水の太陽Ⅲ
「本当に大丈夫かな……」
善大王に対する不安に駆られながらも、カイトは決意を固めて歩み出す。
目的地はラグーン王の宿泊している部屋。
まだ眠っていない事は分かっていたらしく、迷惑にはならないと判断しての行動らしい。
「どうぞ」
扉を開けると、そこには以前のようにスーツを身にまとったラグーン王が座っていた。
「何か用ですか?」
「……すみませんでした!」
カイトは開幕から頭を下げ、すぐ正座へと移行すると同時に土下座をやってのける。
「な、何の事で謝罪を……」
あまりの突拍子のない発言と行動に、ラグーン王も落ち着きを失ってしまう。
「俺はライカを守れるかもしれなかった立場なのに、こうして救う事もできずに……本当にすみませんでした」
ようやく話の全容をつかんだらしく、ラグーン王は常々より発している王としての雰囲気に戻った。
「気にしなくてもいいですよ。あの子を戦力に数えたのは私です。その責任は私にある」
「ですが……」
「現状、私の不満はライカが捕らわれている事。それ以外の過去はすべて忘れて話しましょうか」
過ぎたる事はどうしようもできない、それを理解しているからこそ、ラグーン王は目先の事ばかりを見ている。
「カイト氏の管轄は魔界の封印。そちらが魔物の手を止めてくれれば、討伐部隊の動きも軽くなります。ライカを救う為にも、頭を下げたいのはこちらの方ですよ」
そこでようやく、カイトも覚悟を決める事ができた。
「向こうは任せてください。命に賭けてでも封印は成功させますよ」
「それは頼もしいばかりですね」
しばらく沈黙が続いた後、カイトは別の謝罪案件を思い出す。
「フォルティス王の無礼は、俺からも謝ります。許してもらえるとは思いませんが」
「許す気はありませんよ。ですが、そうしなければ世界は一つになりません。この場では善悪、遺恨も全て捨てなければならない、善大王様はそうお考えなのでしょう」
ラグーン王と同じく大切な人を失ったからこその吹っ切れなのか、それとも善大王は元々このような人間だったのか、それはカイトには知り得ない情報だった。
「何はともあれ、お互いに頑張りましょう」
差し伸べられた手を見たカイトは、頭の中で一つの単語を思い浮かべ、手を握り返す。
「大切な人を守る為に」
ハンドシェイクは行われたが、ラグーン王は軽く驚いたような顔をした。
「終戦、と言わないのは驚きましたね」
「俺は俺にとっての大切な人を守る為に戦っているんですよ。そうするには終戦させなきゃいけない……優先順位度が違うんですよね」
互いに終戦以上に大切な者を知っているからこそ、二人は共感しあい、握手の力を強める。
翌日、ラグーン王とフォルティス王を擁す善大王は水の国を発ち、次の目的地へと向かっていった。