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異世界からの闖入者  作者: マッチポンプ
第五話 悪の組織
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悪の組織Ⅷ

 帰ってきて早々、俺はシアンの部屋へと向かう。


「シアン、例の──」


 扉を開けた瞬間、そこにはライアスがいた。


既に眠っているシアンを前に、彼は下卑た笑いを浮かべて、制止している。


「何をやっているんだ!」


「またお前か。平民風情が私に何の用だ」


 恰も何もしていないような顔で、ライアスは俺の傍へと寄ってきた。得物は確認できず、鎧も今は纏っていないように見える。


 ただそれは、こっちも同じだ。


 鎧はもとより、狂魂槌も部屋に置いたまま、ここで戦ったとして勝てる見込みはないだろう。


「また、はこっちの台詞だよ。今度は何の目的で動いているんだ」


「さて、何の事やら」


「とぼけても無駄だと分からないかな。不審者の出没で被害にあっている人は、俺以外にいなかった」


 不審者の一件はニオを通じ、シアンが兵士や警備隊に周知したという。このライアスがそれを知っていない事を分かった上で、探りを入れてみた。


「そんな者が出ていたのか。通りで城の警備が増えているわけだ」


 一切焦りなど見せず、ライアスはシアンのベッドに腰を下ろす。


「どうしてシアンの部屋にいるんだ!」


「姫さまとお話しをしていただけだ。最近はお疲れのようで、こうして話している最中に眠ってしまうが――寝顔もまた、美しいとは思わないか?」


 俺は考えなしに接近すると、ライアスの顔面目掛けて拳を放った。


 その一撃は何の意味もなさず、ライアスに手首を掴まれた時点で終了する。感情に任せて動いてしまうのは自覚しているが、今は抑えが利かなかった。


「私は貴族だ。騎士称号では不足かもしれんが、それでも騎士でも上位の立場……姫様と話す程度ならば、不足はないはずだが?」


「そういう問題じゃない! お前はシアンに、何かひどい事をしようとしてたんだ!」


 鼻で笑った後、ライアスは眠っているシアンの顔を覗き込む。それこそ、キスをしようとしているのではないか、と思う程に近づいていた。


「そんな証拠があるとでも? また前のように事実無根を述べられても困るのだが」


「このクッキーに覚えはあるよね?」


 ライアスはこちらに顔を向け、俺が持っているクッキーを凝視している。

「それは私が姫様に贈ったクッキーだ」


「それも連日贈っているよね? 俺が謎の不審者に襲われた日から」


「何が言いたい」


「お前はシアンに悪い事をする為に、俺を消そうとした……そして、シアンに抵抗されないように、このクッキーに睡眠薬か何かを混ぜ込んだ――違わないよね」


 一切表情を変えないライアスを見て、俺は言葉を止めた。


 すると、慌ただしい足音を立て、ニオが部屋に飛び込んでくる。


「カイトさん、ミネア様を呼んできましたよ」


 その手にクッキーの箱を抱え、随分と疲れた様子のニオが現れた。これにはライアスも驚いたらしく、すぐに顔を顰めてくる。


「メイドを姫様の部屋に入れるなど、何のつもりだ」


「まぁいいじゃないか。ニオ、こっちに来てくれないかな」


「はいはい」


 早口気味に言い、俺の傍に来たニオの口に、証拠品のクッキーを突っ込んだ。


 すると、疲れが回っていた事も影響していたのか、ニオは急に倒れて寝息をかきだす。


「ほら、これで証拠になったでしょ?」


「……それはこの菓子元々の効果だ。少量の酒が隠し味に入っているらしく、弱い者ならば倒れてしまうだろうな」


 それを聞いた上で、俺はニオが抱えてきたクッキーの箱を開け、一枚をライアスに投げてから俺も一枚を取る。


「じゃ、実際に食べて確認してみようか。大の大人と高校生、ここまで種差が出れば結果も出るよね」


「……貴様が毒を盛ったという可能性は?」


「ないよ。ほら、この通り」


 わざと小さく齧り、牽制しているように見えた。


「外にはミネアが待機している。お前が怪しい態度を見せたら、その時はすぐに呼べるって事を忘れないでほしいね。じゃ、いっせーので食べよう」


 ライアスは頷かず、黙ったままだが、俺は動く。


「いっせーの」


 一口でクッキーを食したが、ライアスは依然として固まったままだった。


「睡眠薬入りの奴を、食べたいとは思わないよね」


 俺は言い、もう一枚のクッキーを取りだして、表面を指先でつつく。


「これ、ニオに贈ったクッキーだったんだ。だから、睡眠薬なんて入っていない……それでも敬遠したのは、入れたって自覚があったからだよね」


 本来はカラー砂糖などで文字を入れるらしいが、俺は刻印型を選択しただけに、触っただけでは判断できなかったのだろう。


「証拠はこれで十分だよね? 後少しでミネアが来るから、それまで待っていようか」


 ニオに頼んだのは、ミネアの呼び出し。ただ、これに関してはニオが早めに到着するように要求していたので、移動の際にラグが出る。


 ライアスの様子を確認した上で、今度はミネアという力を持ってくる事が出来るのだ。相手に逃げる隙など与えない。


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