カルテミナ大陸攻略戦Ⅴ
――時を同じくして、カイトの船では。
「前見た夢は、この時だったんだ」
突如として聞こえたシアンの声に返答をだした後、カイトは追憶に浸る。
本来ならば自分が助けに行くべきだったのかもしれない、そう思いながらもカイトは敢えてミネアを送った。それは、今の救いではなく、未来に続く救いとしたかったが為。
そして何より、今のカイトには役目がある。
「砲撃が行われません! 突入しますか?」
「攻撃が止んでいるのか? ……遅れを取るな! 今すぐ本陣へと切り込むぞ!」
元の場所まで戻ってきたカイトは、カルテミナ大陸からの攻撃中断を見据え、すぐさま進軍を宣言した。
「なんか、雰囲気変わってきていませんか?」
「気にしなくて良いよ! 今のは俺もやりすぎたと思っているから!」
ついつい気合いを入れすぎた事が原因のようで、今のような返事ではいつも通りの口調に戻る。
「それにしても、ライカが単騎で敵の兵器を潰すとはなぁ」
「さすがは《雷華の電撃姫》ですね。この戦争中、公式で確認されている活躍は彼女が最上位ですから」
「ライカの電撃姫? 名前がそのまま付いているなんて珍しいね」
補佐の隊員は首を振り、耳元に口を近づけた。
「雷の華で雷華ですよ。もっぱら、雷の火で雷火ですけど」
戦場を駆ける可憐な雷使い、というのがこの二つ名の由来。ただ、本来は彼の言ったままに雷火、という落雷による天災の事を指している。
「なんか、物騒な名前だね」
「そりゃもう。当たり構わず雷撃を打ち放ち、その犠牲となった味方兵は数知れず――という話ですからね。千人殺せば百人は感電していると言われる程ですし」
カイトは心の底から、自国の《星》がシアンである事を喜んだ。そして、心底ほっとしていた。
「間もなくカルテミナ大陸に接触します! 俺達が一番乗りですよ!」
威勢のいい声がとどろき、カイトは鼓舞するように続く。
「全員で突っ込んで司令官を倒す! 切り込み隊長は俺が務めるから、皆は安心して付いてきてくれ!」
カイトの大胆にして勇敢な宣言により、隊員達からは歓声が上がり、全員が心を一つにした。
船が大陸に密着する寸前、魔力探知に長けた者がカイトに耳打ちをする。
「ライカ姫の魔力が感じられません。これは……」
「ライカが死んだ? まさか、どうせ何処かで気絶しているんだよ。そうじゃなきゃ攻撃が止まるはずないしさ」
同類が敗北するはずがない、それが《星》ともなればなおさら。カイトはそれを信じて疑っていなかった。
しかし、完全に疑いが捨てきれるはずもなく、どこかで気絶しているならばそれを救わなければならないのも事実。
「……皆、聞いて欲しい! 俺はライカ姫の捜索に向う」
「またですか。あんたお人良しすぎるよ」隊員から声が上がる。
「そうだね。本当ならさっさとケリを付けて、その後探すのが筋だと思う。でも、そうしている間にライカの身に何もないとは限らないんだ」
静まり返る船内で、カイトは大きく深呼吸をし、シアンの考えを可能な限り投影した。
「本丸の攻略はまだまだ先だよ。ここは所詮スタート地点。就職や入学だって、やっただけじゃしょうがない。そっから先が大事なんだ」
日本風な比喩だった為、すぐにカイトは切り替える。「つまり! ダークメアとの戦いにはライカは必要になってくる。ここで救わないと、その最後の一手分で負けるかもしれないんだ!」
必死の呼びかけに対し、隊員達は踵を返して船の中へと戻っていった。
カルテミナ大陸に上陸まで後僅か。カイトは一人で動くべきか、全員に足並みを揃えて作戦通りに動くべきかを考える。
しかし、そんな事は意味がなかった。結局彼の根っこは、一切変わっていない。
「ライカ、絶対に見つけだすよ」