カイトとニイトと就職活動とⅠ
無事に経済的支援を受ける手はずになった俺は、城下町へと赴いた。
中世型の時代である事は予想できたが、文化の発展度がイメージするそれとは乖離している。
例を挙げるのであれば、非近代的なマーケットや小さな店舗がある一方、売られている品が現代のそれと比較的同じ水準で作られているのだ。
小遣いがてらに受け取っていた通貨で菓子類――主にケーキ類――を食してみたところ、これまた美味であり、とても甘い。こうした時代ならば砂糖の供給も少なそうではあるが、随分と豊かにも感じられた。
しばらく見回った時点でレートも把握でき、小遣いとしてもらった金貨十枚の価値を恐ろしく実感する。
売られている品から逆算するに、銅貨が十円、銀貨が一万円、金貨が五万円というところだろうか。そう考えてみると、小遣いで五十万円は途轍もなく多い。さすがは王族といったところか。
そうして一日目の調査は完了。銀貨を一枚使った程度である程度の事を終えた。
衣類をこの世界で新調し、食料の味見をし、武具店などを巡る。なお、武器は使い方が分からない為に、ただ見て終わりという拍子抜け具合だが。
城に戻ると兵士に呼び止められるが、シアンから受け取っていた金色の勲章 ――バッジのように小さな物――を見せただけで、敬礼をされて通行が許される。
夜に入る少し手前で、扉がノックされた。
「どうぞー」
「失礼します」
入ってきたのは、予想通りシアン。彼女以外が俺に接触を図るわけがない上、ノック音の軽さからなんとなく把握できた。
「それで、お仕事は見つかりましたか?」
「あっ、と……それは明日かな。今日はとりあえず身だしなみを整えてきたよ」
就職の事については完全に忘れていた。この異世界の地を遊びまわる事に夢中で、それどころではなかったという言い訳もあるが、恩人にそんな事は言いたくない。
「そうですか」
随分そっけなく、話は終わってしまう。
「なんかいい仕事ってないかな?」
「いい仕事ですか……お城の兵士なら、命の危険がある以外に問題はありませんが」
異世界に来た者は大抵勇者やらになれると聞くが、そうそう美味しい話はないらしい。スタートからモブ兵士では、今後がどうなっていくかも分からなかった。
それでも、仕事を紹介してくれた以上、ここは有り難く頂戴しよう。
「じゃあ、明日からいいかな?」
「えっと、明後日からなら……お父様に伝えておきますので」
「おっし、頼むよ」
翌日、さっそく結果報告がきた。
「お父様も認めてくれました。では明日からお願いしますね」
「うん、ありがとな」
そうと決まったら武器を買いに行かなくてはならない。最初こそ戦う気はなかった俺も、さすがに戦闘――おそらくは警備が主――が仕事の兵士になるならば、一つや二つの武器は欲しいところだ。
「なぁシアン、お勧めの武器とかってない? 俺ぜんぜん戦闘経験ないんだよね」
「お勧め……ですか? 槍か斧辺りでしょうか」
「あれ? 剣とかじゃないの?」
シアンは言いづらそうな顔で戸惑った後、口を開く。
「剣は技術が必要なので……。槍は射程が長く、安全に戦闘できますよ。それに斧は農民さんからの臨時戦闘員も使えるような、力さえあれば使える武器ですから」
言われてみれば確かにそうだ。手斧ならともかく、伐採斧や戦斧で攻撃をされれば、盾で防いでもどうしようもならなそうに思える。
それこそ、体力さえあれば技量に関係なく戦力を発揮できるわけだ。
「よし、じゃあ斧買ってくる! シアン、サンキューな」
「えっ、あ……サンキューです?」
「あ、ごめんごめん。ありがとうって意味だよ」
納得したように、シアンは何度か頷く。
それを見て安心した俺は部屋を出ていき、当初の宣言通りに武器屋へと向かった。