狂魂槌を持ちし者Ⅴ
「あんた、本当に戦う気があるの?」
自室について早々、さっそく質問を投げかけられた。
「そりゃ、ある……さ!」
実際は、かなり曖昧でしかなかった。元々平和な日本の人間なのだから、いざこんな世界に来たとしても、すぐに適応できるはずがない。
自己防衛にすら二の足を踏み、あのような人間以外にすら気絶程度で留めようと戦っていた。
「はい、結論! あんたが《導力》の精製をできない理由は、戦う決意も覚悟もないから。その力で何かをしたい、っていう明確な思いがないからよ」
「俺はこの力で誰かを助けたい……これじゃ足りないのかな」
この思いに偽りはない。現に、この世界に来てからは人助けをいつも以上に行い、人並とはいえ多くの人の助けになったはずなのだ。
「その思いに間違いはないわ。ただ、気持ちが戦う力に全く行っていないのよ」
何も言い返せずに黙っていると、ミネアもまた声を出さずに立ち去っていく。俺には、そのミネアを止める事はできなかった。
情けない気持ちになりながら城下町に入り、しばらく歩いていると、城ではない場所に辿りつく。
「ちょっと昼寝していこうかな」
自然公園のように木々や草むらのある、ひらけた場所。何も見えない時は、横になって考えた方がいいかもしれないと思っていた。
寝転がり、少し目を閉じると、人の気配をすぐに感じ取る。
「少年、隣は構わないか?」
俺は目を閉じたまま眠気を振り払い、「どうぞ」と言った。
隣に誰かがいる事は分かるが、それを確認するのも無粋だろう。
しかし、どうしてそれなりに広い公園内で、俺の隣を選んだのだろうか。
「何か悩んでいるように見える」
「えっ」
「何かの縁だ。言うがよい」
声からして壮年の男性だと判断できた。父さんと同じか、少し上くらいだろうか。
不意に、年上に頼りたいという弱音が出て、俺はそのまま口を開いた。
「俺、どれだけやっても《導力》の精製も、《導術》の使用も出来ないんだ」
「拳銃は弾丸を詰めなければ、小さな槌の代わりに程度にしかならない。だが、弾を装填すれば、弓や槍を越える射程と、圧倒的な攻撃速度を得られる……今の君はそういう状態だ」
拳銃など、エアガンくらいでしかみた事がないので、あまりよく分からないたとえだと感じる。
「俺の銃弾はどこにあるんだろ」
「目的と目標を決めていくとよい。倒したい者、救いたい者、自分の中でそれを明瞭にしてゆけ――さすれば、道は見えてくるだろう」
「あっ、ありがとう……ございます」
目を開けると、そこには貴族を彷彿とする、金の刺繍入りの白い礼服を纏った壮年の男性がいた。
イメージでは黒髪で髭のおじさんだったが、実際は金髪で、金色の瞳をした――品のいいロシア人のようなおじさんだったらしい。
「あなたは一体?」
「君の先輩、とでも認識していればよい」
「先輩……?」
全く身に覚えがなかった。このようなおじさんと、俺はいったいどこで知り合ったのだろうか。
「たとえ話を真に受けるでない――いや、君はそういう愚直な人間かもしれないな」
おじさんは品の良い笑いをし、俺に向かい合う。
「では改めて言い直そう。私は《光の月》……君と同じ、選ばれし人間だ」




