受け継がれる精神Ⅷ
「陸上攻撃部隊は今日を持って廃止する」
「……そんな事をして大丈夫なのかい?」
謁見の間に召集されたカイトは、フォルティス王の宣言を直接耳にした。
「とある情報から火の国から協力が取れたんだ」
「ん……それでどうして地上を切ったの?」
「言うまでもないでだろう? ここで小競り合いをしても決着はつかない。だからこそ、闇の国に攻めいるのさ」
突飛、というよりは滅茶苦茶な宣言ではある。
しかし、事実として、この方法でないかぎり前には進まないのだ。
「それはそうと、何で俺に?」
「陸戦部隊の者とは面識もあるだろう? だから、海戦部隊になった後は君の指揮下に入れたい」
「なるほどなぁ……でも、王様はどうするの? あなたは戦う事を是としているって考えていたけど」
「それに間違いはない、正解だ。でも、一つ二つ違っている事があるね」
勿体付けるフォルティス王に苛立つ事もなく、カイトは静かに待った。
「僕は陸戦の方を指揮する。今度は防衛部隊の所属となるけど」
「防衛部隊? 王様が?」
とても無礼な発言ではあるが、一応は将軍格の権力があるだけにお咎めはない。
「件の敗戦、あれは僕の失策でもあった。他所者や部外者の介入を持ってして、多くの犠牲者を出した事には後悔している」
「これからは首都防衛に専念すると?」
「そうだよ。戦争が終わる前に国が滅びてしまえば意味がない」
「他の小さな村々はどうなるんだ!」
アランヤの悲劇を覚えているだけに、カイトは憤った。
「事前に再度勧告は出しておいたよ。従うかどうかは彼らの自由さ」
握った拳を振るわせながらも、カイトは手をおろす。
これでもかつてのフォルティス王と比べれば、慈悲に満ちた行動だったのだ。それを叱責しても仕方がないと判断している。
「なにはともあれ、この海上戦は重要となってくるから、今まで以上に期待しているよ」
「言われるまでもないね」
相変わらず仲違いはしているが、カイトも一つ成長していた。表に出すような怒りも感情も最低限に抑えられ、安定している。
そうして謁見の間を出たカイトは、唾を飲み込んでから自室へと入った。
「カイトさん、お帰りなさいっ!」
「……ああ、ただいま」
いつもと変わらないニオの明るい表情に頬を緩ませ、カイトは心の底から安心する。
「答えは見えたんですか?」
「そうだね、俺もう迷ったりしないよ。大切な人を守る為に、この戦争で戦う。特にニオ、君だけは絶対に守るから」
強い覚悟を表しながら、カイトはニオを直視した。
しばし見つめ合っていると、ニオの方が先に笑い出し、カイトを指さす。
「な、なんだよう……これでも俺は真面目にだね」
「分かっていますよ。でも……私はカイトさんの妻なんですから、それは当たり前の事ですよ」
「それ、自分で言う?」
「遠慮しないのが私の良さですから」
一度沈黙した後、二人は笑い合った。
迷いも悩みも苦しみも、全てはどこかに繋がっている。少なくとも今回、カイトは自分が大切にして、守りたいと願った者を再確認できた。
――ブラストさん、ライアス……二人の願いとは違うけど、二人の意志だけは継ぐよ。
人々を救うではなく、終戦だけを目指すだけでもなく、人々を守る為だけに戦争を終わらせる、それこそがカイトの新たなる目標となる。
「じゃ、早速だけどご飯をちょうだい」
「はいっ、すぐに用意しますよ――あなた」
夫婦としての会話を交わした後、ニオは部屋から出ていった。