悪の組織Ⅹ
あれから二日後。
「なんで私を眠らせたんですかー!」
「もう許してくれないかな。俺も悪気はなかったんだし」
「それに、クッキーもなぜか二枚もなくなっていましたし! 一体何があったんですか!」
内容を濁しているせいか、同じような事をニオから問いただされている。こちらが悪い事は事実なだけに、何ともいえなかった。
「ごめんなさい」
「許しません! もう一回デート行きましょ!」
「デート? もう一回? ……前に行ったっけ」
思った事をそのまま言ったところ、ニオは困惑気味に首を傾げる。
「行きましたよね? 冗談ですよね?」
「うーん……覚えてないかな。ごめん」
そういうと、やけくそ殴りでニオに何度も叩かれ、割と痛い手傷を負う事になった。
そうしてニオへの弁解が終わった時点で、俺はミネアの部屋に行き、ノックをする。
「カイトだよ」
「入りなさい」
部屋の中に入ると、ミネアは手紙のような物を読んでいた。
「ミネア、頼みがあるんだ」
「あたしと契約する気になったんでしょ? そんなのはすぐに分かるわ」
ミネアに言われた通り、俺は以前に先送りとした契約について考えている。
「期間限定、って事には出来ないかな」
「……理由を言いなさい」
「俺は貴族から……それと、組織から狙われているんだ。このままシアンの傍にいれば、また今回みたいな事になるかも知れない」
それだけ、ライアスの言った発言は恐ろしかった。
俺一人であれば、今回のように狂魂槌で退けられるが、シアンやニオに被害がいく可能性を考えるとそう簡単には動けない。
ミネアならば人質になる事はないだろう。それ以上に、俺よりも強いから安心できる、という部分が大きいが。
「それで、期間というのはいつまでかしら」
「俺が守りたいと思う人を守れる力を手に入れられるまで」
それまで仏頂面をしていたミネアは笑みを見せた。
「あたしはあんたを買収する気で交渉したのよ? それを利用する気?」
「ごめん、でも俺はこうしなきゃ前に進めないと思う」
「馬鹿に付ける薬はないわね」
本気であるからこそ、ミネアに詰め寄ってでも了承してもらおうとする。
だが、ミネアはそれよりも早く手を伸ばしてきた。
「でも、あんたみたいな馬鹿は嫌いじゃないわ。シアンちゃんを何度か守ってもらった事は本当だし、その条件を飲んであげるわ」
黙ったまま何度か頷き、俺はミネアの手を握る。
「馬車を呼んであげるわ。向こうについたら、これをフレイア王に渡しておいて。それで意味が通じると思うから」
ミネアはそれまで読んでいた手紙の裏に、素早く何かを書き込むと、封筒に戻して俺に手渡してきた。
「あれ、ミネアは来ないの?」
「そうよ。元々、シアンちゃんと二人きりになる為に、それだけの為にあんたを追い払おうとしていたんだから」
そういえばミネアはシアンの事を好いていたな、などと冷静に思い返しながら、俺は一つの問題点を指摘する。
「じゃ、じゃあ誰が修行につき合ってくれるの?」
「あたしの師匠よ。あんたみたいないろんな意味での問題物件も対応しているから、強くなれると思うわ」
釈然としないまま、俺は水の国を去る事になった。
修行を終えて、強くなったらまた戻ってくる。それまでの、短い間のお別れだ。
夕闇の中、城の前に一台だけ馬車が佇んでおり、それが火の国行きである事が分かる。
別れを告げる事は出来なかったが、きっとミネアが伝えてくれるだろう。
そうして、俺は馬車の扉を開けた。




