは人助けをしたいんですよね?」
「えっ? うん、そうかな……俺って困っている人見ちゃうと見逃せないからさ」
「なら警備隊はどうでしょうか。戦闘する事は増えるかもしれませんが、城下町で人助けをしても、さほど怒られないはずですよ」
「警察みたいな組織って事かな?」
ついうっかり元の世界の言葉を言ってしまった。これでは理解できないと、そろそろ学んだほうが良いかもしれない。
「えっと、治安維持組織かな?」
「あっ、そうですね! 何か事件が起きたときにはすぐに対処してくれれば、それで良いと思います」
「ありがと! じゃあ早速、入隊させてもらえるように頼んでくるよ」
椅子から立ち上がり、部屋の外に行こうとしたところ、シアンに呼び止められた。
「あの、私が頼みましょうか?」
「えっ、いいの? じゃあお願いしようかな」
「はい、任せてくださいね」
シアンは微笑むと、俺に軽く一礼をしてから出て行く。
今度はすぐクビにされないように頑張らないとな