フォルティス防衛戦Ⅰ
フォルティスに到着した俺は全速力で城へと向い、シアンの部屋へと入った。
「シアン、どうしたんだ!」
「あっ、カイトさん来てくれたんですね」
ミネアが呼びにきたというのに、シアンはさほど焦っているようには見えない。
走っている最中に見ただけだが、人々も慌てている様子はなかった。
「……何があったの?」
「大勢の盗賊がフォルティスに攻撃を仕掛けようとしています。この様子なら、三日後には到着するかと」
平然としているシアンとは違い、俺は普通に驚いてしまう。
「それってまずいじゃないか! まずフォルティスに住む人を避難させて、後は俺が向って――って、水の国の兵力を使えばいいんじゃないかな」
冷静になった瞬間、あっさり答えは提示された。
「それが、盗賊は三百人以上いるという話なんですよ。上位の騎士は参加取り下げ、下位の騎士も同じくです。警備隊や兵士達も数に怯えて参加はしないようですね」
「えっ、じゃあ誰が対処するの?」
シアンは俺の方をじっと見てくるが、まさかそういう事ではないだろう。
「ん? 誰?」
「カイトさん、お願いできますか?」
どうやらそういう事だったらしい。
「よし、じゃあ俺に任せてよ! ちゃんと向こうで修行してきたから、たぶん三百人でもどうにかなるからさ」
根拠はないが、自信はあった。勝てるというイメージもあった。
「では、十人くらい助けを呼んできてもらえますか? 兵士でも警備隊からでも、出来れば騎士からでも構いません。戦闘経験のある人を揃えてください」
「うん! 任せてよ……って、なんで別の戦力が必要なの?」
「カイトさんと十人がいれば、全員無傷で勝つ算段があるから……ですかね」
シアンは笑うと、城の外を眺める。
「できれば、皆さんに怪我を負わせたくなるので、カイトさんお願いします」
「それはいいけどさ、シアンが言った方が早いんじゃないかな」
「それもそうですけど、出来るものならカイトさんと協調が取れる人がいいのです。集団戦、それも少数戦なら連携は重要ですからね」
前々から思っていたが、シアンは子供だというのに戦い慣れている気がした。
直接戦闘型のミネアとは違って、シアンは軍師のように作戦立案する側ではあるが。
「でも、俺に味方してくれる人はいるかな」
「そこは――頑張ってください!」
目をぎゅっと閉じ、子供らしい真正面に感情が表されている。つまりは、具体的な方法の指示が一切ない、という事なのだが。
全てが全てをシアンに任せるわけにもいかず、俺は部屋を出てから人探しを始めた。
「盗賊の迎撃? そんなものは冒険者にでも任せとけばいいさ」
上位の騎士はこんな風に言う。
「それは騎士の仕事じゃない。本国に入ってから迎撃しても遅くはない」
これが下位の騎士の意見。
「俺達がやらなくても騎士団が動いてくれるだろ」
警備隊の考えはこんな感じ。
「我々は王宮の警護をしているのであって、外部に戦力を回すわけにはいかない」
とまぁ、兵士もこのように言ってくるので、取りつく島などない。
これを約二日掛けた時点で、俺は諦めかけていた。
皮肉にも、自分が貴族に嫌われているのは明らかだが、他者から見てもいい存在に映っていない事は理解している。
最悪の場合は俺一人で戦おう、そんな風に考えていながらも、最後の砦として兵長のいる部屋へと向った。
扉を開けて入ってみると、そこにはいつもと変わらない調子で兵長が座っている。
「何だ」
「兵長、盗賊の件については」
「無論、聞き及んでいる。兵士側の意見としては、王宮の警備に全力を当てるとも」
「……無理を承知でお願いします! 迎撃部隊に十人貸していただけないでしょうか」
兵長は渋柿でも食べたような顔をし、俺を睨みつけてきた。
「そういう事を頼むのであれば、警備隊か騎士に回せ。兵士がどういう仕事かは、理解していると考えているが」
「十人だけでいいんです! それで誰も傷つかず、無傷で倒せますから」
数秒の間を開けた後、兵長は疑惑の目を向ける。
「無傷だと?」
「は、はい! 無傷です」
兵長は目を細めた後、俺から視線を外し、背中を向けた。
「少し考えてやろう……だが、それは今ではない」
「ありがとうございまっす! 出来るだけ早くに頼みますよ!」




