雨中の敗走Ⅳβ
――同刻、雷の国領土内。
「だいぶ危険な賭けですが、成功すればかなりの利ですよ」
「言うまでもないね。兵装や兵の錬度は低くても、雷の国を入手できれば水の国の優位は大きくなる。終戦させるも、首都を守りきるのも造作もない事になるわけだ」
フォルティス王の率いる攻撃部隊は今、雷の国へ攻撃を仕掛けようとしていた。
この戦争中、闇の国や魔物という共通の敵を持ちながらも、フォルティス王は野心を持って動いている。
戦争が終わるだけではただ消耗しただけ。
ならば、この戦争を利用し、雷の国の領土や技術まで奪い取ってこそ価値がある。そういった、明らかに場違いな考えを持っていたのだ。
しかし、考えこそは間違っていても、行動自体はあながち全て否定できるわけではない。
この戦争、勝利する為には個々に動くわけではなく、全員が協力して動かなければならないのだ。それについては、シアンも言及している。
手っとり早い行動としては、相手の国を制圧し、自分の所有物とする。これだけで、二つの国が一つの個体となるわけだ。
確定した一命令系統だけで人数が倍加できれば、戦力や犠牲者数は明らかに軽減できる。手段こそは卑劣であるが、先見の目を持つ一手とも言えるだろう。
「ですが、防衛部隊にカイト氏を入れたのは……」
「こちらの陽動でしかない部隊――全滅すら止む無しという場所で生き残れるなら、再度使うだけの価値がある」
フォルティス王は言い、口許を緩ませる。「つまりは、ケジメだよ」
《水の月》という最上級の手札を切ってまで、フォルティス王はこの作戦を成功させようとしていた。
戦争を終わらせる為ではなく、水の国が世界最強となる為だけに。