カイトとニイトと就職活動とⅡ
「金貨六百枚……本当にそんなに高いのかい?」
「お客様が当店一番の斧と言いましたから。これは火の国のハーフドワーフが作った業物ですよ! 障害物の破壊、人体への攻撃、それらを一万回しても壊れる事のない、強固な素材製ですし、買いですよ」
三千万の斧、どう考えても割に合わない。それならば適当な鉄パイプでも持って戦った方がよさそうだ。
「……できるだけ安いのに変更で」
「安いのですか。それっていうと……これとかどうでしょう」
店主が取りだしたのは武器用の強化をされたと思われる、手斧と伐採斧の中間に当たる斧。
大きさも申し分なく、値段が安いならばとりあえず取り繕える、と妥協できる程度だった。
「それはいくらで」
「金貨四十枚ですよ。まぁ平均的なところですかね」
二百万の斧、今度はだいぶ安くなったようにも思えるが、さすがにそんな大金は払えない。そもそも、兵士の仕事でその料金が帰ってくるのは、一体何年後なのだろうか。
できる事ならば早々に帰還したい俺からするに、この選択肢も半ば必然的に消滅する。
「もうちょっと安くできないかな?」
「金貨三十九枚くらいなら負けとくけど、それ以上は無理ですね」
買えない事が確定した時点で、俺は急激にやる事を失ってしまった。
そんな時、俺の目には変わった槌が目に入る。
「あの槌はいくらなのかな? なんか杜撰に置かれているけど」
斧と言う選択肢を放擲した俺だからこそ、そこに置かれていた存在に気付いたが、きっと武器を買う目的で来ていれば絶対に売り物だと理解できなかっただろう。
「あれですか? あれは身元不明の男から買い取った、これまた正体不明の武器ですよ。まぁ、槌を使う人は少ないから、三十五枚ってところですね」
それでも十分高いが、なぜかそそられる武器だ。
そもそも、シアンの言葉を愚直に受け取れば、素人でも扱える武器というのは力任せで強い武器という事。
切断力こそはないが、槌ならば刃がないのでまず壊れない、という意味では無限に使い続けられる。
「いつか買いに来るから、残しておいてくれないかな」
「ま、買い手もいないでしょうし、半年くらいは待ちますよ」
「ありがとう」
さて、肝心の武器を入手できなかった俺がどうしたかというと、道行く人に聞きながら付近の農村部へと行くことになった。
そこで値段交渉などを行い、どうにか中古の伐採斧を金貨二枚で卸した。これでも随分高いが、とりあえず錆びていないということで良しとしよう。
ともあれ、武器――どう考えても武器ではないのだが――を手に入れ、俺は満を持して兵士となる事になった。