戦火の傷跡Ⅶ
今回は魔物と闇の国の連合部隊だったらしく、変則的な動きに苦戦を強いられていた。
「カイト君、魔物の処理は一時停止だよ。こいつらを片付ける」
「オーケー」
カイトは得意の衝撃波で次々と敵兵をなぎ倒していき、時折味方を守る為に割り込みを行う。
そうした戦いは所詮制圧戦にすぎない。言い得て妙だが、この対人戦においてカイトは範囲攻撃を使える人間でしかなかった。
そもそも、この時代になるまで魔物のような存在は現れていない。
故に、誰もが大型の攻撃手段を捨て、人間を制圧する為後からを身につけた。
騎士の大半が術も使えるにもかかわらず、ライアスが剣術特化だった事、地位が高かった事もこれが影響している。
術の上位に当たる百番台、ここまで行けば大量虐殺も可能な次元ではあるが、逆に無駄が多すぎるのだ。
鍛え上げ、練度を向上させれば下級の十数番台ですら人間を制圧し、殺す事も難しくはない。
それすらも、極めた剣術の方が優れている上、攻撃速度も圧倒的に早いのだ。無用の長物といっても過言ではない。
現状ではその定石通り、一人の兵が敵兵を一人ずつ倒していき、敵勢力を次第に縮めていた。
ただ、この《倒す》の意味はカイトのそれとは違う。
命を奪う、奪命を目的とした攻撃。後に養う必要もなく、敵戦力に加わる可能性を零にする実益的行動。
カイトは魔物を容赦なく討滅するが、人間は気絶させるだけで殺生は行っていない。
「魔物の足止めを任せられるかな」
「言うまでもないね。じゃあ、ここは任せから」
魔物の攻撃が強くなった時点でカイトは戦列から外れ、単騎で大型魔物の相手を請け負う。
あの時こそ激情任せて勝利したが、そうでなくとも彼ならば一人で魔物を倒す事も難しくない。
痛覚遮断、治癒力向上、そして圧倒的なまでの察知能力。
それらの近接戦特化型の能力を持つからこそ、彼は同類の中でも魔物に対しては強い。
殺しの実感が薄く、絶対正義の元に戦える状況において、彼の敗北はあり得ないといっても過言はないのだ。
衝撃波での牽制から槌での一撃、脚部に損傷を与えて
カイトがこの戦いの最中に知った事は多い。その一つがこの戦い方だ。
魔物は虫型が多い一方、大型種では二足の悪魔型の個体が大半を占めている。
その形状から、人体の弱点が共有されているかのように思われるが、実際は異なっていたのだ。
その中で唯一共通されていたのが、頭部。この部分に関しては狂魂槌の一撃で有効打となり得る。
倒れた魔物を目標に、カイトが何連続もの打撃を打ち込み、最終的には魔物を討伐した。
転倒した後も攻撃は続き、回避しながらの戦闘だったという事もあり、人間側の攻防は決着が付いていると思いこんでいた。
だが、カイトの視界には未だとして闇の国の人間が映り込んでいる。
その数が減っているどころか、増えている時点でカイトは悟った。
増援部隊が訪れたのだ。それもこちらを正面衝突で打ち負かす程の人数。
この戦争始まって一度の敗北も喫していない部隊だけあり、未だ死者は現れていない。
それでも攻防はほとんど拮抗し、このままでは消耗したこちらが不利になると、カイトの目を持ってしても明らかだった。
魔物との戦いは決して楽ではなかったが、それでもカイトはこの状況をひっくり返す為、戦列へと加わる。
それは幸いだったのか、それとも不運だったのか。
カイトが加入したのと同時に部隊は決壊していき、次々と死者が出てくる。
一騎当千のカイトでも守る戦いができるわけではなく、こうした犠牲者の叫びや死に様からは目を背けるしかなかった。