魔界の四天王Ⅸβ
――カイトがキリクと遭遇した頃、魔界への道では……。
「封印を中断しろ」
「その提案を受けたら、戦闘を中断すると?」
黒いポンチョを纏った集団、数にして一万人がその場に現れ、封印中の一団と交渉――いや、命令を行っていた。
「俺達にその気はないがな、どちらにしろお前らはここで全員死ぬんだからよ」
よほど血に飢えていたのか、交渉をする気も一切なく、組織の組員達は武器を掲げて襲いかかってくる。
ニオは誰よりも早く物陰に隠れて《魔導式》の展開を開始するが、ダーインの言っていた力の消耗が現れ出したらしく、その展開速度は恐ろしく鈍くなっていた。
――カイトさん、早く来てください!
ニオはそう願いながらも、敵を倒す為の一手を打つ為に全力を尽くしている。
戦闘が開始され、別の場所にいた精鋭達が数人戻っては来たが、明らかに数の不足が出始めていた。実際は体力的摩耗が原因でもあるが。
一方は天災級の怪物を倒し、消耗しきった部隊。その一方で十全、かつ戦意に満ちあふれた部隊など、比べるまでもなく天秤の傾きが生まれている。
相手が一般兵だけであればまだしも、相手もこの決戦が最後の戦いとなっていた。故に、戦力の不足は一切ない。
武器が衝突し合う戦場の中、二人の男達は向い合い、静かに佇んでいた。
「剣のトニーが、まさかそちら側についていたとはな」ウルスは嘲る。
「《紅蓮の切断者》、それは人に言えた事だろうか? 君もまた、似合わない事をしている」
黒い髪をし、ポンチョではなくマントを羽織っている男――剣のトニーと呼ばれた男はウルスと面識があるような口ぶりで話し始めた。
「過剰な接触は世の秩序を乱す。俺としてもこうした行動は取りたくなかったが、ダークメアの考えは無視できなかった」
「君もまた、人間の考えに取りつかれていたか」
「それはお前も同じだろ? 干渉を避けるのは暗黙の了解。俺が破ったとはいえ、お前も破っていては笑い事でしかない」
「話すだけ無駄だ。いつかの決着、ここでつけようではないか」
トニーは腰に差した黒い剣に手を掛けようとしたが、予期せぬ来訪者の登場で構えを変える。
「《幻惑の魔女》か」
「あなたとは闇の国での対決以来ね。もう一年前かしら」
「そんなに経っていたか……まあいい、君のような少女はこの戦いに割り込むべきではない」
露骨に目線を逸らしたトニーだが、エルズから敵意が放たれている事は理解していた為に、警戒心は解かなかった。
「あなたに勝てるのはおそらくあたしだけ、だからこの戦いの責任はあたしが持つわ」
「エルズ、お前は手を出すべきではない。実力が違いすぎる」
咄嗟にウルスは止めに入った。面識がある二人だけに、戦力の底を知っての考えだろう。
「この人の事を知っていれば分かるでしょ? 物理戦闘で倒すには、ウルスでもティアでも足りない」
そう言い、エルズは邪魂面を取りだす。
「あまり無理はするな。危険だと思えばすぐに逃げろ」
「分かっているわ」
ウルスはそのまま主戦場へと戻っていき、敵兵の撃滅を開始した。
向い合うエルズとトニーは睨め会った後、僅かに言葉を交わす。
「これが最終試験だ。私を苦戦させられる程度ならば逃がそう」
「余計なお世話ね。あたしはあなたを殺すわ」
エルズが仮面を被った瞬間、二人はその場に倒れ伏す。