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異世界からの闖入者  作者: マッチポンプ
第七章S 水の太陽
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水の太陽Ⅸ

 三つ首の狼は討たれ、その場に残ったカイトとニオは立ち尽くした。


「勝てた……」


「勝ったんですよね……?」


 次の瞬間、静寂は打ち破られ、カイトとニオは互いに抱きしめ合った。


「やったあああああ!」


「やりました! やりましたよカイトさん! 私も戦えましたよ!」


「いや! むしろ……ニオが主役」


 軽い沈黙の後、また二人は大笑いする。


「ってそれはそうと、なんでニオが火の術を? それに何で首輪が! 神器が!」

「わ、わわ……一気に聞かないでくださいよ! 私も何が何だか……」


 困惑するニオの様子に反省を示したカイトは、すぐに本題に映る。


「あの術はどこで?」


「ミネア姫から習ったんですよ。カイトさんが修行していたあの時……水の国へと先に帰ってしまった後ですね」


 送り届ける、とは言っていたが、まさか術まで教えていたとは予想外でしかなかっただろう。


「なるほど……《魔技》の正体もそれだったわけか」


「そうですね。それもこの術も、今の今までずっと勉強して、最近ようやく使えるようになったんですけど」


 修行をしていたのはシアンのみならず、まさか術も使えないはずのニオまでもが努力していたなど、才能がないと一蹴したカイトからすれば驚きの連続だ。



 それから二人は封印部隊に合流し、こっぴどく叱られた。


 しかし……。


「紅色の魔物?」


「うん。どうにも結界のようなもので存在を遮断していたらしいんだ」


「そのような存在は確認されていないが……分かった。ちょうど合流してきたダーイン様に通そう」


 どうにも、二人が戦っている間に光の国の軍と出会っていたらしい。


 火の国の指揮官を通じ、カイトはダーインと数年ぶりの再会を果たした。


「お久しぶりです」


「懐かしいな。君がまさかこの立場にまで駆け上がっていたとは、喜ばしい限りだ」


 軽く再会の挨拶を行った後、カイトは本題を切り出す。


「紅色の瞳をした魔物と遭遇しました」


「その存在は確認されている。光の国で二、三体と言ったところだが、善大王様が居なければ勝利はできなかっただろう」


「善大王さんって相当強いんですね」


 窮地の攻撃部隊を救った善大王、それだけはカイトの知るところではあるが、どのような術の使い手か、までは知らないようだ。


「善大王様は魔物を一撃で葬る術を持っている。あのお方の前では魔物は全て刹那の元に消え去る」


「……よく分からないけど、紅色の魔物は居るって事?」


「そうだな。存在隠蔽や結界についてもこちらの情報と合致している。君が事前に手を打っていなければ、奇襲で部隊が崩壊していたかもしれないな」


 自身の判断が合っていたのだと安心するカイトだが、ダーインは鋭い眼光を向ける。


「それで、どういう方法を用いて討伐した。あの場には君しか居なかったと聞くが」


「あっ、戦力としてはそうですけど、俺の嫁がいました。ニオっていうんですけど」


 ダーインは完全に言葉を詰まらせた。


「君はもう結婚していたのか」


「はい。ついこの間に」


 堅苦しい気迫を発していたダーインも、これには笑いを抑えきれなかったらしく、吹き出す。


「なるほど……本当に面白い男だ」


「あはは、まぁその時はニオが最上級の術を連写してくれたんでどうにかなったんですけど」


「最上級の術を連射……?」


 ダーインは親指と人差し指の間を顎につけると、思い悩んだように顔を僅かに伏せた。


「どうしたんですか?」


「……そのニオという女性、名の知れた術者か?」


「いえいえ、元平民の子ですよ」


「最上級術は単発使用が基本となっている。その連射ともなると、《星》ですら不可能のはずだが……まさか」


 思い当たる節にたどり着いた瞬間、ダーインの表情は変わる。


「そうですよ。神器を持っていたらしいんでっす。俺がプレゼントした奴だったんですけど」


「神器は適応者以外が使えばその身を蝕まれる。君は知らなかったのか?」


「えっ……」


 その現象はカイトも知っていた。というよりは、見ていた。


 狂魂槌を使い、暴れた者達の姿が消えた現象。あれは神器自体が持つ代償である。


 実際、ライアスもその力を利用して都合の悪い人間を消そうとしていた。


「じゃあニオも……」


「それは考えづらいだろう」


「どっ、どっちなんだよう!」


 カイトは悩んでいいのか悩まなくていいのかを迷いだしている。


「《水の太陽》が持つ能力は、因子持ちへの無作為転移。必要であればその者に力を与えるというものだ。故に、ニオという女性が《水の太陽》になった可能性は高い」


 予期せぬ発言に、カイトは黙り込む。


 まさか、ただの人間代表でもあったニオが同類になるなど、カイトからすれば全くの予測外としかいえないだろう。


「で、でも……術の連射はどうやって」


「《魔魂首飾》の効果は《導力》の供給と、全属性の変換だ。才能がない者でも、式さえ覚えていれば全ての属性の最上級術を使う事も、連射する事も可能」


「まさか……なんか俺の狂魂槌よりも強そうじゃないかな」


「君の場合は近接白兵戦特化だ。目的自体が違う」


「それは分かるけど、あんな派手で強い攻撃が無制限につかえるならなーって」


「無制限ではない。その人間がこの世界に存在できる力、それを消耗しているだけにすぎないのだ。故に、無制限二使わせれば彼女は消える。できるだけ、君が支えてやるべきだろう」


 そこまで言われ、カイトは浮いた気持ちを沈められた。「ダーインさん、また会えて良かった」


「私もだ。……君が狂魂槌に取り憑かれていなかった事に安心した」


「……取り憑かれる?」


「気付かなかった、というわけもあるまい。君の狂魂槌の能力は狂化、最終的には使用者を蝕み、その身を己が力を行使する為だけの傀儡とする力だ」


 狂魂槌の使い手ではなく、狂魂槌が使う肉体に変わる、ダーインはその意味で言う。


 事実、カイトは幾多の場面で狂人と化し、戦いを望み続けた。


 それに同調するように、神器は姿を変え、ひどく醜悪な姿へと変貌を遂げている。


「力を望むならば槌に身を任せろ。後の事はともかくとし、狂魂槌が《水の月》の能力が最大限に引き出せるような人間に変われる」


「闘争心が力を引き出すと?」


「そうだ。戦う事を是としている《水の月》、向き不向きがあろうとも狂魂槌があれば等しくその力を発揮できる。選ぶかどうかは君次第だが」


 いずれ選択を迫られた時、この情報は道を大きく二分させる、カイトはそう感じ取った。


「私から言える事はもうない。神器は人の心を変えると同時に、人の心を映す道具でもある。それを忘れるな、とだけ」


 そう言い残し、ダーインはその場から離れていく。


 カイトの質問から遠ざかるべきと考えたのか、最後の決断は自分の一存だけで決めさせるべきと考えたのか、どちらにしても奇妙な話ではあった。

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