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異世界からの闖入者  作者: マッチポンプ
第四話S 雨中の敗走
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雨中の敗走Ⅷβ

 ――同刻、主戦場にて。


「ライアス、腕は落ちていないようで安心した」


「だが、その腕も死ねば意味はないでしょう?」


 部隊内に死者は出ていないが、戦闘不能者は一割を超えている。戦術的には敗北の一歩手前と言ったところだ。


 あの後、後方から追撃を続けていた魔物が追いつき、優勢は一気に崩れさる。


 幸いだったのが、攻撃部隊の戦闘経験があった事。魔物と対峙しながらも各個撃破を続け、どうにかここまでは凌ぎ切った。


 しかし、それも限界に達しつつある。


 そんな時、空に流星の如く、橙色の光が煌めいた。


その光の尾を引いて現れたのは、白い法衣に身を包んだ一人の男だった。


「フィアから事情は聞いていたが、ここまでひどいとはな……」


「善大王……何故ここに来た?」フォルティス王は唸るような声で言う。


「何故? そりゃ救いを求める者がいるからだろ」


 善大王は軽口で返すが、フォルティス王にいつものような余裕はない。


「くだらない善意、昔はそう返されたが、少しは気持ちが変わったか?」


「馬鹿な、変わるはずがないじゃないか。戦うべき者こそが優遇されるべきだ。弱者はそれを支えるだけで十分」


「その結果がこれだ。もっと民から愛されていれば、冒険者からでも支援は来ていたはずだが……それもたられば(・ ・ ・ ・)か」


 突然の襲来に驚いていた敵兵達も攻撃を再開し、武器を構えた。


 すると、橙色をした光の線が彼等の最前線に向って振り降ろされる。


 大地は抉られ、攻撃の為の一歩を進めようとしていた敵兵達は竦み上がり、相手の侵攻は完全に停止した。


「いまライトが話しているの。邪魔するなら、そのまま消し去るから」


 カイトの世界で言う、アラビアン風の儀式衣装をまとった少女が遅れて現れ、警告を発する。


「おっ、早かったなフィア」


 長い金髪、白い肌、空色の瞳。善大王の口からも出ていた、フィアその人だ。


「《聖極の退魔官》と《大空の神姫》が救援に来てくれたぞ!」


「これなら勝てるかもしれない!」


 否定的なフォルティス王とは裏腹に、攻撃部隊の面々の士気は劇的に向上している。


 善大王と《天の星》という、この世界においての最高位に位置する者達だけあり、たった二人だけで大型魔物の大群を撃ち払う事は造作もない。


「にしても、フィアのその正装は露出度高いよなぁ」


 一応は《天の星》としての正装であり、儀式や祭典では使われている衣装だ。


 しかし、橙色に染色された若干透けている薄い布が所々に使われており、布の面積も圧倒的に少ない。


 最高権力者の発言としては異常だが、一般的にはその通りな意見とも言えるだろう。


「まぁ、少しは恥ずかしいけどね。それはそうと、もう片付けちゃっていい?」


「出来れば無力化しろ。それと、余力があれば怪我している奴を治療してやってくれ」


「うんっ! ライトがそういうなら両方とも全力でやるからね」


 多勢に不勢の戦場においても、フィアは善大王の腕に抱きつき、甘えるような仕草を見せる。


「こちらは善大王の意見を汲む気はない」


「分かっているさ。でもな、少なくともこの場は収めなきゃならない。政治的な決着はまた後でも出来るさ」


 フィアは周囲に《魔導式》を展開し、次々と敵を倒していく最中、治療も着実に行っていった。


「ま、少なくともここは任せておけよ。魔物を退治するのも、善大王の定めだしな」


 鈍色の瞳をした魔物――おおよそ二十体程は見えるが、善大王は一切怯える事もなく、素手で歩み寄っていく。


「フィア、今は使っていいよな?」


「……聞くまでもないよね? 使ってほしくないけど、戦争中だし」


「念の為に確認しただけだ」


 小型の羽虫型の魔物が接近してきた途端、右手甲に刻まれた紋章が赤く煌めいた。


「《救世(セイヴァーリパルス)》」


 その一声の後、白い絹糸のような光が右手を起点に幾つも放たれ、繭を構築するように全ての魔物を包み込む。


 刹那、脈動するような閃光が輝き、光の線は魔物と共に対消滅していった。


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