悪の組織Ⅲ
ミネアは顔を顰め、俺の目を凝視してきた。
「あの貴族ね。確かに不審な行動ではあったけど、フォルティス王直々にお叱りを受けたからにはもう懲りているんじゃないかしら」
これに関してはミネアの意見に賛同できず、俺は窓の外を眺めた。
真っ暗で、ほとんどの人が眠っている。パソコンもないので夜更かしする必要もないのだろう。
「ミネアは黒いポンチョに覚えはあるかい?」
「……さぁ? 随分センスの悪い服としか思えないわね」
「身分を隠す必要があるってことじゃないかな。少なくとも、俺にはそう見えたよ」
「あんた、あのライアスって貴族を目の敵にしているのかしら? 前もだけどかなり強引に感じるわ」
ライアスに対して敵愾心を抱いているわけではない。正しくは、ライアスだけに向けているわけではないというべきか。
「俺は悪い人を許せないんだよ。特に、人殺しは絶対にやっちゃいけない……人として外れているからね」
「貴族は未だに奴隷を飼っているわ。それに、辺境の村や貴族の領地内では非人道的な労働をしている――公式上は労働者もいるわ」
前者は理解できないが、後者については日本の専売特許なので、さほど違和感を覚えなかった。
とはいっても、日本では、そんな職場は数限られてくる――はず。
「俺は悪人が許せないだけだよ。元居た世界では殺人は、最も重い罪だったから」
「価値観の違いね。……それよりも、なんであたしに伝えにきたのよ。いつもならシアンちゃんに言うじゃない」
「いや、ミネアの方が戦いなれてるじゃん? だから頼りたすいなぁって」
「何よそれ、都合のいいお助け役だなんて考えないでくれない?」
「そんな事は言ってないよ! 俺はミネアを尊敬しているんだよ」
機嫌が悪いのか、ミネアは俺の胸倉を掴んできた。
「何か勘違いしていない? 私はあんたを助けているつもりはないのよ。いつもシアンちゃんが困っているから、特別に介入しているだけ」
「それはまぁ……なんとなく分かっているからさ。もしも何かあった時にでもいいから、助けてほしいんだよ。一応、何もなければ俺が決着を付けるからさ」
「嫌よ。こんな言われ方したら梃子でも動きたくないわ。それに、あたしとあんたは赤の他人同士、助けてあげる義理もないのよ」
「俺とミネアはもう友達でしょ?」
俺の胸倉から手を離したミネアは、代わりというように足を踏みつけてくる。
「痛った!」
「何が友達よ。それはあんたが勝手に思っているだけ、分かった?」
何度か頭を下げた後、俺は部屋を出ていこうとした。
「待ちなさい」冷静そうな声色でミネアは言う。
「ん、どうしたの?」
「……あたしのモノになるなら、考えてあげてもいいわ」
恋愛漫画でよく聞く台詞だが、ミネアは俺に惚れていたのだろうか。
言われてみればツンデレのような気がしないでもないが、俺は飽くまで健常者。ミネアくらいの年の子とは友達であっても、恋人にはなれないのだ。
「嬉しいけど、困っちゃなぁ……ミネアがもう少し大きくなったら構わないけ――」
「勘違いしないでよね、あたしはあんたの力が欲しいだけ」
「またまた」
「今あんたはシアンちゃんのモノ、つまりは水の国の所有物なのよ。《選ばれし三柱》を保有する事がどれだけ国益に繋がるか、あんたには分からないだろうけど」
イメージとしては一騎当千の武将のようなものなのだろうか。
「今すぐにとは言わないわ。でも、近々答えを聞かせてもらおうじゃない」
「でもシアンに生活を支えてもらっているしなぁ」
「火の国に来たら、国賓待遇よ? 王侯貴族に次ぐ待遇くらいは掛けあってあげる。向こうなら時間もあるし、あんたの不毛な修行に付き合ってあげてもいいけど?」
強くなりたいなら、楽をしたいなら、火の国に赴く方が得というわけか。それにしても、やはり気が引ける。
「うん、考えておくよ」
などと、とりあえずその場のお茶を濁す事でこの話を終わらせようとした。
ここで完全な意味での否定が出来なかったのは、いつか成長の壁にぶつかった時には、ミネアに頼らなくてはならないと認識出来ていた為。
でも、今はこのままで構わない。




