火の玉少女と王宮の騎士Ⅶ
シアンからライアスのいる部屋を聞き、ノックを数回してから返事を待たずに扉を叩き開ける。
「なんだ、無礼だぞ」
「ライアス……いや、お前が犯人だったんだな!」
「な、何を言う」
かなり動揺しているらしく、その場から動こうとすらしなかった。
「お前が現れてから事件は起きた。つまり、お前が犯人に違いない!」
「馬鹿は程々にしなさい!」
強烈な飛び蹴りを浴びせられ、俺は顔面から床へと叩きつけられる。
「ライアス様、申し訳ありません。平民がご無礼を――」
「まったくだ。だが、君こそ名乗りもせずに人の部屋に入るとは、見逃せるものではないな」
声の調子、いきなりの暴力でミネアが来ている事は分かりきっていた。ただ、どうして敬語を使って話しているのだろうか。
「私は火の国の姫、ミネアです」
「な、るほど……お姫様に頭を下げられて、それを突っ撥ねる程、私は無神経ではありませんよ――その男と違って」
ライアスが高笑いをあげながらそう言うと、ミネアはらしくもなく「無理を言って申し訳ありません」などと謝罪の言葉を述べていた。
この男が犯人だから、そのように謝る必要なんてない。きっと部屋を漁れば、すぐにでも見つかる事だろう。
俺は意識がはっきりしてきた時点で立ち上がり、部屋の奥へと侵入した。
咄嗟にミネアの制止する声が聞こえたが、ここで調べておかなければ隠すだけの時間を与えてしまう。
クローゼットを開けた瞬間、俺は見覚えのある薄茶色のローブと、細剣を発見した。
「若造が、ミネア姫の行動を無為にするつもりか」
「違うね……ほら、俺の言った通り、ここに動かぬ証拠があったよ」
「この色のローブであれば、誰でも持っているだろう」
「それもそうだね。でも、この細剣は見間違えない、こんな豪華な装飾のある物を一般人が手に入れられるはずがない」
それまで怒り出しそうだったミネアも、俺の意見を聞いてか警戒の姿勢を作り出した。
「ライアス様、この男の言った事は本当でしょうか」
「まさか、ミネア姫はこのようなごろつきの言葉を信じているのですか?」
恰も自分は犯人ではないと言いたげに、ライアスは壁に立てかけられた長剣を俺に突きつけてくる。
「それに、私の主力はこちら。王宮付きの騎士である私の腕は、城の中にいる者に聞けば分かるだろう」
細剣の卓越した技術を持っている、それが犯人の特徴であるならば、確かにこの言葉は反証になり得た。
「カイト、ライアス様がそう言っているのだから、謝罪しなさい」
「いや、俺は絶対に謝らない。ライアスは犯人出間違いないんだ」
良くも悪くも、俺は単純である。だからこそ、見えてきたヒント一つで、犯人を特定しようとしてしまう。
ただ、どちらも譲らずで話が進まず、膠着状態になりつつあったところ、突如として叫び声が聞こえた。
ライアスとミネアをその場に残し、俺は全速力で走って斧を取りに行き、声の聞こえてきた場所へと向かう。
到着したエントランスでは、数人のメイドさんや兵士達が遠巻きに見ていた。
「何があったの?」
「それが……」
一人のメイドさんが指さした方向を見ると、槌を持った兵士が無差別に襲いかかり、兵士に怪我を追わせている様が目に映り込む。
「みんなは逃げて! ここは俺が引きつける」
俺の身分が知れない、そして持っている武器が完全に伐採斧でしかない事で疑惑の目を向けられるが、この場に多くの人が残れば厄介だ。
「早く!」
再度言うと、集まっていた兵士やメイドさんは退散していく。
斧をもったまま、槌を振り回す兵士へと攻撃を仕掛けた。
大きさはさほど変わらないはずなのだが、斧と槌の衝突で生まれたショックは俺だけに襲っている。
ただの一撃だけで大きく仰け反り、相手はというと身じろぎすらしていないという始末だ。
「早く、君も逃げて!」
「か、かたじけない」
傷を負っていた兵士はびっこ引きながも、槌持ちから距離を取っていく。これで犠牲者が増えることはなくなった。
俺が異世界から来たなら、こうした場面でもきっと乗り切れる。
根拠のない理由だけで俺は自分を奮い立たせ、斧で攻撃を仕掛けようとした。
しかし、突如として銀色の剣閃が伸び、槌持ちの兵士は首に鋭い一突きを受ける。こうなってしまえば、間違いなく一撃死だ。
振り返ると、そこには薄茶色ローブを羽織った男が立っている。
俺の予測ではライアスのはずだが、ならばなぜ助けてくれたのだろうか。
「なんで助けてくれたんだ?」
「…………」
男は黙ったまま俺に刺突を放ってくる。
当たり前だが、こうした攻撃手段を仕掛けてくると把握していただけに、俺は素早く斧を盾代わりにした。
幸い、広範囲に広がっているだけあり、特に正確性がなくとも攻撃は弾かれていく。ただ、それで攻撃が終了するわけではない。
怒濤のように突きが打ち込まれ、次第に斧からは軋むような音が聞こえてきた。
刹那、それまでとは違う、鋭く強烈な突きを打たれ、斧は砕かれる。
危機を覚え、逃げ出したくなった。
だが、全員を逃がしてしまった以上、ここで俺がくい止めなければ被害が広がってしまう。
兵士ならば、多少は持ちこたえるかも知れないが、非戦闘員などに当たってしまえば目も当てられない。
決死の覚悟をし、俺は刃の砕かれた斧を振りかざし、薄茶色ローブの男へとたt向かった。




