神器の力Ⅲ
城の出口までは再び男版大奥が行われ、巨大パーティーを引き連れているドラクエ主人公にでもなった感じだった。
「この男、大丈夫なのか?」
「ヴェルギンさんなら何とかしてくれるだろう」
後ろから聞こえてくるヒソヒソ話に耳を傾ける。
しかし、聞こえたのは最初くらいで、それ以降は聞こえなかった。
城を出た時点で案内の一人を残して全員が散っていく。彼らは俺の護衛を買って出てくれたのだろうか。
それから八半日程度、つまりは三時間歩いた頃、一件の小さな家に着く。
周囲に住居はなく、枯れかけの木一本と、後は砂漠だけだ。
「なんかそれっぽい場所だね。亀の甲羅を背負った仙人とかがいそうだ」
「何ですかそれ」
「ん? 気を扱うのがうまい仙人だよ。あれの場合周りは海だったけどね」
おそらく分からない話題だろうな、とすぐに話を切り、扉をノックする。
「入れ」
「おじゃまします!」
足を踏み入れた途端、一歩先に白い雷撃が放たれた。
「う、うひゃー!」
「動くな」
ミネアの突拍子もなさも、火の国流なのだろうか。
「ちょっと待って! ミネアは俺の――」
「ミネアの居場所を話せ! さもなければ、その女の命も、お前の命もない」
褐色肌の筋肉隆々とした――ネイティブアメリカン風の中年男性は、こちらを睨みつけている。俺がなにをしたというのだろうか。
しかし、冷静に考えてみれば姫が他国に行っているなど問題行動でしかない。
ここまで暴力的なのも、きっとその心配の裏返しなのだろう。
「ミネアは水の国ですよ」
「そのどこだ!」
「フォルティスだよ」
「そうか……では、ここから先は水の国で捜索隊を回してもらう」
そう言いながら、褐色肌の男性の傍には紫色の文字が刻まれていく。《魔導式》だ。
これは修行の一環だと思い、背負っていた狂魂槌を構えると、《魔導式》へと一撃を加える。
以前は水にも効果があった辺り、エネルギー体であるこれも破壊できると見ていたが、攻撃は透過して終わった。
「きゃー! 触らないでくださいよ!
ニオの声が聞こえた時点で振り返ると、案内をしていた兵士が十字架に張り付けるかの如く、ニオの両腕を拘束している様が視界に入る。
「カイトさん、助けてください!」
「何でこんな事までする必要があるんだ!」
コップの水に青色一号を落としたように、俺の中に怒りの感情が広がった。
術が発動され、背後から白い雷撃の槍が放たれるが、実体さえあれば打ちおとす事も出来る。
素早く反転した俺は雷撃を叩き落とし、その反動で自分の体を兵士側へと持って行く。
ニオに当たらないように、狂魂槌による一撃を兵士の背中側へと打ち込んだ。
ただの一撃で兵士は制圧したが、まだ相手は残っている。
「ニオに手を出すっていうなら、遊びで済ませられないよ」
「……雷撃を打ち落とすとは、これならばミネアが封殺された事も信じられるか」
どうにもおかしい。
俺はミネアと戦った事自体はない。練習としても、組み手のような模擬戦闘すらしていないのだ。
「ミネアを封殺した?」
「狂魂槌によって、お前は我欲に捕らわれたのだろう? それだけの力があれば、世を混乱させるには十分だ」
「……何で俺は歓迎されていないのか、聞かせてもらえないかな」
褐色肌の男も妙に感じたらしく、眼光を鋭くしながらも答える。
「ミネアを脅して書かせたのだろう。だが、ミネアはこちらに伝わる方法で助けを出していた」
「助けぇ? あのミネアがそんな事するわけないじゃん」
「……お前はミネアをどこまで知っている」
「シアンを好いている火の国のお姫様? あと術がすごい、俺の師匠……みたいな子かな」
長い沈黙が続き、俺は再度切り出した。
「俺、ミネアから紹介されてきたんだけど? ミネアの師匠に師事して強くなれって。今のままじゃシアンを守れるか分からないからさ」
「これは読んだか?」
ミネアが書いたと思われる手紙を受け取ると、素早く中身を確認する。
「私が読みますよ!」
割り込んできたニオは俺の手から手紙をひったくると、音読をするように読み始めた。
「た大きな槌たを持った《水の月》が来たるわ。そいたつはアタシを人質にたして、無た理な要た求をたしてくたるかもた知れなたいけど、逆たらわたないで。もしたも言うたとおたりにたならないと、アタシが殺さたれちたゃうたから」
手紙は緊張して書いたように震えた字で書かれている。
妙にたの多い文章だが、最後の行には署名と狸の絵が描かれていた。
「これ、何の暗号かな」
「火の国に伝わる伝達方だ。たを抜くと文章になるようになっている。それによると、お前に捕らわれたミネアが、助けを求めている事になる」
刹那、悪戯猫のように笑うミネアの顔が頭に浮かび上がる。
「これ、多分ミネアの悪戯です」
「……ワシもそう思えてきた」




