悪の組織Ⅴ
「昨日も見つからなかったんですか? もう不審者は逃げちゃったかもですね」
あれから三日間、毎日夜は探しまわったが、ノーヒット。これに関してはかなり問題ではあるが、ニオの言うように不審者が逃げてくれたならば構わないかもしれない。
「あっ、聞き忘れてたけどさ、シアンに報告はしてくれた?」
「はい! なんかすごく寝むそうでしたけど、ちゃんと聞いてくれましたよ」
俺の記憶によれば、シアンが眠そうにしていたのは丁度三日前のはず。
ニオの接触があったのは四日前、動くにしてもそこからだと考えると、なぜシアンは疲れ果てていたのだろうか、と疑問になる。
「そっか、ありがとう」
「それはそうとカイトさん! 朝ごはん持ってきましたよ」
雑談にかまけていたが、ニオはいつも通りに朝ごはんを持ってきてくれたのだ。ならば早めに食べないと無礼ではある。
「いただきます」
俺が提案を出してからか、米食が追加された。ただ、米といっても日本的な扱いではタイ米のような米、少しばかりイメージから外れている。
「魚にパンにスープにお米って、カイトさんは特徴的な物を食べますね」
「そうかな? 朝ごはんの定番じゃないかな」
「パンやスープは分かりますが、魚やお米はそういう感じなかったですね」
この世界と日本の文化差異を感じながらも、俺は塩魚を切り分け、米と一緒にかっ込んでいった。
できるものならばこのスープもコンソメではなく、味噌汁にしてほしいところではある。
日本ではジャンクフードが大好物で、弁当は大抵コンビニの三十円引き菓子パンだっただけに、最初だけはこの世界の食文化には馴染めた。
しかし、長らく米を食べないと久々に食べたくなる。できれば、この米ではなく日本米が食べたいものだ。
「味噌とか醤油とか納豆とか出回っていないものかな」
「全部聞いた事ありませんね。たぶん私だけじゃないと思います!」
「じゃあポテチ作ってよ。芋を薄く切って揚げるだけだから、さほど難しくないと思うけど」
味噌や醤油や納豆の作り方は分からないが、ポテチならば簡単だ。むしろ、俺ですら作れるレベルだろう。
「はい! じゃあ作ってきますね」
「うん。頼むよ」
ニオが出ていった後、俺は食事を再開した。
不意に、一つの疑問を覚える。
この城の中へは、誰が食料を運んできているのだろうか、と。
兵士がそのような仕事をするわけがなければ、メイドさんのような非力な存在に任せるはずもない。
ただなんとなく気になった俺は食事を平らげ、しばらく窓の外を眺めていた。
おおよそ三十分が経過しようとしていた頃、ニオが帰ってくる。
「カイトさん! できましたよ、ポテチ!」
「おお、この匂いはポテ……」
確かにポテチではあるのだが、それは円形をしていなかった。
よくある細切りポテチのような様相を呈しているが、これ自体で味が変わるはずもない。
試しに一口食べてみるが、どうにも味気がなかった。
「なんか、味薄いね」
「そうですか?」
「塩は掛けた?」
何の気もなく言うと、ニオは部屋を出ていく。あわてん坊なのは仕方ないが、ここまで来るとドジっ子なのではないかと疑ってしまう。
物の五分程度で戻ってきたニオが塩を振りかけると、いつも通りの良く知っているポテチになった。
コンソメパンチやのり塩も食べたいが、しばらくは塩味を楽しもうではないか。
「今度こそ美味しいですか?」
「うん、グッドだ」
朗らかに笑うにニオを見て、俺は一つの質問を投げかける。
「ニオ、ちょっと付き合ってくれないかな?」
「えっ、カイトさんそれって!」
顔を赤らめたかと思うと、ニオは俺が何かを言う前に
「分かりました! お受けさせていただきます! むしろ一緒に連れて行ってください!」と、怒涛のように返事を出してくれた。




