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異世界からの闖入者  作者: マッチポンプ
第六話 神器の力
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神器の力Ⅷ

 これまたフォルティスに買い物をしにきた俺だったのだが、妙な騒ぎを聞きつけて野次馬的に人だかりへと飛び込んでいった。


 すると、あの時に助けた女性が片手を抑えながら、地面で呻いている様を目の当たりにする。


「誰がこんな事をやったんだ?」


「さぁ、どうにもよそ者らしいぞ」


 群衆を割きながら、俺は中心へと向い、女性に声を掛けた。


「大丈夫? 何かあったんだよね?」


 だいぶ厚かましいかも、とは言った後に思ったが、女性はそれとは明らかに違う反応を示す。


 それまで弱弱しく細めていた目は大きく見開かれ、腕を押さえていた手を俺に向けた。


「この人、この人に襲われました!」


 咄嗟の事に驚いた俺は、後に退いてしまった。


 俺が襲ったなど、そんな事は信じられない。そもそも、俺は今まさにここへと到着したばかりなのだ。


「俺に似た人がいたってことかな……」


 冷静に考え出そうとした時、城の方角からは兵士達が現れる。聞くまでもなく、この事件を聞きつけてやって来たのだろう。


「なんだ、何事だ!」


「この人に、襲われました!」


 兵士は俺を睨みつけてくるが、狂魂槌を置いてきている俺が犯人であるはずがない。


 投降の意として両手を挙げたところ、兵士はなぜか憤り、穂先を向けてきた。


「姫様を拉致するに飽き足らず、民を襲うなどとは――許せん」


「いや、俺はやってないよ」


「嘘つかないでください! あなたは私を襲って、宝石を奪ったじゃないですか!」


 ヒステリックに叫ばれても、俺は何も持ち合わせていない。


 持っているのは、せいぜい種籾くらいだろうか。


「持ち物を調べさせてもらう」


「いいよ」


 俺は何も見つかるわけがないと思った。事実、何も持っていないのだから。


「種籾の中に宝石を入れて逃げおおすなど、悪党が考えそうな事だ」


 種籾の中に手を突っ込んだ兵士は、俺の眼前に赤い宝石を突き付けてきた。こればかりは存在を知らなかっただけに、どうしようもない。


「この種籾は少し前に、そこの女性にもらったんだけど」


「私は知らないわ!」


「……城にまで付いてきてもらおうか」


 直接話せば分かり合えると、俺は一切抵抗する事もなく連行を受け入れた。


 城に入った途端、今度は男版大奥を見る事もなく、ただちに謁見の間に通される。


「ミネアを誘拐した次は国内での犯罪か」


「フレイア王、それは誤解です。ミネアは現在、水の国のフォルティスにて、シアン――シアン姫と共に生活しています」


 事情を理解しているだけに、今回は最初から弁解をする事が出来た。

「何……だが、あの手紙は」


「おそらく悪戯かと、ミネアはシアンと仲がいいので、邪魔な俺を追っ払おうとしたと推測されます」


「なるほど、有り得ない話ではないが」


 ここまであっさり信じられると、ミネアの素行が不安になってくる。


「それに、俺はヴェルギンさんと同じ力を持つ同類です。今までずっと師事させてもらっていました」


 ここまで言って――主に師匠の名前が大きいが――フレイア王は納得してくれたらしく、表情を和らげた。


「その件は信用しよう。私とて、別件でせっつくような真似はしない」


「なら――」


「その件、といったであろう? 私が認めたのはミネア誘拐が冤罪であるという所まで。本題は、君がこの国に来てから行った罪だ」


「その件も冤罪だよ! 俺は襲われていた女性を数日前に助けただけで、今日は何も……」


「事実追及は私の役目ではない。もし冤罪というならば、夜まで何を聞かれようとも、ボロは溢さぬはずだ――連れていけ」


 一切意見は取り入れられる事なく、俺は牢獄へと運ばれ、深夜二時になるまで尋問を続けられ事に。


「つまり、買い物に出ていたのはヴェルギンさんの指示。そしてヴェルギンさんから取れるアリバイは――朝の七時とやらまで、お前があの場に訪れたのは昼の一時。開きすぎではないか?」


「馬車が使えないんで、時間がかかるんですよ」


「おかしいな、ヴェルギンさんの自宅まではそこまで大きく時間を掛けずに行けるはずだが」


 腕時計を確認しながら、俺は空腹感を押さえて答え続けていた。


「とりあえず詳しくは明日だ。今日と同じ時間までには再び城に来るように」


「分かったよ……」


 気落ちしながらも、俺はトボトボと城を出て、ヴェルギンさんの家にまで戻ろうとした。


ここから数時間歩くともなれば、途中で倒れてしまうかもしれないという懸念もあるが、この時間ではどこの店も開いていない。


「《水の月》、いいザマね」


 振り返った途端、そこには黒いポンチョを羽織った者が三人いた。


「……組織の人間、だね」


 大男の前に立つ二人の内の――俺に声を掛けた女性と思わしき者は、口許を緩ませる。


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