狂魂槌を持ちし者Ⅳ
修行開始からすぐに、俺はそれまでになかった違和感を覚える。
「……なんか変な気配するね」
「よく分かったわね」
ミネアは気付いていたらしく、険しい表情をした。
「少し待っていなさい。すぐに片付けてくるから」
「ミネア、俺も行くよ!」
数秒後、ミネアは「来なさい」と、俺の同伴を許可する。
俺が察知できた辺りで分かる通り、その奇妙な気配の根源は割と近くにいた。それこそ二、三分走った程度で到着する距離。
そこには、かなり人相の悪い巨大ヤモリがいた。人と同じくらいの大きさである辺り、コモドオオトカゲという海外のトカゲを思い出させられる。
「あれ、悪いモンスターなのかな」
「あれはウェットリザードっていう動物――みたいなものよ」
つまりは、倒していいような相手ではないようだ。まだ能力を手に入れていないだけに、戦いたいわけでもないが。
油断しきっていたところ、ウェットリザードは突如として襲いかかってきた。
「うわっ! わぁああああああ!」
全力で逃亡するが、まるで犬のように追跡してくる。
こちらは大槌を持っているだけに、走る速度もそこまで早くはなかった。言うまでもなく、ウェットリザードの方は少し早めである。
咄嗟に振り返って、槌で叩きつけようとするが、あっさり回避された。その反撃とするかのように、ウェットリザードの噛みつきが右腕に命中する。
「カイト! そいつ、たぶん凶暴化した《星霊》だから倒しちゃっていいわ! むしろ、倒さないとあんたが食われるわよ!」
「そういうのは最初に言ってよ!」
素早く足蹴りを放ち、ウェットリザードをふっ飛ばし、腕の安全を確保した。少し歯型が入ってはいるが、これならばまだ問題ない。
遠心力の力を使い、ハンマー投げのように大槌を回しながらウェットリザードへと接近していった。これならば回避されたとしても、反撃を防ぐ事が出来る。
景色は歪み、詳しくは分からないのだが、攻撃は明らかに命中していた。妙にぬめりけのある不気味な感触が何とも言えない。
次第に回転速度を緩めていき、俺は停止した。
「よし、倒し――」
若干回転に酔っていた俺はその存在に気付かなかった。
もう既に倒れていたと思っていたそれは、未だ十全でこちらを見ている。
「槌が効いていない?」
急激に恐怖を覚え、俺は混乱した。これ程の重さでぶっ叩かれて平気など、普通ではありえないのだ。
「下がりなさい!」
聞こえてきたミネアの声に従い、無意識で数歩下がった瞬間、巨大な火の玉が眼前に現れる。
激しい火炎の音の後、ウェットリザードは完全に焼き焦がされ、巨大な炭だけがその場に残った。
「い、いやぁ……ミネア、助かったよ」
「……修行はいったん中止よ」
ミネアが告げた中止決定に、俺は焦りを覚える。
「ちょ、ちょっと待って! 少し腕はやられたけど、俺は疲れてないから」
「そうじゃないわ――もういい、早く行くわよ」
詳しい説明などを省き、ミネアは俺の手を強引に引いて歩きだした。




