フォルティス防衛戦Ⅲ
「兵長、盗賊達はもうアックアに到着します。今にも動いていただけませんか!」
「……本当に無傷で倒せるのか?」
「はい!」
兵長は椅子から立ち上がった途端、壁に掛けてあった長剣と盾を手に取る。
「分かった。では、ついていってやろう」
「兵長がきてくれるんですか?」
「私が行かなければ示しがつかないだろう! この件については、私が全ての責任を取る」
以前こそは頑固者の上司とばかりに思っていたが、この土壇場では責任をもっくれるという、上司の鑑にも思えた。
「ありがとうございます!」
「既に話は通してある。私とカイトは馬車でアックアまで向い、その間に作戦を聞くとしよう」
「……他の隊員は?」
「今言っただろう! 既に話は通してある――第一接触予定地点であるアックアに、お前の指定した九人を向かわせている!」
「はっ、はい! ありがとうございます!」
その後、シアンから用意してもらっていた高速馬車に乗り込み、早速俺と兵長はフォルティスを発つ。
揺れる馬車の中、兵長は困惑したように内装を眺めていた。
「どうしたんですか?」
「カイトが姫様のお気に入りだとは聞いていたが――ここまでの馬車を用意できるとは」
「そりゃ、シアンが作戦の立案者ですし、これくらいは貸し出してくれますよ」
しばしの沈黙の後、兵長は驚愕の表情を浮かべる。
「姫様が?」
「はい。言ってませんでしたっけ? シアンが俺の他に十人居れば勝てるって言ってたんですよ。で、今はアックアの人を守る為に、先んじて向ったという形でして――」
「姫様の命令とあれば、騎士や警備隊からでも増援は呼べたであろう。なぜそれを先に言わない!」
以前そのままの迫力で叱責を受け、俺は震え上がってしまった。
「す、すみません! うっかり言い忘れてました!」
「……まぁいい。私としてはカイトの言葉を信じたいと思えたのだ。姫様の命令でなくとも、力を貸してやった」
警備隊長の事もあり、俺は不意に一つの事に疑問を持つ。
「なんで兵長は、俺の言葉で動いてくれたんですか? 確証もないし、自己保身の強い官僚の人達はみんな断るのに」
「仮にもカイトは姫様の危機を幾度となく救っている。そして、《星霊》の件についても聞き及んでいるのだ――兵を出せなかった事は、私も歯がゆく思っていた」
俺の正義をいの一番に否定した兵長だった、それ以上に正義感を持ち合わせていた。
多くの人と接触を図ってきたが、このような真剣な態度で国を思っていた人は何人いただろうか。
「もし、私が力を貸さなかったとして、お前は一人で向かったのだろう?」
「ええ、まぁ……そうなるかもなーとは思っていましたね」
「そうだろうな。あの時は仕事としてお前を愚と罵ったが、そうでなければその行動に間違いなどあるはずがない」
それについては俺も反省している。
人助けはいい事であり、出来る事ならば進んでやった方がいいのは当たり前だ。
だが、例えばバイトしている最中にその仕事をほったらかしてやるのは、決して正しい行動ではない。
俺はそれを理解した上で、人助けを優先したいと考えて無職の道を選んだ。
シアンという救いの手があったからこそ、選べた道でもあるのだが。
「この戦いではお前と私は戦友だ。私の事は、ブラストと呼べ」
「それが兵長の名前ですか」
兵長は無愛想に頷き、首を窓の方へと向けた。
「うん、よろしく頼むよ、ブラスト」
「敬語!」
「はっ、はい! よろしくお願いします、ブラストさん!」
時は進んで行く。だが、今進んでいる時は無意味な時ではなく、歩み進んで行くような経過だ。




