火の玉少女と王宮の騎士Ⅸ
それからすぐに、俺の戦闘の音を聞き付けた兵士達が集まり、無事ライアスは捕獲される。そして俺は、城の破損代金の弁償を要求させられた。
ただ、弁償については犯人逮捕の報酬で補填され、さっそく借金生活に突入すると言う最悪な展開は免れる。
こうした俺の活躍は一日で国中に広まり、謎の連続殺人犯を捕まえた男として知れ渡ることになった。
一つ疑問だったのが、ライアスの実名が公表される事なく、謎の連続殺人犯とされていたところ。
「ライアスさんも貴族でしたからね、水の国としてもそれを明らかにはしたくないんですよ」
シアンはそう言って説明してくれた。
俺としてはライアスがとんでもない悪さをしたのだから、裁かれて然るべきと考えている。貴族だからそれで許していいものとはとてもじゃないが考えられなかった。
いろいろな厄介事が終わり、僕の宿屋手伝いも最後の日になっていた。
「いやぁ、水の国の英雄が最後まで手伝ってくれるなんて、ありがたいねぇ」
「いえいえ、人助けは趣味みたいなもんだから」
城の人間からは相変わらずであるが、こうして城下町へと出ると、僕は英雄として誉め称えられる。
ライアスの行っていた殺人の被害者になってしまうのか、という恐怖は平民間にまで広がっていたらしく、この事件の解決には感謝してくれていた。
仕事が終わり、シアンの部屋へと入っていく。
すると、案の定と言うべきか、ミネアはベッドに座り込んでいた。
「何よ」
「いや、シアンはどこかな?」
「シアンちゃんなら……お風呂よ」
「おっ、じゃあ俺も入ってこようかな。こっちに来てから冷水でしか洗えて
いないし」
ミネアが立ち上がったかと思った瞬間、ドロップキックが腹部めがけて放たれた。
苦しみ悶え、地面に倒れ伏した俺は何もできず、その場で固まるしかできない。
「シアンちゃんが入っているのよ? 変態な事は許さないわ」
「変態って、シアンはまだ小さいでしょ? 別に問題ないと思うけどなぁ」
「あ・る・の! シアンちゃんは気にするの!」
さすがにここまで言われて入る勇気はなく、俺はしぶしぶ入浴を諦めた。どちらにしても、いずれは入れてもらおう。
「……それよりあんた、なんで平気なのよ」
「えっ? なんだって」
「だ・か・ら! あの槌を使っても何ともないのってきいているのよ!」
背中に乗られ、痛んだ腹部の疼痛も余計に高まった。
「ちょ、ギブギブ! 平気平気、俺は俺のままだから!」
そこまで言うと、ミネアは立ち上がり、ベッドに戻る。
「ならいいわ。色々と面倒かもしれないけど、多分シアンちゃんの方が詳しいだろうし」
「何の話?」
「伝えておいた方がいいかしら。あの槌の正体も、あんたが平気な理由も」
ミネアは一度目を細めた後、ベッドの上で数回跳ねた。
「やっぱやめ。これについてはシアンちゃんから聞いておいて、あたしじゃ
責任負えないわ」
それだけ言うと、ミネアは赤い魔法陣を作りだして、俺を睨んでくる。
つまり、さっさと出ていけ、と言いたいのだろう。さすがに何度も話してくると、ミネアのことも分かってくる。
結局、シアンに会えなかった俺は翌日を楽しみにし、自室で眠りについた。




