神器の力Ⅳ
ニオはお茶を淹れ、褐色肌の男性と俺の前に置き、最後は自分の前に配置して席に座る。
「いやぁ、どうにも勘違いしとったらしいのぉ」
「あはは、誤解が解けて良かったです」
「まったくですよ! 私なんて死ぬかと思いましたよ!」
ニオは乗り出し、俺に顔を近づけてきた。
「いやいや、俺に言われても困るよ……と、その前にミネアのお師匠様の名前を聞いておかないと」
「ワシか? ワシはヴェルギン。知っての通り、ミネアの師匠じゃな」
「俺は池尻海人だよ。皆からはカイトって言われてる」
「異世界人で《水の月》とは、ミネアもまた珍しい男を連れてきたのぉ」
手紙には書かれていないが、ヴェルギンは瞬時に言い当ててくる。
「私はニオです! カイトさん専属のメイドをしています!」
ニオの自己紹介が入り、フレイア王の怒っていた理由がなんとなく分かった。
娘が拉致をしている、それどころか僕として女性を侍らせているなど、碌な奴であるはずがない。
「ニオか。カイトの事情については知っているのかのぉ」
「事情って何ですか?」
「カイトが《水の月》である、という事じゃよ」
「なんですかそれ」
ヴェルギンは呆れたような顔をした後、俺に顔を向けてきた。
「――と、いう事じゃが……部外者を連れ込んでよかったのかのぉ」
「それも込みで、ヴェルギンさんに今までの事を伝えるよ」
ニオにも、こうして説明しなくてはならない時が来ると予見している。それは今であり、師匠には全てを知ってもらいたいと思っていた。
「俺は元々、日本という国に住んでいたんだ。そこで、謎の男に襲われて、殺されるところだった」
「カイトさんを追い詰めるなんて、強い人だったんですね」
「次元転移の際に変化があったのじゃろう。当時は普通の人間だったんじゃろうな」
ヴェルギンは異世界人ではないというのに、俺の言いたかった事を当ててくる。
「そうだね。こっちの世界に訪れてシアンに助けられてからも、俺はいまいち力の変化を感じなかったんだ」
俺は机の上に置かれたお茶に口を付け、続ける。
「それもあって、元の世界通りに就職をしようとしたんだ」
「《水の月》と知らなかったにしても、変わっているのぉ」
「日本では就職難で、ついつい気張っちゃったんだよ。まぁ、兵士も警備隊員も人助けが出来ないからやめちゃったんだけど」
日本なら忍耐力のない男と誹られるが、この世界で俺は目的を持って動いていた。だからこそ、この状況に対しても後ろめたい部分はない。
「とまぁ、そんな風に働いている最中に、武器屋でこの狂魂槌を見つけたんだ。値段は金貨数十枚だったけど、その時はお金がなくて買えなかったと」
「金貨数十枚……どうしてそんな値段だったんじゃ!」
「えっと、身元不明の人が正体不明の武器として売ったらしく、問題物件扱いされてたらしいね。あと槌は不人気らしいし」
「神器はホルダーの元へと向かうと言うが、まさかそんな変な方法で向かうとは」
俺はその話を聞き、一人の人物を思いだした。
「あっ、それと同じ事言ってた人がいたんだよ! 光の国で貴族をしているダーインさん」
「カイトさんって貴族様とも関係が会ったんですか?」
俺は首を横に振る。
「違う違う。その人も俺と同じだったんだ。《光の月》らしくて、《禁魂杯》っていう妙に怖い神器を持っていたんだよ」
「杯のダーインがわざわざ訪ねてくるとはのぉ、あの若造はそういうとは関与しないクチだと思っていたんじゃがな」
若造、というところに引っかかりを感じるが、今は疑問を解消させるべきだ。
「どうもシアンが呼んでくれたらしいんだよ。ミネアに頼んで《導力》の修行をして行き詰っていた俺の為に」
「その魔力で使えんとは、俄には信じられんのぉ」
「それが、ダーインさんの倒すべき相手と守るべき人、という事を意識しろって言葉を聞いてから、少しはできるようになったんだよ。意識的にやってるわけじゃないけど」
ヴェルギンに期待しているのは、これを意識的に発動できるようにする事。
今のままではもしもの時ならばともかく、そうでもない時には力が発揮できない。
「なるほどな……それで、狂魂槌はいつ買ったんじゃ?」
「それが……ライアスっていう王宮の騎士が事件を起こしたんだ」




