火の玉少女と王宮の騎士Ⅵ
「で、俺はなんで呼ばれたのかな」
「シアンちゃんがあたしの約束をすっぽかした理由を聞きたいの、分かるわね?」
シアンの部屋なのだが、なぜか俺は椅子に縛りあげられ、意地の悪そうな目をしているミネアに尋問を受けていた。
「ライアスっていう貴族とお茶を飲みに行ったよ」
「なんで?」
「俺がぶつかって、ライアスに犯人と間違われて、その誤解を解く為にシアンが来てくれたんだ」
「それで?」
かなり素早く、間髪入れない速度でミネアは続きを要求する。
「一緒にお茶を飲んだら、俺の粗相を見逃すってさ」
「やっぱりあんたのせいじゃない! 今日はシアンちゃんとお出かけに行く予定だったのに!」
「ごめんな……じゃあ、俺が代わりについていくよ」
「代わりになるわけないでしょ!」
ミネアの上段回し蹴りを顔面に受け、椅子ごと俺の体は転げた。
「ふんっ、もういいわよ……一人で遊びに行ってくるから」
ミネアが扉のノブに手を掛けた瞬間、俺は急いで声を出す。
「ねぇ、起こしていってよ。これじゃ起き上がれないんだけど」
「シアンちゃんが帰ってくるまで待ってればいいじゃない。あたしの楽しみを奪った罰よ」
それから半日ほど待つと、シアンが現れた。この時間中は何もできず、何も食べられずで衰弱しきっていたがシアンにそんな姿は見せられない。
「カイトさん、何をやっているんですか?」
言葉だけなら蔑んでいるようにも聞こえるが、シアンはどうにも本気で気になっているようだ。そこまでの経緯は色々と話しづらい。
「修行かな」
「カイトさんの世界では不思議な事をするんですね」
こういう時は子供の無垢さが怖い。というよりも、心に深く突き刺さるような感じだ。
「どう? 犯人は見つかった?」
「それが――」
椅子から解放された俺は改めて椅子に座りなおし、シアンの話してくれた内容を再確認する。
「今度は警備隊員が」
「ええ、それもまた暴走していたそうで……今回は五人の警備隊員さんを攻撃した後、カイトさんが言った薄茶色ローブの人が現れ、倒したそうです」
倒した、と言っているが、おそらく殺したのだろう。
いきなり暴れ出す者も悪いが、そんな時に限って現れる薄茶色ローブも何者なのだろうか。
「明日は攻撃を受けた二人を検査して、斬撃痕から犯人を特定する予定です」
「……そんなことできるの?」
「はい、情報が公開されている人に限りますけど、皮膚の欠損具合から使い手の腕がどれくらいあるのかは分かると思います」
低文明の世界と思っていただけに、この検死解剖や死体検証ができるなどと聞いた時には驚いてしまった。
それにしても、機械もなく、どのようにして仔細な判断を付けるのだろうか。
次の日の朝、自室に訪れたシアンから驚愕の事実を聞かされていた。
「兵士と警備隊員が消えた?」
「はい……今日の早朝には始めようとしていたのですが、いつの間にか消えていたみたいで」
そうなれば、城の内部から誰かが持ちだした事になる。同僚が解剖される事を忌避し、情けで埋めに行った可能性も否めないが、おそらくは犯人の仕業だろう。
「誰かが持ち逃げしたんじゃないかな?」
「それが、検査用の部屋は誰も入れないはずなんですよ。十人の術者さん達が個々人の封印を施しているので、内部への侵入にはその全員の協力が必要で」
「なるほど、じゃあ全員が協力したんじゃないかな? 貴族とかが頼めばやってくれるでしょ?」
これでも真面目に考えているが、そうとしか思えなかった。人を疑っているというよりは、それ以外の方法が出来ないのでは、と考えている。
「術者さん達は騎士さん達と同じで、貴族ですから。全員が全員、名誉を捨てて共犯に及ぶ可能性はありませんね」
「なるほど……」
結局答えが見つかる事はなく、俺は宿屋の手伝いへと向かった。
これまたいつも通りに仕事をこなし、客を捌いていく。これでも手慣れて来たらしく、若干の休憩を取れる程度の余裕は出来ていた。
「えっと……三名が予約で――ライアスはチェックアウトか」
どうやら、ライアスは昨日までここに泊まり込んでいたらしい。
俺が会ったのが昨日である事を含めて、ようやく都合がついたという事なのだろう。
しかし、そうやって考えてみると、怪しいのはライアスではないか。人を疑うのは好きではないが、あのようなタイミングで出現したとなると、それ以外には考えられない。
はやる心を抑え、仕事が終わった途端に俺は走り出した。




