カルテミナ大陸攻略戦Ⅲβ
――同刻、東部戦域にて。
「これが巫女の力か……」指揮官の男は死の寸前に呟く。
指揮官を討ち取ったミネアはすぐに小型船舶に戻り、炎上する船から逃げていった。そうしてミネアはさらに東側の部隊に向って進みながら、敵の船を次々と沈めていく。
――何よ、修行していると思ったらやっぱりじゃない。
『《紅炎の舞姫》、西方の防衛に向ってください』
二つ名で通してこそいるが、紛れもないシアンの通信だ。
――本当にくだらない。そうやって頭で考えている限り、シアンは弱い存在に過ぎないわ。
幾度としてシアンを守ってきただけに、ミネアの意思は変わらない。
「敵襲! 敵襲! ただちに――」
怒涛のように敵を焼き払い、船を撃沈させる。その繰り返しを続け、頭の中に響いてくる通信を無視しようとした。
他者がどうなろうとも、シアンの命令など聞いてなるものか、と意地を張り続けたミネアは自分の方法で戦いに参加していく。
戦闘の最中、予期せぬ訪問者に困惑し、味方船の衝突事故や飛び火による発火などが発生し、味方側にも混乱をもたらしてしまう。
――その分、あたしが動けばいいわ。
などと考え、シアンの命令を相変わらず無視した行動を取ったミネアは反省もせず、そのまま別の場所へと移動していく。
巨大イカ型の魔物に対応していた数隻の船に辿りついたミネアは、その支援として舞いを踊りだした。
最初こそは低火力の術が乱射され、有り難がられたものだが、終盤では高い威力の術ばかりが撃ち込まれて味方船まで被害を受ける有様に。
無事に魔物の処理が終わった頃には、一つの船が沈み、割の合わない交換となってしまった。言うまでもなく、シアンの作戦通りならば犠牲はもっと少なく済んだのだが。
『《紅炎の舞姫》、命令に従えないと言うのであれば戦線から離脱してください』
「それであたしが止まると思う? 従ってほしいなら、言う事があるんじゃないの?」
相手に声が届くと知っていただけに、ミネアは言った。
しかし、いつまで経っても返答はなく、ミネアは自分の相手をしなくなったのだと察する。
――もう良いわよ。シアンなんかには絶対に従わない。あたしはあたしなりに勝手にやるわ。
命令無視を続行し、敵艦の四隻目を沈めようとした時、そんな頭の中の迷いもあってミネアは失敗を犯した。
術の破壊力に制限を付けず、一撃で船が完全に崩壊する威力で放ってしまったのだ。結果として、その体は自然に落下していき、海へと向う。
――しまったッ!
咄嗟に術を発動しようとするが、明らかに間に合わない。
体が海に接触した瞬間、ミネアの体は一瞬で脱力し、展開し掛けていた術式も全て崩壊した。
海面に叩きつけられた事により骨の数本が砕かれ、ただの一撃でトラウマがなかったとしても泳げないような状態に至ってしまう。
――息が……続かなっ……い。
次第に意識は遠のき、ミネアは目を閉じた。