狂魂槌を持ちし者Ⅶ
「《星霊》の大群が押し寄せているだって?」
「はい、早急に手を打たなければ、付近の村は――」
「《星霊》って何なのかな?」
目をそらして乾いた笑いを浮かべたシアンは咳払いをし、説明をしてくれた。
「世界を構成する《マナ》という力があります。そのマナで体を構成している原生生物を、《星霊》と言うのです」
「へぇ、動物とは違うの?」
「はい、動物は血肉という、私達と同じ体ですけど、《星霊》はエネルギーの塊みたいなものですから……説明はこれくらいでいいでしょうか」
「あっ、ごめん。続けて」
またまた思ったままの事を聞いてしまった。ダーインさんの時もだが、本格的に直さないといけないかもしれない。
「近くのアランヤという村に通達は送りましたが、避難までには間に合わないと思います」
「水の国からは誰か向っているの?」
シアンは俯き、「《星霊》との接触は避けるように、との通告がお父様から出されました」と、寂しそうに言った。
「なんで! アランヤって場所も、水の国なんでしょ?」
「特に目立った特産品もなく、税もさほど得られていない事が原因だと思います。あの村の近くは土地が痩せており、お父様は割に合わないと考えているのかと……」
まだ王様とは会った事がないが、そんな考え方が許せるはずもない。
「じゃあ、俺が行ってくるよ」
「えっ、でもカイトさんはまだ……」
「迷ってなんて居られない。迷ってたら、きっと……いや、絶対に後悔するから」
自室へと戻り、旅の準備を済ませると、すぐに部屋から出た。本当ならば一日二日はこもっている予定だったが、それは後回しにする。
「カイトさん」
部屋を出た途端、シアンに出くわした。
「ん、どうしたの?」
「私も、行きます。役に立たないかもしれないけど、それでも……」
黙ったままシアンの頭に手を置き、俺は笑う。
「そんな事ないよ。誰かが居てくれた方が心強いからさ」
「なら、あたしも連れて行きなさいよ」
その声の方へと顔を向けると、短いツインテールが小さく揺らし、ミネアが拳を突き出していた。
「ミネア! 君もきてくれるのかい?」
「シアンちゃんが心配なだけよ……あと、《導力》精製もできないあんたが、シアンちゃんを守れるか不安になっただけ」
シアンの手を握ると、そのまま俺は走った。その時にシアンが驚いている様も見えたが、今は許してもらおう。
「な、何よ……」
開いた片手でミネアの手を握ると、円陣を組んで気合いを入れた。
「よし、三人で頑張るぞー!」
運動会のように掛け声が入る事はなかったが、二人の表情だけで、俺は気持ちが通じ合っているのだと気付く。
「じゃあ、馬車で行きましょうか。アランヤまでは徒歩だと二日以上かかるので」
「あっ、そうだったんだ……」
危うく到着できずに終わるところだったが、これでとりあえず道は開けたという事だろう。
馬車に乗り込んでからは、シアン主導で作戦の方針が決められていった。
「状況によりけりですが、ミネアちゃんは前線に赴いて、《星霊》を指揮している個体を倒してください」
「分かったわ」ミネアは短く答える。
「ねね、俺は?」
「カイトさんはアランヤの人を護衛してください。町全体の捜索と、移動中に襲撃された際の戦闘が主になります」
シアンが黙ってから少し待つが、それ以上何かが言われる事はなかった。
「あれ、それだけ?」
「はい。規模は二十体から五十体と見越していますので、ミネアちゃん一人で制圧可能だと推定されます。犠牲者を出さない事に重点を置けば、即時決着よりも安全優先ですね」
ウェットリザードの一件があり、主戦場での戦闘となれば不足がついてくるという事は分かる。
そして、逃げ遅れた人がいないか調べるという面においても、シアンの作戦に問題はなかった。
ただ、いくら強いとはいえミネア――女の子一人に主な戦闘を任せる事が、男で年上の僕としては少しばかり釈然としない。




