受け継がれる精神Ⅶβ
――数日前、旗艦内にて。
「私にカイトの説得をしろ、と?」
「はい。ライアスさんが言ってくだされば、カイトも目を覚ますかもしれません」
シアン直接の頼みと言う事もあり、ライアスは断るような雰囲気ではなかった。
しかし、だからといって快諾するわけでもない。
「せめて理由をお聞かせ願いたい。あのようなへたれた男を使う必要はないと考えているのだが」
「魔物との戦いにおいて防具が無意味。命も一薙で消えていく。大切になってくるのは、多数の力を集約した一人なのですよ」
「それがあの男だと?」
「はい、それは間違いありません。精神的な脆さは散見されますが、それでも実力は今までの実績からみるに明らかです」
「なるほど、さすがは司令官様――抜け目がない」
皮肉とも尊敬とも取れる呼称を述べるライアスに対し、シアンは表情一つ変えずに答える。
「いえ、節穴ですよ。ライアスさんの言うとおり、カイトの運用は合理的ではありません。ですが、それはミスティルフォード全体での事。水の国としての国益を捉えれば、確実に必要となってきます」
抜け目がない、というライアスの評価通り、シアンは彼の好みそうな餌を垂らした。
「祖国の為……それに偽りは」
「当然、ありませんよ」
「フ……ならば従いましょう。我が主」
そうして、ライアスはシアンに要求された通りに説得を図った。結局、カイトの心を動かす事になったのは、死の間際に告げた彼の本心だったわけだが。