悪の組織Ⅶ
「カイトさん、あれって本当ですかね」
「今は分からない。でも、接触してみれば分かるはずだよ」
そう言いながらも、俺は街の散策を優先した。
個人的に興味が優先されたというのもあるが、なによりはニオがこのお出かけを楽しみにしていたからである。
ただの買い物であれほどまでに喜ぶくらい、メイドの仕事はきついのだろう。
そうは見えないが、専属メイドという事で俺の前で見せていないだけかもしれない。
「あっ、あれがお城へお菓子を届けているお店ですよ」
指さされた方を見ると、妙に大きな菓子店に辿りついた。
店内に入って早速、ニオは俺の手を引っ張って色々なコーナーを巡る。俺としても、金は少なからず持っているので、彼女が欲しいと思っている物を買う程度はできた。
会計を終えて店を出ようとした時、俺はパズルのピースが抜け落ちたように、気持ち悪くなる。
その喉につっかえた感触が何なのか分かった瞬間、俺は店員へと声を掛けた。
「……この店に赤い箱のクッキーってあるかな? 金箔押しの」
「ありますよ。でもあれは特注品ですからね……」
「特注品?」
一度振り返り、ニオの視線がない事に気付いた時点で店員に顔を近づける。
「それがですね、プレゼント用なんですよ。それも、恋人用の」
つまりあれは、シアンが誰かから好意を寄せられて贈られた、という事になるのだ。
あのお子様なシアンに対して、そのような事をするロリコン変態男が、この世界にもいると考えると若干寒気がする。
「王宮宛てで依頼を出した人はいるかな?」
「えっ、まぁ居ますけど……そういうのは公開できないんですよ」
「俺はシアン……姫様預かりの者だよ。本人から聞いてくるように頼まれたんだ」
怪しまれているような目線を向けられたが、俺の胸に付けられたバッジを見た途端、黙って頭を下げてきた。
「ライアス様です」
「もしかして、まだストックとかある?」
「あります」
連日来ている事に気付いていた俺は店主を促し、その中の一つを持ってくるように頼む。
そして持ってこられた箱を開けると、案の定というべきか、シアンの名前が刻まれていた。
「何か光ってるけど、これ怪しい食べ物じゃないよね」
「いえいえ、それはもう安全第一ですよ。ですが、お客様からの材料受け取りもしておりますので、人それぞれの様子になりますがね」
妙に光を反射する銀色の粉、アラザンの粉末にも思えるが、それにしては光り方が純情ではない。
「毒物じゃないよね」
「それはもう。きちんと毒物検査をして、その上でお送りしていますので。ただ、惚れ薬や媚薬、さらには体毛や体液まで混入させるお客様がいるので――」
「カイトさん、何の話ですか?」
突如として話しかけてきたニオに驚き、俺はクッキーを落としてしまった。幸い、三枚くらい落ちた程度で済んでいる。
「これ姫様の名前じゃないですか?」
「ニオの名前刻印で一箱くれないかな」
追求されるよりも前に、俺は店員に注文を出した。
それで察してくれたらしく、店員は店の奥へと消えていく。
「今のクッキーって」
「ニオへのプレゼントだよ。今日は付き合わせちゃったし、いつもお世話になっているからね」
元々プレゼントしようとしていたのは都合が良かった。若干前後はしたが、考えたままの事を言える。
「わぁっ! 嬉しいです! カンゲキです!」
喜ぶニオを尻目に、落ちていたクッキーを一枚拾った。




